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呪いを解く方法を考えてみた

 あれからレイさんたちは、森の精霊の呪いを解く方法を探していたが、なかなか良い方法が見つからないと言っていた。

 私は、森の精霊の呪いを解くために、呪い自体を具現化するアイテムを精製しようと考えていた。

 

 地下の書庫にある本の中に、そういうアイテムの記述があったことを思い出したからだ。デメリットは、呪いが強ければ強いほど、強力な魔物として具現化されてしまうこと。そして、精製するための素材の入手難度が高いこと。

 私は、魔法の鍛錬を兼ねて、森の外の世界へ素材を集めにいくことに決めた。


「マチさん、ナルカ。私、森の精霊の呪いを解くためのアイテムを錬成してみようと思うの。だけど……」


「森の中だけじゃ素材が足りないんでしょう?」


 さすがマチさん。私の考えてることをいつも見透かされてしまう。


「いいわ。いってらっしゃい。ナルカもそろそろ外に出たいんじゃない?」


「うん、実はボクもそろそろアリサと森の外に行きたいなと思っていたんだ」


 ナルカは嬉しそうに私を見つめている。


「それなんだけど、私は今回、マチさんとも一緒に三人で素材集めをしたいの。呪いを解くアイテムの素材には、入手がとても難しいものもあって、マチさんの力が必要になると思う」


「私はいいけど、このお家も守らないといけないからねえ。ようやくアリサの錬金も様になってきたのに、泥棒さんにでも入られたら大変よ?」


「そこはレイさんにお願いしようと思う。森を見回る時に、一緒にこの小屋も見に来てもらおうと思ってるの。一応、小屋の出入口には全て、私の魔力を注がないと開かない特殊な鍵を作ってつけておいた。もしアイシャさんが帰ってきたとしても、錬金術師の彼女なら簡単に鍵を壊して中に入れると思う」


「……わかったわ。あなたがそこまで覚悟しているなら、私に断る理由なんて無いものね。一緒に行きましょう」


「ありがとう、マチさん」


 呪いを解くアイテムを作る素材を集めるために三人で冒険することをレイさんに相談したら、冒険している間はレイさんたちが小屋を見守っていてくれると約束してくれた。森の精霊を落ち着かせるための鎮痛薬も、三ヶ月分は精製出来たので、レイさんに渡しておいた。必要な素材が集められなくても、薬が切れる前には一度小屋に戻るつもりだ。鎮痛薬の素材も無くなってしまったので、今回の冒険でそれも集めてこようと思っている。


 ひと段落したところで、私はナルカに話しかけた。


「ねえナルカ。私たちが最初に探索にいった洞窟、覚えてる?」


「もちろんだよ。あの時は大きな熊の魔物に襲われて、危うく死ぬかと思ったからね」


「森の外に行く前に、もう一度あなたとあの洞窟を探索したいんだけど、どうかな?」


「ボクは構わないよ」


「それじゃあ、今から行ってみましょう」


「あの頃のボクたちとは違って、かなり強くなったからね。今ならあの熊が来ても倒せると思う」


「過信は禁物よ。だけど、今の私なら正直負ける気がしないわね」


 私は、前回ナルカと冒険をして回収に失敗したこの小屋の南にある洞窟の蓄光石を再び採りにいくことにした。蓄光石は呪いを解くアイテムの素材の一つだったからだ。私は前回冒険した時と同じく、ランプと、緊急脱出用の糸と、マシェットを持ち出した。


 そして、洞窟の入口についた私はランプに火を灯した。今回は、私の体内の魔力に余裕があったので、ランプの炎を魔力で強化してみた。ランプの光が明るくなって、周囲がかなり見やすくなった。


「わあ、前回来た時よりも周りが明るくなったね」


「今の私たちは体内の魔力量がかなり増えているからね。魔法も使えるから前回よりも楽に先に進めると思う」


 今回は魔法が使えたので、私たちは魔法で魔物を倒しながらさくさくと洞窟の奥まで進むことが出来た。


 洞窟の奥には、あの巨大な熊の魔物が横たわっていた。


 あの熊の魔物、すっかりこの洞窟が気に入ったようね。ここを住処として利用しているみたい。


 熊の魔物は私たちに気づくとすぐに威嚇して、攻撃態勢に入った。


「ナルカ、今の私たちならこいつを倒せる。一気に畳み掛けるよ」


「わかった。狼になって攻撃するね」


 私たちは熊の魔物から十分に距離をとって、遠隔攻撃が出来る魔法で連続で攻撃を加えた。魔法が使えなかった前回は出来なかった戦い方だ。私とナルカは毎日戦闘訓練をしているから、何も言わなくても、お互いが次にどう動くかが完全にわかっている。私たちの絶妙なコンビネーションは、熊の魔物に反撃の機会を与えなかった。そして、熊の魔物が倒れると、私は腰からマシェットを引き抜き、全身の力を込めて熊の魔物の首に突き刺してトドメを刺した。


「すごいよアリサ、こんなに簡単に熊を倒せたよ」


「私たち、本当に強くなった。それはナルカ。あなたがそばにいてくれたからよ。ありがとうね」


 私は戦うために地面に置いていたランプを拾う。人間の姿に戻ったナルカの美しい裸体が、ランプの光に照らされて私の目に飛び込んでくる。それを見た私は、心の奥底から湧き上がる感情を抑えきれなくなって、ナルカを後ろから抱きしめた。ナルカも私の方へ振り返るとキスをしてきた。キスをされて頭が真っ白になった私は、気がつくとナルカを押し倒していた。ナルカを好きな気持ちが抑えきれなくなった私は、身体を密着させながら、私の気持ちが落ち着くまで、ナルカの唇や胸や、彼女の大切な場所に、キスをし続けた。


 頭が冷えた私は、本能の赴くままキスをしてしまったことをナルカに謝った。


「ごめんなさいナルカ。私、どうかしてた」


「ううん、ありがとう。アリサがボクのこと、いっぱい愛してくれたから、本当にうれしかったよ」


 私は魔物が私たちに近寄ってこないように周囲に結界の魔法をかけた。これでこの洞窟の中にいる魔物は私たちに近づけないだろう。私はナルカの手を握ると、彼女を抱きしめながら横になった。ナルカはいつの間にか狼の姿になっていた。ナルカの美しい体毛が身体に触れるのがたまらなく気持ちいい。蓄光石の放つ光が私たちを優しく照らしている。私たちはそのまましばらく眠りについた。


「二人とも起きて。もう朝ですよ」


 マチさんの優しい声で私たちは目を覚ました。


「あれ、マチさん?」


「帰りが遅いから、心配になって来てみたの。そしたら洞窟の中で寝ていたから……」


「マチさん、ごめんなさい。心配で来てくれたんですね」


「いいのよ。さあ、小屋へ帰りましょう」


「マチさん、ありがとう」 


 私たちはマチさんに抱きついてから、三人で手を繋いで洞窟を後にした。この時、蓄光石を回収するのをすっかり忘れていて、後で一人でこっそりと採りに戻ったのは二人には内緒だ。


 次の日、私たち三人はレイさんの家にいって、レイさんたちに挨拶をした。


「これ、私とリリで作ったの。よかったら食べて」


 ルカさんが私に手作りの焼き菓子を手渡してくれた。


「フィナンシェっていうの。アイシャさんがよく作ってくれたんだけど、リリが好きになってね。彼女に作り方を教えてもらったのよ」


「ルカさん、リリちゃん。本当にありがとう。大切に食べるね」


「君たちが冒険に行ってる間は、俺たちが責任を持って小屋を守るよ。もちろんこの森もね」


「お願いします。精霊用の鎮痛薬が無くなる前には必ず帰ってきます」


「お姉ちゃん、約束だよ。そしたらまたリリと遊んでね」


「もちろんだよ。私もナルカもリリちゃんと遊ぶと最高に楽しいからね。約束する」


 私とナルカはリリちゃんと手を合わせた。


 レイさんは森の出口まで、私たちを見送りに来てくれた。


「この道をしばらく進むと小さな集落がある。だが、そこの住人たちはドワーフで、あまり他人とは関わり合おうとはしないんだ。だから、余裕があるならそこへは立ち寄らずに、その先にある街まで一気に行ってしまう方がいいかもしれないな。道なりにずっと進んでいくと、メリーウェルという、かなり大きな街があるんだ」


「なるほど、アドバイスありがとうございます」


「精霊の解呪のアイテムの素材が集まらなくても、寂しくなったらいつでも森に帰ってきてくれ。俺たち家族は君たちを待っているからね」


「ありがとう、レイさん。それじゃあ、私たちは行きます」


「ああ、気をつけてな」


 こうして、私たち三人の冒険が始まった。

 

 森の先には、広い平原があった。少し歩くと、レイさんの話していたとおり、ドワーフの住んでいると思われる集落があったが、ここには立ち寄らずにそのまま素通りすることにした。


 しばらく歩くと、辺りはすっかり夜になっていた。冬の時期なので、日が沈むのが驚くほど早い。


 平原の彼方に、街の灯りが見える。レイさんの言うとおり、大きな街だ。


 私たち三人は街の灯りの方へと歩いていった。

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