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お客様がやってきた

 そうして魔法の鍛錬に明け暮れていた私だったが、ある日、小屋に女性の騎士たちが訪ねてきた。


「アイシャ殿はいらっしゃいますか」


「私が対応するわ。念のため、アリサとナルカは中にいて。私は幽霊だから、何かあっても平気だからね」


 突然見慣れない女性たちがやってきたので、マチさんが外に出て対応してくれた。


「あら、あなたたちは?」


「これは失礼しました。私はグランレスタ王国いばら騎士団のブリジットと申します」


 ブリジットと名乗った女性がマチさんに頭を下げて挨拶した。騎士たちを警戒していた私は、彼女の礼儀正しい振る舞いに少しだけ好感を持った。


「これはご丁寧に、ありがとうございます。私はマチです。アイシャさんはエルフの方かしら? 今、ちょうどお留守なんです」


「そうでしたか。いつ頃お戻りになるかとかはわかりますか?」


「すいません、私にはちょっと……。あ、待ってくださいね。アリサ、エルフのアイシャさんに会いに来た方がいますよー」


 マチさんが気を利かせて私に状況がわかるように声をかけてくれた。


「こんにちは。錬金術師のアリサです。アイシャは今とある素材を集めにいっているので、しばらくここに戻ってきません。私たちは彼女が留守の間、この家を任されているんです」


 私はここに来た女性たちに怪しまれないように、アイシャの知り合いを装って話しかけた。


「そうでしたか。今、アイシャ殿はいらっしゃらないのですね。それは困りましたね……」

 

 ブリジットは金髪の髪をかき上げながら困惑した表情をしている。


「あの、アイシャに何か依頼をしに来たのですか?」


「ええ、実は、私たちはとある薬の調合をアイシャ殿にお願いしていまして。今回もその薬の調合をお願いしに来たんです」


「よろしければ、私が調合しましょうか? 実は私、アイシャの弟子なんです」


「失礼ですが、それは本当でしょうか? 私は、アイシャ殿にお弟子様がいるとは聞いていませんでしたが……」


 私はとっさに自分がアイシャの弟子だと嘘をついた。だが、ブリジットは私の言葉に半信半疑のようだ。


「小屋の中に私の調合したポーションがあります。それを見て依頼するかどうか判断してください」


 私はブリジットに信用してもらうために、調合したポーションを見せることにした。隣にいたナルカに、小屋の中から私が調合したポーションの入った小瓶を持って来てもらう。


「これです」


 ブリジットは私から小瓶を受け取ると、瓶の中のポーションをまじまじと見つめた。


「なるほど、濁りが無くて綺麗な色をしていますね。少し飲んでみてもいいですか?」


「もちろんです」


 ブリジットは瓶の入口からコルクを外すと、上を向いて瓶の注ぎ口を口をつけないように少しだけ顔から離しながら、ゆっくりとポーションを口の中に注いだ。


「なるほど、これは上質なポーションです。ポーションは時間が経つと特有の苦味が出るものですが、それが感じられません。ということは、これはあなたが調合したもので間違いないですね」


「ええ、昨日調合したばかりのものですから」


「あなたの錬金術師の腕は本物のようです。それでは改めて、アリサさん、私はあなたに薬の調合を依頼します」

 

 ブリジットは、自分たちはグランレスタ王国の王家の使いの者で、腕利きの錬金術師であるエルフのアイシャに若返りの薬の依頼をしに来たと説明した。


「私たちは若返りの薬の調合に必要な素材を持って来ました。アリサさん、これで大丈夫かどうか確認していだけますか? ナタリー、素材をこちらへ」


 ナタリーと呼ばれた女性が、いくつかの素材を私の目の前に並べた。しかし、私はその中で、重要な素材が一つ足りないことに気づいた。


「ブリジットさん。本当に素材はこれだけですか? 若返りの薬の調合には、アカハライモリが必要なんです。これでは調合することが出来ません」


「さすがアイシャ殿のお弟子様ですね。あなたを試すような真似をして申し訳ありません。私はあなたが本当に若返りの薬の調合方法を知っているのか知りたかったのです。私たちも、依頼主に出来損ないの薬を持っていくわけにはいかないので。ではナタリー、アカハライモリを持ってきて」


 ナタリーがイモリの入った小瓶を私の前に持ってきた。ブリジットは私を試すために、わざと素材のうちの一つであるアカハライモリを見せていなかったようだ。


「今回の依頼主は、かなり身分の高い方なのですか?」


「本当は秘密なのですが、あなたには今後も調合を依頼するかもしれませんので、特別にお伝えします。くれぐれも他言は無用でお願いしますね」


 ブリジットによると、若返りの薬の依頼主はグランレスタ王国の若き国王フェリックスの乳母エヴァ。彼女はフェリックスが幼い頃からずっと彼を育てており、現在は愛人関係となっているらしい。


「なるほど、依頼主のエヴァさんは国王のために、若い身体を維持したいというわけね」


 私と一緒に話を聞いていたマチさんが納得した表情で呟いた。


「ええ、フェリックス国王は王妃のサラ様よりずっと年上のエヴァ様を寵愛されているのです。しかし、そのせいでサラ様は国王からは疎まれてしまっています」


「なるほど。国王様ったら、いまだに乳離れ出来ていないのね」


 マチさんはクスクスと笑った。そして、これは後から言われたのだが、マチさんはナルカに胸を吸われている時に幸福感を感じていて、国王と乳母の気持ちもよくわかるらしい。だから、エヴァは未だに乳離れが出来ていない国王が愛おしいのだと。

 ブリジットの話では、エヴァはそんな王妃にも気を遣い、夜伽の際にも必ず三人で行うように王に促しているらしい。

 

「でも、この薬には副作用があるの……」


「副作用ですか? それはこの薬に何かしらのデメリットがあるということでしょうか?」


「ええ、残念ながらこの薬は不老不死の薬ではないの。むしろその逆で、若さを維持する代償として、寿命をどんどん短くしてしまう……」


「なんですって!?」


 ブリジットはかなり驚いたようで、大声で私に聞き返してきた。彼女はこの薬について何も知らなかったようだ。


「ブリジットさんはエヴァさんから何も聞いていなかったのですね。この薬は細胞を無理矢理活性化させるんです。身体に無理をして、寿命を犠牲にして若さを保つ。それがこの薬の正体です」


「そんな……」


 ブリジットを含めた全ての騎士団員がざわついている。やはり、騎士団の女性たちは薬のことをよく知らなかったようだ。この薬は細胞を無理矢理再生させるため、染色体の中にあるテロメアを短くしてしまう。結果、この薬を服用するたびに寿命が短くなる。そして、私はアイシャの日記を読んで、彼女が依頼主のエヴァにそのことを伝えてあることを知っていた。


「アイシャはエヴァさんからこの薬を調合を依頼された時に、寿命が短くなる副作用を伝えてあるはずです」


「そんなことが……。エヴァ様がそこまで覚悟していらしたとは」


「ちょっと話を聞いてもらえます? あくまでこれは私の推測なんですけど……」


 マチさんが私たちの話に割り込んできた。マチさんの推測では、エヴァは王妃であるサラのことも気にかけていて、彼女を差し置いて国王に寵愛されていることを申し訳なく思っている。なので、おそらくエヴァはこの薬を飲むことで、国王に愛されつつ、サラが歳を取る前に死ぬつもりなのではないか。それがサラへの贖罪になると考えているのでないかとのことだ。


「まあ、これは今までの話を聞いて、今、私が思ったことなんですけど」


「その可能性は高いと思います。エヴァ様は素晴らしいお方です。乳母として、たくさんの王子様を育てていますが、本当の母親以上に彼らに愛情を注いでいましたから。王子様たちからも、本当に愛されているのです。しかし、我々も任務としてここに来ています。確実に薬を持ち帰らないといけません。それに、私はエヴァ様のお気持ちを尊重したい」


「では、薬の調合をするということでよろしいですね?」


「ええ。アリサさん、あなたに若返りの薬の調合をお願いします」


「わかりました。では、調合に一週間ほど時間をいただきます。よろしいですね?」


「もちろんです。では、一週間後にまたここに来ます。報酬はその時にお支払いいたしますね」


「あのぅ、一つお願いがあるんですけど……」


 マチさんがブリジットに話しかけた。


「なんでしょう?」


「私たち、森に住んでいるものですから、自分たちが身につけるものを手に入れるのも苦労していまして……。出来れば、次に来る時にいくつか衣服と布を持って来ていただけるとうれしいです。私、仕立てが出来るので、服の大きさは大体のサイズで大丈夫ですので」


「わかりました。あなたたちによく似合う、上等な服を用意してきます」


「お願いしますね」


 こうしてブリジットから信頼された私は、若返りの薬の調合を正式に受注した。いばら騎士団の女性騎士たちは、複雑な気持ちになりながら、王都へと帰っていった。


 次の日の朝、起きてきたマチさんに、私は思い切って聞いてみた。

 

「あの、マチさん、教えてほしいんだけど……、ナルカがマチさんの胸を吸ってるけど、その……、そんなに胸って吸いたくなるものなのかな?」

 

「ふふ、アリサも知りたいの?」

 

 私は顔を真っ赤にしてゆっくりとうなづいた。


「マチさんは昨日、国王様が乳離れ出来ていないって言ってたでしょ? 大人になった国王様が未だに吸いたくなるって、そんなにすごいものなのかなって……」

 

「気になるのね? それなら、私が教えてあげる。実はね、ナルカに胸を吸われるようになってから、何故か母乳が出るようになったの。私の身体が、あの子のママになったと勘違いしてるのかもしれないわ」

 

 マチさんは私に優しく微笑むと、大きな胸を差し出してくれた。マチさんの綺麗な胸が私の目の前にある。


「さあ、いらっしゃい」


 感情を抑えられなくなった私は、マチさんの胸を優しく吸った。マチさんの胸から出てきた母乳は、とっても甘くて、優しい味がした。

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