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魔法の訓練をしてみた

「アリサ、いくよ」


 狼の姿をしたナルカが私に飛びかかってくる。私はナルカの攻撃をかわすと、炎の魔法でナルカに反撃する。実際にナルカには当てないけど、うまく具現化した炎の球をコントロールして、ナルカがかわせるギリギリのところまで近づける。私の予想通り、ナルカはひらりと炎の球を回避する。


「ナルカも大分動きが良くなってきたね」


「アリサのおかげだよ。毎日訓練してるからね」


 私とナルカは毎朝戦闘訓練をしている。私の魔法の修練のためにナルカはずっと私に付き合ってくれた。けれど、まだまだ体内の魔力が低い私は満足に魔法が扱えていない。


「ふふ、二人とも、大分動きがよくなってきたわねえ」


 私たちの訓練を見ていたマチさんが褒めてくれた。


「でも、まだまだ身体が魔法についていっていない感じがするんです。すぐに疲れて動けなくなってしまうから……」


「なるほどねえ。魔法っていうのは体内の魔力を使うんでしょう?」


「ええ、その通りです」


「その魔力の使い方を変えてみたらどうかしら?」


「魔力の使い方ですか?」


 マチさんの思いがけない言葉に、私は思わず聞き返した。


「そうそう。アリサは大分魔力のコントロールができるようになってきたでしょう?」


「そうですね。自分でも、魔法を使い始めた頃と比べてたら、大分できるようになってきたと思います」


「うふふ、なら、普段はリラックスして無駄な魔力を使わないようにして、魔法を使う一瞬だけ、魔力を込めるようにしてみたらいいんじゃない?」


「なるほど……。そんなこと、考えたことなかったです」


 マチさんが興味深い提案をしてくれた。マチさんによると、スポーツでは、普段は脱力していて、行動をする瞬間、サッカーで言えばボールを蹴る瞬間、テニスで言えばラケットでボールを打つ瞬間に最大限の力を込めるようにするらしい。だから、マチさんは、魔法も同じで、魔法を発動する瞬間に最大限の魔力を込めるようにするといいんじゃないのかという。そうすれば、魔力を使うのは一瞬で済むから、魔力を大幅に節約できるんじゃないかとのことだ。


「確かに、そのやり方なら効率よく魔力を使えそうですね。早速試してみます。ナルカ、もう一度相手をお願い出来る?」


「もちろんだよアリサ。早く戦おう」


 早速ナルカと新しい方法を試してみる。私はもう一度ナルカに炎の魔法を使う。魔力を込めるのは炎の球を具現化する一瞬だけ。この瞬間に自分の出せる最大限の魔力を放出するイメージで魔法を使う。すると、私の手のひらから先程よりもかなり大型の火球が出てきた。


「すごい。出てくる炎が大きくなった。ここまで魔法の精度が上がるなんて」


「ふふ、余計な魔力を使わないから、その分魔法が強化されたのかもねえ。後は、動く時、例えば、走る時には必ず地面を蹴るじゃない? その時に魔力を込めて蹴れば、もっと素早く動けるんじゃないかしら? もちろん、蹴る一瞬だけ魔力を込めて蹴るの」


「なるほど、やってみますね」


 私は、マチさんに言われたとおり、地面を蹴る一瞬に最大の魔力を込めた。


「えっ」


 地面を蹴った瞬間、自分でも信じられないほどの速さで身体が動いたことに、私は驚いて、思わず声が出てしまった。


「魔力を込めるだけで、ここまで速く動けるなんて」

 

 マチさんの言うとおり、魔法以外でも、例えば、移動する時、地面を蹴る一瞬足に魔力を込めることで、今までとは比べ物にならないくらいの速さで動くことができることがわかった。この方法なら、まだまだ魔力量が少ない私でも、なんとか強力な魔物と戦うことが出来そうだ。


「あらあら、予想以上にうまくいきそうね。それじゃあもう一つ、試してみる?」


「他にも何かあるんですか?」


「ええ。これは特殊な呼吸法なんだけど、身体をリラックスさせる効果があるらしいの。リラックスすれば魔法の精度もより上がるんじゃないかしら?」


 そしてもう一つ、マチさんは私に精神を落ち着かせる呼吸法を教えてくれた。四秒間、息を吸う。そして、四秒間、息を止める。そしてまた四秒間かけて息を吐く。息を吐いたら、四秒間息を止める。そしてまた四秒間、息を吸い続ける。これを繰り返すと素早く気持ちを落ち着けることができるらしい。その方が魔法の精度もあがるかもしれないとのことで、私は早速この呼吸を試してみた。すうう。ゆっくりと息を吸って、そのまま止める。四秒間数えてからゆっくりと息を吐き出して、また息を止める。確かに、少しだけ気持ちが落ち着いた気がする。


「確かに、心が落ち着きますね」


「そうでしょう? 特に焦ってる時やイライラする時にこれをすると、落ち着きを取り戻せるからいいらしいわ」


「いいことを教えてくれてありがとう。マチさん」


「ふふ、いいのよ。それじゃあ、私は朝ごはんの準備をしてくるわ。出来たら呼ぶわねえ」


「はーい。それじゃあアリサ、訓練の続きやろー」


「うん、いくよナルカ」


 訓練が終わると、ナルカは狼の姿のまま、私に抱きついてくる。ナルカのもふもふとした柔らかい体毛が身体に触れると最高に気持ちがいい。そのままナルカは私の顔をペロペロと舐めてくるので、とてもくすぐったい。でも、すごくかわいいから、私もそのまま抱きしめてあげている。狼のナルカもすごくかわいくて素敵だ。しばらく二人でじゃれあっていると、マチさんの声が聞こえてきた。


「二人とも、朝ごはんが出来ましたよー」


 マチさんがおたまでフライパンをカンカン叩きながら私たちを呼んでいる。


 その日は一日中、ナルカと魔法の訓練をした。


 相変わらず私はナルカと一緒に寝ている。夜更かしは身体に悪いので、夜は必ず寝ることにしている。その代わり、朝、ナルカより早く起きて、錬金術の本を読んだり、実験をするようにしていた。


「おはよう、アリサ。いつも早起きでえらいわねえ」

 

 マチさんは、私が起きると必ず起きてきて、私に目覚めのコーヒーを入れてくれた。幽霊だから、本当は寝なくても全然平気らしい。でも、私たちに合わせて、一緒に寝てくれている。


「すっかり寒くなってきたから、風邪をひかないように気をつけてね」


 マチさんは私の身体にコートをかけてくれた。


「ありがとう。私、マチさんに一つ、相談したいことがあって」


「ん、なーに? なんでも聞いてあげるわよ」


「実は、私が寝てる時、ナルカが無意識に私の胸を吸おうとするの。その時のナルカは寝てるから、本当に無意識にしてるんだと思う。でも、私はナルカに胸を吸われると何故か身体がむずむずしちゃうから、胸からナルカの顔を引き離して、それをやめさせているんです」


「ふーん。なるほどねえ」


 マチさんは、真剣な表情で私の話を聞いてくれている。


「きっとナルカは寂しいのよ。だから無意識に胸を吸いたくなってしまうの。でも、あなたはまだそういうことに身体が慣れてないみたいね。だからむず痒くなってしまうのよ。だったら、私がナルカに胸を吸わせてあげるわ」


「でも……」


「いいのよ。気にしないで」


「わかりました。お願いします」

 

 その日の夜から、マチさんはナルカの横に寝てくれるようになった。ナルカはマチさんの胸を吸いながら幸せそうに眠っている。マチさんも、ナルカに胸を吸われると幸せな気分になるらしい。二人で幸せそうに眠っている姿を見て、なんだか私も幸せな気分になれた。

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