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素材集めにいってきた

「おはよう、アリサ」


 私の隣で寝ていたナルカが眠たそうな声で話かけてきた。


「おはよう。よく眠れた?」


「うん。アリサがずっとボクの手を握っていてくれるから、落ち着くんだ」


 まだ眠そうなナルカが目をこすりながら答える。


「私もよ、ナルカ」


 私はナルカの頭を手で撫でてあげた。彼女は嬉しそうに私に近寄って顔を胸に擦り付けてきた。こういう時のナルカは、じゃれつく子犬みたいで、本当にかわいい。


「森での素材集めも大分効率よくできるようになってきたね」


「あなたのおかげよ。本当にありがとう。食糧になるキノコとかも見つけてくれて、本当に助かっているわ」


 狼に変身したナルカは鼻が効くので、食べ物を簡単に見つけることが出来る。ナルカが集めてきたキノコや果物を私が調理してあげた。無毒化が必要な肉類はまだ食べられていないけど、ポーションと水ぐらいしか食糧の無かった私からすれば夢のような食事だった。


「でも、そろそろ別の場所に素材集めに行きたいよね?」


「アイシャの日記によると、この家の南側に洞窟があるらしいの。今度はそこへ行ってみる?」


「いいね、そうしよう。洞窟探検か。ワクワクするねえ」


「あなたと一緒に冒険出来るの、楽しみなの。一人ではきっと冒険する気にはなれなかったから。ありがとね、ナルカ」


「ふふ、ボクもアリサと一緒なら、とても楽しい冒険ができそうだよ」


「うれしい。それじゃあ冒険の準備をしないとね」


 私はナルカを抱き寄せておでこにキスをしてから、冒険の準備を始めた。初めての洞窟探検。きっと、洞窟の中は暗いから、ランプは絶対に必要だ。後は、緊急時にすぐに脱出できるように道標となる太めの糸と、魔物と戦う武器がいる。

 私はようやくナイフの扱いに慣れてきたので、今回はマシェットという大型のナイフを持っていくことにした。マシェットは草木を薙ぎ倒すためのもので、ナタと同じように使える便利なナイフだ。大きさもナイフというよりは小型の片手剣といってもいいサイズで、ずっしりと重い。普通のナイフよりも刃渡が長い分、魔物とも有利に戦えるはずだ。

 そして、緊急時のために閃光弾を持っていくことにした。これは、爆発時に眩しい光と大きな音を出すことで、敵の動きを止めることができるらしい。アイシャが護身用に作ったようで、ナイフなどと一緒に置いてあった。どうしても勝てそうにない魔物が出てきた時に、これを使って逃げようと思う。


 冒険の準備が出来たので、私たちは小屋の南にある洞窟へと向かった。


 私たちは小屋にあったコンパスで方位を確認し、魔物を警戒しながら森の中を南へと進む。そのまましばらく進んでいくと、洞窟の入口が見えてきた。


「どうやらこの洞窟で間違いなさそうね」


 入口から洞窟の奥を覗き込んでみると、そこには暗黒の世界が広がっていた。


「へえ、奥が真っ暗だ。結構広い洞窟みたいだね」


「そうねえ。探索のために、ランプを持ってきたの。今、灯りをつけるね」


 私はカバンからランプを取り出すと、火を灯した。ランプの炎がゆらめきながら、私たちの周囲を優しい光で照らし出す。


「へえ、意外と明るいんだねえ」


「でも、中にいる魔物たちにも、私たちの居場所を伝えてしまうから、気をつけないとね」


「わかってる。ボクは狼の姿の方が探索に向いてそうだから、狼になるね」


 ナルカは来ていた服を脱いで、狼の姿へと変身した。


「この姿の方が鼻が効くから、素材も見つけやすくなるよ」


 私は、彼女の来ていた服をカバンにしまってから、赤い糸が巻かれた棒を取り出した。


「糸の先端を入口の近くにある木に結んでから、この棒を持って進んでいくの。これなら、道に迷っても糸を辿っていけば入口まで戻ってこれるでしょう?」


「さすがアリサ。準備万端だね。それじゃ、先に進もうよ」


 洞窟の中の空気はひんやりとしている。私とナルカは、慎重に洞窟の奥へと進んでいった。幸い、大きな魔物には出くわさなかった。私はナルカと一緒だったので、暗い洞窟の中でも落ち着いて進むことができた。

 

 この洞窟では、錬金の素材となる鉱石が多く取れるらしい。私は、地下の書庫から持ってきた鉱石の図鑑を眺めながら、落ちている鉱石をよく観察して選別していった。


「うわあ。見てアリサ、これすごいよ」


「本当、すごく綺麗ねえ」


 洞窟の奥で、蓄光石と呼ばれる鉱石が、優しく緑の光を出していた。


「石が光を出しているなんて、不思議だねえ」


「これは蓄光石ね。暗闇で光る石は私も初めて見るよ」


「持って帰るんでしょ?」

 

「もちろん。この石は魔石の素材になるの。いいアイテムが作れるわ」


「……アリサ、静かにして。入口の方からひどい臭いがする」


 不意にナルカが警戒モードに入った。


 私も意識を集中して感覚を研ぎ澄ます。入口の方からかすかに物音が聞こえる。しばらくすると、私にも肉が腐ったようなひどい臭いが感じられた。この洞窟に狂暴な魔物が来たのかもしれない。


「とりあえず、ランプの火を消すわ。こちらの居場所を相手に教えてしまうからね。気配を消しながら、ここで様子を見ましょう」


「うまくやりすごせるといいけど……」


 ランプの火を消すと、再び洞窟の中は真っ暗になった。私は、気配を消しながら、いざという時のためにマシェットを握りしめて来訪者がやってくるのを待つ。足音がだんだん大きくなり、こちらに近づいてきているのがわかる。緊張でマシェットを握りしめている手にじっとりと汗をかいている。私は手の汗を服で拭って、マシェットを握り直した。


 しばらくして現れたのは、大型の熊のような魔物だった。獲物を仕留めて食事をしてきた後らしく、口元には赤い血が付いていた。


 こいつはヤバい。その姿を見た瞬間に、私の本能が命の危機を警告してくる。確実にこの魔物は私たちの命を奪ってくる。その前になんとかしないと――。


 私は咄嗟にカバンから閃光弾とマッチを取り出して、導火線に火をつけた。


「ナルカ、目をつぶって耳を塞いでっ!」


 私は熊の魔物めがけて閃光弾を投げつけた。


 パァン。


 魔物の目の前で閃光弾が爆発して、大きな音と眩しい光が発生する。強力な音と光が、熊の魔物の視覚と聴覚を一時的に奪った。いざという時のために、閃光弾を持ってきておいて正解だった。私とナルカは素早く目をつぶって耳を塞いだので、閃光弾の影響を受けずに済んだ。


「大丈夫? 今のうちに逃げるわよ」


「うん、急いで外へ行こう」


 私とナルカは夢中で入口へと走った。あの熊の魔物は私たちを追いかけることができないことが悔しいようで、大きな叫び声が洞窟中に響き渡っている。


「はあ、はあ。危なかったわね。すぐに逃げて正解だわ」


「ありがとうアリサ。あの魔物とまともに戦ってたら二人ともやられてたよ」


「とりあえず、あいつが外に出てくる前にここから離れるわよ。なるべく遠くへ行きましょう」


 これから先も、今回の熊の魔物のように大型の魔物とは遭遇する。私が今回持ってきたマシェットを使って戦っても、きっとあいつには勝てないだろう。魔法が使えず、接近して戦うことしかできない私たちにとって、体格差というのは絶望的なハンデだ。この先、ナルカを守るには、あの魔物と普通に戦っても倒せるぐらい、強くならないといけない。そのために、私は一刻も早く魔法を使えるようにならなければ――。

 

 冒険には魔法が必須なことを思い知らされた私は、この日から錬金術と並行して、魔法のトレーニングを始めた。

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