表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/26

錬金術師アリサは二回目の人生を始めた

 私はアゾット剣の能力を使ってこの世界の時間を巻き戻した。私が初めてアイシャさんの隠れ家にやってきたところまで時間が巻き戻った。アゾット剣は無くなってしまったが、幸い、今までの記憶は保持している。


 私がここに来たばかりの状態まで身体が戻ったから、体内の魔力量が圧倒的に足りない。今の私は魔素の解毒の方法を知っているから、少しずつ魔素に身体を慣らしていって、体内の魔力の量を増やしていくしかない。それに、今の私は高等魔術言語を使って、体内の魔力を使わずに魔法を発動する方法も知っているから、魔力が足りないのはそこまで問題では無かった。


 アイシャさんの小屋の地下にある作業場で、ポーションを二つ精製する。私が初めて作ったポーションよりもずっと上等なものだ。一つは、私が体内の魔力量を引き上げるために飲むもの。そして、もう一つはまもなくこの小屋にやってくるナルカに飲ませるものだ。

 

 今の私にはやることがたくさんある。ナルカとマチさんを出迎えること。グランセリアからやってくるブリジットさんのために若返りの薬を作ること。レイさんたちと一緒に森の精霊の呪いを解くためのアイテムを作ること。メリーウェルの錬金術師、エルザさんに会って錬金術協会への推薦状を書いてもらうこと。ベルンの村の惨状をブリジットさんに報告すること。アイシャさんを助け出すこと。そして、ローア聖教会を牛耳っているギブリスたちを倒すことだ。


 とりあえず、まもなくこの小屋にくるナルカのために、食事を作っておくことにした。今の私が作ったポーションなら、一瞬で傷が癒えるからだ。


 小屋に来た白い狼の姿のナルカは全身が傷つき、血を流している。


「大丈夫? 今ポーションを飲ませてあげるからね」

 

 私は傷ついたナルカの口に瓶の注ぎ口を当てて慎重にポーションを飲ませてから、小屋の中にあった布で傷口を強く押さえ込んで、止血をした。

 すぐに彼女の出血が止まり、傷が治った。そして、ナルカは人間の姿へと変わった。

 

「よかった。もう大丈夫よ、ナルカ」

 

 私はナルカの頭を愛おしそうに撫でた。


「手当をしてくれてありがとう。でも、どうしてボクの名前を知っているんですか?」


 ナルカは不思議そうな顔をして私に話しかけた。


「気にしないで。何となくそんな名前なんじゃないかって頭に思い浮かんだの。ごめんなさいね」


 私は慌てて誤魔化した。


「そうだったんですね。ボクは森の中で魔物に追われていたのです。なんとか逃げたんだけど、ここまできたら、力尽きてしまって……。助けてくれて、本当にありがとう」


 ナルカは涙目になりながら、私に頭を下げてきた。私も泣きそうになるのを必死で堪えながら、自己紹介をする。


「目の前に大切な人がいたら、手当をするのは当たり前でしょう。私はアリサ。よろしくね」


 私はナルカの手を取って握りしめて、微笑んだ。


「うん、ボクの方こそよろしくです。アリサ」


 ナルカは私の手を強く握り返してきた。


「ナルカは自分の意思で狼の姿になれるのよね?」


「そうなんです。ボクの住んでいた村ではみんなそうでした。でも、それでボクたちは他の人間たちからよく思われてなくて……」


「そうだったの。辛かったよねナルカ」


 私はナルカを慰めるために、彼女の身体を抱きしめてあげた。自分の肌で、ナルカの体温を直接感じられるのが嬉しかった。


「ねえ、ナルカ。よかったら、ずっとここで一緒に暮らさない? 生き残るために、あなたの力を貸して欲しいの」


「アリサがいいのなら、ボクもその方がありがたいよ」


「それじゃあ決まりね。よろしく、ナルカ」


 私はナルカをしっかりと抱きしめた。


「この家はアイシャっていう錬金術師が住んでいたの」


「へえ、ここは錬金術師さんのお家だったんだね」

 

「そうよ。でも、今、アイシャはローア聖協会っていう組織に捕まってしまっている。だから、私はここで錬金術をしながら、彼女を助け出す準備をしているの」


「なるほど。そういうことだったんだね。ボク、狼の姿になれるから、アイシャさんの救出に協力できるかもしれないよ。どうかな?」


「ぜひ、お願いするわ。アイシャさんを捕らえているローア聖協会って、お抱えの聖騎士団もいて、とても強いの。だから、ナルカが救出を手伝ってくれるとものすごく助かる」


「ふふ、任せて。一人では大変でも、二人ならきっとうまくいくよ」


 こうして、私の小屋に再びナルカがやってきてくれた。


 私はナルカと素材集めをしながら、マチさんがやってくるのを待っていた。まもなくマチさんが声をかけてくるはずだ。


「あの、お二人はこの森で暮らしているのですか?」


「そうです。あなたは?」


「私はマチといいます。気がついたら、この森にいたんです。そしたら、お二人を見かけたので、追いかけてきました」


「マチさん、私たちはこの森の奥にある小屋で暮らしているんです。よかったらマチさんも小屋に来ませんか?」


 マチさんは何も衣服を身に纏っていなかったが、すでに私はマチさんの身体を見慣れていたので、そのまま会話を続けた。


「あら、この先に小屋があるの? 全然知らなかったわ」


「案内します。ついてきてください」


 私はマチさんを小屋まで案内して、中の応接ソファに座らせた。そして彼女に森で見つけたハーブで煎じたお茶を出した。


「あら、お茶まで出してくれるなんて。お若いのに気がきくのねえ」


「ハーブティーです。この森で採れたハーブを使っています。マチさんは、この世界の住人ではないのですか?」


「そうなの。さっきも話したけど、気づいたらこの森にいたの。それで、困っていたところにちょうどあなたたちを見かけたから、声をかけたってわけ」


「そうだったのですね。私たちも気がついたらこの森にいたんです。私はアリサ。彼女はナルカです」


「ナルカです。よろしくです」


「あらー、お二人ともいい名前ですねえ。アリサさん。ナルカさん。よろしければ、私もしばらくお二人と一緒にいさせてもらってもよろしいかしら?」


「マチさんがいてくれると、私たちも心強いです。二人だけでは出来ないこともたくさんありますから。しばらくといわずに、ずっとここにいてください」


「あら、うれしいわ。ありがとうね。ちなみに私、もう死んじゃってるの。信じられないかもしれないけど、今の私は幽霊なのよ。でも、何故かこの森に来たら、身体を実体化出来るようになってね。私も驚いたんだけど、この世界だと、私は身体を出したり消したり自由に出来るの」


「なるほど、それで服を着ないでいるのが普通だったんですね。でも、できればマチさんには身体を実体化したまま生活してもらった方が、私はうれしいです」


「あらー、もう少し驚くかと思ったんだけど。そうでもないのねえ」


「実は、ここにいるナルカも狼人間なんです。彼女は狼の姿に自由になれます」


「へええ、それはすごいわねえ。よろしくね、ナルカちゃん」


「こちらこそです。マチさん」


 マチさんも再び私の小屋に来てくれた。


 ここまでは順調だ。後は、なるべく早くアイシャさんを助けられるように準備をする。ギブリスたちは強いから、今の私たちでは勝つのは到底無理だが、前回と違って、今回はあらかじめ彼らのことを知っている。十分に対策をしてから助けに行くつもりだ。余裕があれば、この世界のことをよく知っているジュリアさんに会って、ギブリスたちのことについて、まだ私の知らないことを聞き出してみようと思う。


 その間にブリジットさんが若返りの薬を依頼しにやってくる。ベルンの村のことは、いきなり話すと怪しまれるから、少し時間をおいてから話そうと考えている。


 だいぶ肌寒くなってきた。まもなくこの森に冬がやってくる。その前に、冬支度を終わらせて、三人で力を合わせて冬を乗り切ろうと思う。


 そして今回は、この世界で、三人でいるこの関係が本物の家族以上に強固な絆で結ばれるようにしたい。そして、前回と同じ過ちをしないように、しっかりと準備をしておこうと思う。


 これで、私の物語は一度終幕します。またあなたに話すことができたら、続きを読んでもらうね。


 錬金術師、アリサより。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ