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この世界を守るために私は必死になった

 私は、アンナさんからこの世界の地図を借りて、アゾット剣の力で地図上に遺跡のある場所を光らせて、全てマーキングした。これで遺跡の場所は全てわかった。あとは、空間転移の魔法で順番に遺跡の場所に飛んで、制御できるように私とリンクさせればいい。大災害が起きる前に、全ての遺跡のコントロールを得る必要がある。時間との戦いだ。


 地図でマーキングした地点へと空間転移魔法で移動する。私の目の前に、白い半球状の遺跡が現れた。半球の中心からは巨大なモノリスが天空へと飛び出ている。これが女神とリンクするためのアンテナの役割を果たしていたのかもしれない。


 私はモノリスの中心に向けてアゾット剣をかざした。モノリスとアゾット剣が共鳴して輝きだす。これでいい。アゾット剣と施設がリンクした。後はアゾット剣を通して私がこの世界の自然環境を制御すればいい。


「うまくいったみたい。早く次へ行かないと……」


 アゾット剣を通して施設を制御できることを確認した私は空間転移の魔法を使って次の遺跡へと向かった。


「この調子ならなんとか間に合いそうね」


 しかし、遺跡のあった場所についた私は困惑した。そこにあったはずの遺跡が消えていたからだ。


「地図によると、間違いなくここにあったはず。どうして?」


 その後も空間転移の魔法で遺跡のあった場所へと飛んでいったが、そこにあるはずの遺跡がなぜか忽然と消えていた。


「どういうことなの?」


 どうしてそこにあるはずの遺跡が無くなっている? 世界を確実に崩壊させようとする、何らかの力が働いているのだろうか? これではこの世界の崩壊を止める事ができない。


「遺跡が消えてしまった……。もうどうしようもない……」


 呆然としている私の前に、あの男が現れた。盗賊風の見た目をした、以前マチさんを連れ去った男だ。


「世界の崩壊を食い止めるために、自然環境制御システムを何とかしようとしたんだろう? でも、これが運命ってやつさ。君が何をしようと、この世界の全てがリセットされる。この運命の輪からは誰も逃れることはできない」


「あなたは……」


「最後に君と戦いたかったから会いに来たんだけど、こうなると、そういうわけにもいかないよねえ」


 男は私を見ながら苦笑いをしている。


「無駄なことをしているって、私を笑いに来たの?」


 苛立った私は彼のことを睨みつけた。しかし、彼は苦笑いを微笑みに変えて話しかけてきた。


「まさか。君を誘いに来たんだ。まもなくこの世界はリセットされる。その前に、僕はこの世界から別の世界に行こうと思ってね。よかったら、一緒にいかないか? この世界の並行世界へなら、空間転移魔法を少し応用するだけで移動できる。もちろん、君の大好きなあの二人も連れていくといい」


 盗賊風の男は私に、一緒に別の世界へ転移しようと持ちかけてきた。まあ、悪くない話だと思う。だけどね――。


「残念だけど、お断りするわ。今回の一件は、私が引き起こしてしまったの。だから、私だけ逃げるわけにはいかないわ」


「それならあのジュリアって子みたいに、今の記憶を引き継いで新しい世界でやり直すのかい?」


「それも違うと思う。私がこの世界の人々を救えないのなら、記憶を引き継ぐ理由が無いもの。そんな無責任なこと、私にはできない」


「そうか。それは残念だな。僕は別の世界に転移するよ。この世界で君と出会えて、本当によかった。そして、最後にこうして君と会って、話ができた。それだけで十分だよ」


 男は少しだけ寂しそうな顔をしたが、すぐに笑顔へと表情を戻した。


「私はあなたのことをずっと怒ってたけど、そのあと私たちのことを助けてくれたからね。私も、最後にあなたと話せてよかったわ」


 私は男の手を取って微笑んだ。彼と話したおかげで、絶望して諦めかけていた私の気持ちが、少しだけ持ち直せた。本当にありがたい。


「最後に会いに来てくれて、本当にありがとう。話だけでは不十分でしょう? これは私からのお礼よ。受け取ってね」

 

 私は彼を優しくハグして、別れのキスをプレゼントしてあげた。


「あなたの名前、まだ知らなかった。よかったら、教えてくれる?」


「僕はニコラスだ」


「ニコラス。いい名前ね。まるで錬金術師みたい」


「それはどうも。アリサ、これは僕からの餞別として聞いてほしい。君がこの世界の女神と戦った時、彼女が何をしたのかをよく思い出すといい。今、君が求めている答えはそこにある」


 ニコラスはそう話すと私に手を振った。そして、彼の身体は動かなくなった。ニコラスはこの世界でこの盗賊風の男の身体を乗っ取って活動していた。だから、これから別の世界に行って、新しい身体を手に入れて活動するんだと思う。


 最後にニコラスは私にヒントをくれた。私と女神との戦いの中に、私が探し求めている答えがある。思い出せ。私は女神を石化して動きを止めた。動きを止める? そうだ。女神は時を止めて私の動きを止めようとした。ということは、彼女はこの世界に干渉して時間を操作したことになる。女神にできて、アゾット剣を持っている今の私にできないことは無いはずだ。


 私がアゾット剣とリンクさせた遺跡は、まだこの世界に残っているのが、剣を通して感じられる。今なら、遺跡の中央にあるモノリスをアンテナ代わりに利用して、この世界全体を感知できるかもしれない。


 私はアゾット剣を通してモノリスから魔力を飛ばして、この世界の全てを感知しようとした。この世界に存在する全ての生命の感覚が頭の中に入ってくる。この世界はこんなにも大きくて、こんなにもたくさんの命があったんだ。私は全然知らなかった。知ろうともしなかった。


 私はこの世界全体の時間が巻き戻っていくイメージを頭の中に思い浮かべた。私を含めた全ての物体の動きが巻き戻っているのが感じられた。


 そして、この世界の時間は、私が森の中でアイシャさんの小屋を発見したところまで、巻き戻った。

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