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三人でお出かけした

 森の中にあるにも関わらず、私のアトリエには、お客が継続して依頼をしに訪れるようになった。錬金術協会経由の依頼もあるが、何より、私のアトリエが、なかなかの評判となっているらしく、口コミを聞いてやってくる人も増えた。仕事の量も以前とは考えられないほど増えたため、素材集めはナルカに、家事全般はマチさんに任せっきりになってしまうことが多くなった。

 

 忙しく働く私を見かねたマチさんが、たまには休んでどこかに出かけたらと提案してくれた。

 私は、アトリエを臨時休業にして、久しぶりに三人でメリーウェルまで歩いていくことにした。

 最近は森の外に出ていなかったし、仕事以外で三人で出かけることもほとんど無かったから、ちょうどいい機会だと思った。

 

 私たちは、森の中をメリーウェルの方向へと歩いていく。私が初めてこの森に来た時は、森の中の魔物たちは常に私に敵意を向けて、襲いかかろうとしていた。でも今は、森の一員として認めてもらえたのか、森を歩いていても、私たちに敵意を向けてくることは無くなった。

 

 森を抜けた私たちは平原を進んでいく。メリーウェルに行く途中にはドワーフの集落がある。錬金術師として有名になったからか、彼らも私のアトリエに顔を出すようになって、今ではすっかり顔馴染みだ。


「ごめんなさい。今日はお休みなんだけど、ドワーフに注文したいものがあるの。少しだけ彼らの集落に立ち寄って行ってもいいかな?」


「もちろんよ。アリサの好きにしていいわ」


「二人ともありがとう。すぐに用事を済ますからね」

 

 ドワーフの集落は採掘場を利用して作られている。彼らは鉱石を発掘するのを生業としていて、発掘した鉱石を利用して鍛冶屋を営んでいる。私のアトリエには、武器を製作するのに必要なアイテムの精製を依頼しにやってくる。

 

 今回、私は錬成に必要な鉱石をいくつか注文するためにここに来た。


「やあ、アリサさん。今日は鉱石を買いに来たんですか?」


「ええ、いくつか欲しいものがあるんです。リストを作ってきたので、見てもらえますか?」


「わかりました。アリサさんにはいつもお世話になってますから、リストに記載されている鉱石が手に入り次第、アトリエにお届けしますね」


「ありがとうございます。スラインさんも、何か欲しいものがあったら、いつでも依頼しに来てくださいね」


 彼はよく私のアトリエに武器の素材の錬成を依頼をしにやってくるスラインさんだ。リストを渡して鉱石の手配をお願いすると、いつも私のアトリエまで運んできてくれる。

 

 ドワーフの集落を後にしてしばらく歩いていくとメリーウェルの街についた。この街に来るのも久しぶりだ。

 街に着いたら、買い物をしようと三人で決めていた。私たちはまず、洋服店に入る。この森に来てから、私はアイシャさんが残してくれた服と、ブリジットさんが贈ってくれた服しか着ていない。私が一番最初に着ていた服は、森を通り抜ける時に色々な場所に引っかかって破れてしまったので、すぐに捨ててしまった。私は服にこだわりが無いので、新しく服を買ったりはしていない。ミオス火山で素材集めをした時にマチさんの服が燃えてしまったので、急遽ブレイズベリーの洋服店で代わりの服を購入したくらいだ。

 マチさんが、一人前の錬金術師になったんだから、服もきちんとしたものを揃えた方がいいと言ってくれた。

 洋服店の女店主に、おすすめの服を聞いてみた。錬金術師に決まった服は無いのだが、魔術師向けの赤いチェック柄の入った服がいいのではないかと薦められた。

 

「これはセパレートタイプで動きやすいので、素材集めにも対応できますよ」


 私はこの服を試着させてもらった。


「あら、いいじゃない。アリサによく似合っているわ」


「うん、ボクもとてもいいと思う。錬金術師っぽくていい」


「二人ともありがとう。これにします。予備も含めて二着購入したいのですが、用意していただけますか?」


「はい、ただいまご用意しますね」


 この服は、私の最高の仕事服になった。何より、二人が似合うと言ってくれたのが嬉しかった。


 私の他に、ナルカとマチさんの服も購入することにした。ナルカは、私と同じ赤いチェック柄のドレスを選んだ。お揃いの柄の服になって、私も嬉しい。マチさんは、家事がやりやすいようにと、ピナフォアと呼ばれるエプロンドレスを選んだ。


 三人でお気に入りの服を購入できたので、次は美味しい食事を食べることにした。普段はマチさんが作ってくれたお手製の料理を食べているが、たまには外で食べるのもいいだろうということで、街のレストランで食べることにした。

 きちんとしたお店で食事をするのは、この世界に来て初めてだ。私はマチさんの手料理がたまらなく好きなので、そもそもお店でご飯を食べようという気が起きなかった。

 お店では、珍しい鹿肉のシチューとサラダがおすすめということで、それを食べることにした。普段は鹿肉など食べたことがないが、しっかりと煮込まれてトロトロになっていて、とても美味しかった。

 

 そして、久しぶりに、エルザさんのお店に顔を出した。エルザさんとフラニーさんは、私たちを温かく出迎えてくれた。以前訪れた時と同じように、フラニーさんが私たちに紅茶とお菓子を出してくれた。


「アリサのアトリエ、とても繁盛してるそうじゃないか。錬金術協会でも、とにかく依頼主からの評価が高いって評判になっているよ」


「ありがとうございます。エルザさんに錬金術師として、錬金術協会に推薦していただいたおかげです。私個人で仕事していたら、ここまで多くの依頼はこなかったはずですから」


「私がしたのはそれだけだよ。後は全部、アリサが自分で努力した結果さ。アリサが錬金術師としてがんばったから、今、みんなに認めてもらえてるんだ。誇りに思っていい」


「私はただ、生きるために錬金術をやってきただけなんです。そのうちに仲間もできて、家族もできて、今度はその人たちを守るために必死になってやってきた。だから、今回正式に自分のアトリエを持って、錬金術という仕事に向き合えるようになって、ようやく錬金術師になったという実感が湧いてきたところです」


「それはよかった。でも、働きすぎはよくないよ。今回、休みを取ってここに来てくれて、本当によかった」


「今回は、アリサに無理を言って休んでもらったの。ずっと働き詰めだったから、たまには気分転換もしないといけないと思って」


「マチさんのいうとおり、休みを取ることも大事ですからね。それで、この後の予定は決まっているの?」


「いえ、これから決めようかなと思っていました」


「それなら、この街の北にある丘でキャンプをするといい。メリーウェルの街を一望できるから、夜になると夜景が最高に綺麗なんだ」


「そうそう。星空と夜景がマッチして、本当に素晴らしいのよね」


 エルザさんとフラニーさんがメリーウェルの北にある丘でのキャンプを提案してくれた。キャンプに必要な道具も一式貸してくれるという。


 私たちは、夜になるまで街に滞在してから、北の丘を目指した。エルザさんから簡易テントをお借りしたので、今夜はそこで三人で過ごすつもりだ。


 北の丘に着いた。エルザさんの言うとおり、丘の上からはメリーウェルの街を一望出来る。メリーウェルの街中から、美しい光が目に飛び込んできた。


「最高の景色ね。来て本当によかったわ」


「同じ屋外でも、森とはまた違っていいです。たまにはこうやってキャンプに来るのもいいなって思いました」


「こうやって三人でじっくりと話し合うのも久しぶりだから、本当に今日は来てよかった。ありがとう、ナルカ、マチさん」

 

 簡易テントのそばで、焚き火をして身体を暖めながら、私たちはずっと夜景と星空を眺めていた。


 私たちがこの世界に来た理由が何かはいまだに分からない。でも、私はこうして三人が出会えて、ともに暮らしていることが、本当に嬉しかった。それが私がこの世界で錬金術師として生きる一番の理由だ。そして、今の私には、どうしてもやりたいことが一つだけある。例え、大天使の警告を破ったとしても、それだけはやり遂げたかった。

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