ローア聖教会と戦うことにした
クロウリーを倒した私たちは、アイシャさんの小屋へと戻って来た。
「アローラ、アイシャの具合はどう?」
「呪いは解けたみたい。だけど、まだ身体の方が思わしくないの。回復魔法をかけたけど、完全に治るまでにはもうしばらくかかりそうね」
「よかった。アローラ、ずっと見守っていてくれて、ありがとうね」
アイシャさんはベッドの上で眠っていた。完全に身体が回復するまでは、このまま休ませていた方がいいだろう。
「クロウリーが倒されたことは、すぐに聖教会側に伝わるだろう。そうなると、ここも安全とは言い切れない」
カタリナさんは、アイシャの処刑に失敗したことで、この小屋もローア聖教会に狙われるだろうと話す。
「ローア聖教会にはグレア聖騎士団という聖騎士の兵団がいる。彼らを使ってここを襲撃するかもしれない」
「それならば、先手を打って、ローア聖教会の教主マテウスと幹部たちを潰してしまえばいい。頭を潰せば手足は何も出来なくなるからね」
「もう、簡単に言ってくれるなあ」
カタリナさんは、相変わらずアンナさんが突拍子も無いことを言い出したので、くすくすと笑い出した。
「だけど、ここにいるメンバーが力を合わせれば、それも可能かもしれない。みんなのクロウリーとの戦いぶりを見て、私は本当にそう感じているよ」
カタリナさんが私たちを見渡して頷いている。その時、マチさんが手を上げて発言する。
「ちょっといい? とりあえず、敵の幹部たちの情報を調べてみるはどうかしら? クロウリーの居場所を特定した時みたいに、ダウジングをするだけでもそれなりに調査することができるんじゃない?」
「確かに、残りの幹部たちが今どこにいるのかはすぐに調べた方がいいな」
「居場所もそうだけど、例えばウィジャボードみたいな紙を使って、幹部の名前とか能力とか、そこら辺まで詳しくダウジングで調べてみてもいいんじゃないかなと思うんだけど」
「なるほど。確かに魔力でペンデュラムを強化すれば、そこまで調べられるかもしれない。さすがですマチさん」
アンナさんはマチさんの提案に従い、ローア聖教会の幹部たちの情報をダウジングで調べることにした。その結果は驚くべきものだった。
ローア聖教会の幹部たちは私たちの想像以上に多くの国に潜入していた。アンナさんがさらに詳しくダウジングしたところ、彼らの多くが各国の要人になりすましていることがわかった。
「ここまで国家の中枢に入り込んでいるとは――。思ったよりずっと深刻な状況ね」
アンナさんたちは驚きを隠せないでいる。しばらく沈黙が続いた後、カタリナさんが口を開いた。
「私の祖国のベルマリク王国でも、幹部の一人が国王になりすましていたんだ。正体に気づいた私の友人の魔女が、その幹部を倒したの。そして、私は彼女の意志を引き継いで、ローア聖教会の幹部を倒すことに決めたんだ」
「ここまで各国の要人になりすましているとなると、幹部を倒す時に相当上手く立ち回らないといけない。下手したら、私たちが異端者に仕立て上げられて、ローア聖教会側に私たちを糾弾する口実を与えてしまうわ」
「確かに、ローア聖教会側から異端者として認定されてしまうと、多くの国で犯罪者と同じ扱いを受けてしまう。まあ、そうなると、間違いなく国王たちはあなたたちを捕らえて、ローア聖教会側に引き渡そうとするよ。アイシャの時と同じようにね。現に、私は既に異端者認定されているから、どの国に行っても犯罪者扱いされている」
カタリナさんが苦笑いをしている。
「そうなる前にできるだけ早く、確実に倒していきましょう。幹部たちに、私たちの対策をする暇すら与えないくらいにね。クロウリーの時は、アイシャの呪いを解かせるために手加減する必要があったけど、今回は本気で倒しにいけるからね」
「一ついいですか?」
私はアンナさんたちに提案するために手をあげた。
「私は、真っ先に教主のマリウスを倒すのがいいと思います。幹部たちにわざわざ呪いをかけるほどの男です。彼がいなくなれば、聖教会はまとまりを失って混乱すると思います。その混乱をうまく利用して幹部を暗殺していけばいいんじゃないかと」
「なるほど、それも一理あるわね。それじゃあ、次はマリウスの情報を調べてみるよ」
アンナさんはダウジングでマリウスの情報を調べ始めた。しかし、何故かペンデュラムはまったく動かない。
「ペンデュラムが反応しないなんて、初めてだわ」
普段強気のアンナさんが、珍しく困惑している。
「マリウスはダウジングなどで自分の情報をサーチされないように、何らかの対策をしているのかもしれない……」
「それなら、やっぱり先に幹部たちを潰すしかなさそうね。幹部が全員やられれば、さすがにマリウスも表に出てくるでしょうから」
「とりあえず、幹部たちの情報をもう少し詳しくダウジングで調べてみるわ。どんな能力を持っているのかわかるだけでも、大分戦いやすくなるから」
「頼んだよアンナ。それとアリサ……」
カタリナさんが私に話しかけてくる。
「幹部たちは私たちで何とかする。今回、アリサたちにはここでアイシャを守っていてほしいんだ。お願いできるかな?」
「もちろんです。アイシャさんは私たちが責任を持って守ります」
「ありがとう。君たちを巻き込んでしまって本当にすまない」
カタリナさんは私たちに深々と頭を下げた。
「幹部たちの能力が判明したら、私がその能力に対処できるアイテムを作ります。私が作った相手の魔法や能力を無効化する帯はギブリスとなったクロウリーにも有効でした。これと同じように、高等魔術言語で相手の能力に対抗できる術式を組み込んだアイテムを作ろうと考えています」
「確かに、相手の能力に対抗できると戦いがかなり有利になるね。よろしく頼む」
高等魔術言語できちんと術式を組めば、かなり強力なアイテムを精製できる。あれから私は高等魔術言語の術式を何度も組み込んで効果を試している。だから、相手の能力さえわかれば、それに対抗できるアイテムに仕上げる自信はある。
私はアンナさんから幹部たちの情報を教えてもらい、徹夜で彼らの能力に対抗できるアイテムを作成した。
「それじゃあ、いってくるよ。アイシャをよろしく頼む」
幹部たちと戦う準備ができたカタリナさんたちは、空間転移魔法で彼らの元へと乗り込んでいった。
私たちはこの小屋でアイシャさんを守ることになった。カタリナさんたちが幹部と戦っている間、この森にローア聖教会の聖騎士たちが攻めてくるかもしれない。私はレイさんたちにも事情を話して、協力してもらうことにした。
この森とレイさん一家、アイシャさん、そしてナルカとマチさん。誰一人として欠けてほしくない。だから、必ず私が守りきってみせる。




