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敵の本拠地に乗り込んでみた

 アンダルギア大聖堂はリーベルの市街地の中心部にある。私たちはアンナさんの空間転移魔法で、大聖堂に近い場所まで移動していた。初めて見る大聖堂は、とても大きな教会で、見ている私はその大きさに圧倒された。入口には見張りと思われる聖騎士が立っていて、周囲を警戒している。


「この中にクロウリーがいるかどうかわからないのに、騒ぎを起こすと、警戒が厳しくなって大変でしょう。私が中を確認してくるわ」


 マチさんが実体を消して内部を偵察してくれることになった。


「へえ、あなた、実体を消せるのね。気配まで感じられなくなった。珍しい能力だわ」


 アンナさんたちがマチさんの能力に驚いている。私たちはもうすっかり慣れてしまったけど、初めてみるアンナさんたちの反応を見て、身体を自在に実体化したり消したりできるマチさんは、やっぱりすごいんだと改めて思う。


「それじゃあ、行ってくるから、しばらくここで待っててね」


 待っている間に、カタリナさんがローア聖教会の幹部について話してくれた。幹部たちは通常は人間の姿をしているが、戦いになると、彼らがギブリスと呼んでいる本来の姿に戻る。このギブリスの状態の幹部はとても強いらしく、魔女のカタリナさんでも、自身の身体に強力な悪魔を憑依させて力を借りることでなんとか倒せたらしい。そして、ギブリスには個体ごとに特殊な能力があるらしく、彼女が倒した幹部たちの中には、高い自己再生能力を持つ者や、魔法を吸収してしまう者がいたという。


「あのクロウリーもなんらかの特殊能力を持っていると思って戦った方がいい。こちらの方が人数が多いからといって、油断していると大変なことになる。少なくても、楽に勝てる相手では無いよ」


「わかった。気を引き締めて、油断せずに行きましょう」


「みなさん、おまたせ。無事に帰りましたよ」

 

 大聖堂の中を偵察していたマチさんが戻ってきた。


「おつかれさまです。それで、クロウリーは?」


「彼は今、この大聖堂の地下にいるわ。でも――」

 

 マチさんは大聖堂の地下でクロウリーを発見する。しかし、地下は研究所のようになっており、教会が異端認定して捕らえたと思われる人間たちに、無理やり魔素を投与して魔物化させているらしい。


「表向きは普通の宗教団体を装っているけど、やっぱり裏ではヤバいことをやってるのね。魔女さんがローア聖教会を潰そうとしている理由がよくわかったわ」


「マチさんのおかげでクロウリーがここにいることは確定した。後はどうやって大聖堂の中に入るかだが……」


「正面から強行突破してもいいけど、大きな騒ぎになるからね。クロウリーを倒した後のことを考えると、地下まで空間転移魔法で移動した方がいいと思う」

 

 騒動になることを防ぐため、アンナさんの空間転移魔法で地下に直接行くことになった。

 

 地下についた瞬間、アンナさんはクロウリーめがけて閃光の魔法で先制攻撃する。この攻撃は完全に不意打ちとなって、クロウリーの身体に光の魔法が直撃した。


「ぐぅっ、不意打ちとは、ふざけた真似を……」


「ぼーっとしているあなたが悪いのよ」


「今のは痛かった……。このネズミどもが、生かしては帰さんぞ!」


 アンナさんに不意打ちされたことでクロウリーは激昂している。そして、彼の身体は翼の生えた悪魔のような姿へと変貌した。


「ネズミどもめ、一匹たりとも逃さん! お前たち、こいつらを殺せ! 皆殺しにするんだ!」


 ギブリスの姿へと戻ったクロウリーが地下にいる魔物化した人間たちに合図を送ると、彼らが私たちに襲いかかってきた。どうやらクロウリーは、私たちと魔物化した人間を戦わせて、私たちに隙ができた所を狙って攻撃するつもりらしい。


「この姿では力の加減が出来ん。すぐにあの世に送ってやる!」


 突然、クロウリーの姿が消失した。気配も感じられない。どうやらマチさんのように実体を消したようだ。私は大声でみんなに忠告する。


「みんな気をつけて! こいつはマチさんと同じように実体を消せるみたい! それがこいつの能力なんだ!」


 クロウリーはマチさんと同じく、実体を消す特殊能力を持っていた。彼は、魔物化した人間たちと戦っている私たちの背後で実体化して、攻撃を仕掛けてきた。アンナさんたちは、なんとかクロウリーの攻撃に反応して、致命傷を回避している。クロウリーは不意打ちをすると、再度姿を消して、私たちに隙ができるのをうかがっている。


「チッ、さすがに戦い慣れてやがる。不意打ちをしても、とっさに身体が反応して急所を避けるとはな。だが、身体にダメージが蓄積していけば、当然動きは鈍っていく。ネズミどもが、じわじわとなぶり殺しにしてやるよ!」


「くっ、不意打ちしてくるこいつの攻撃をかわすだけで精一杯だ。なんとかしないと……」


 私たちは、魔物化した人間たちを相手にしながら、姿を消したクロウリーの攻撃にも対処しなくてはならず、苦戦を強いられていた。


 私は魔物化した人間の攻撃を回避しながら、クロウリーの動きを観察した。そして、クロウリーが自身の位置を悟られないように魔法では攻撃をしてこないことと、攻撃をする一瞬だけ実体化することに気づいた私は、クロウリーを挑発して私に攻撃をするよう仕向けることにした。


「情けない。幹部のくせに、姿を隠して不意打ちするなんて、恥ずかしくないの?」


「舐めた口を聞くんじゃねえ! この小娘がぁ!」


 私は挑発するのと同時にわざと隙を作って、クロウリーの攻撃を誘った。そして、彼が私を攻撃する一瞬、実体化した瞬間を私は逃さない。私はクロウリーの攻撃を回避しつつ、自分の右拳にありったけの魔力を込めて、彼の顔を殴りつけた。間髪を入れずに、狼化したナルカが魔力で強化した爪でクロウリーの身体を引っ掻き回す。私はナルカと連携しながらクロウリーを連続攻撃して、彼に実体を消す余裕を与えない。

 

「ぐうぅ……」


 ナルカに噛みつかれたクロウリーが一瞬怯んだ隙に、私は白い包帯のような細長い帯を魔力で操作して、彼の身体に巻きつけた。この帯にはマチさんを連れ去った少年が檻に書いていた高等魔術言語と同じ術式が書き込んである。この帯が身体に触れている限り、クロウリーは魔法も姿を消す能力も使うことが出来ない。私はこの帯でクロウリーの身体をきつく締め上げて拘束した。


「この帯には私が特殊な術式を書き込んでおいた。この帯に触れている限り、あなたはもう魔法も特殊能力も使えない。それがこの術式の効果なの」


「それがどうした! こんな布きれ、振り解いてやるよ!」


 クロウリーが私の帯を外そうと全身を動かしてもがいている。私は帯を外されないように、帯に魔力を流し込んでクロウリーの身体を締め付け続ける。


「アリサ、そのまま拘束を続けてくれ。後は私がなんとかする」


 カタリナさんがかばんからグリモワールと呼ばれている魔術書を取り出し、しばらくの間、呪文を詠唱し続ける。その間に、アンナさんたちが魔物化した人間たちを倒してくれた。


「もう大丈夫だ。クロウリーの身体に私が使役している悪魔を憑依させた。これでこいつは私の思うがままだよ」


 カタリナさんはクロウリーに憑依した悪魔に命令して、彼がアイシャさんにかけた呪いを解呪させた。


「よし、これでアイシャにかけられた呪いは解けた。次はマリウスや他の幹部たちの情報を教えてもらおうか」


 カタリナさんはそのまま教主マリウスと他の幹部の情報を聞き出そうとする。しかし、次の瞬間、クロウリーの身体が激しく燃え始めた。


「ちっ、やはり呪いが発動したか!」


 カタリナさんは憑依させていた悪魔を元に戻すが、クロウリーはそのまま燃え尽きてしまう。


「何が起きたの?」


「おそらく、クロウリーには教主マリウスから呪いをかけられていたんだと思う。マリウスのことを話そうとすると、身体が燃えて消滅するようにね」


 カタリナさんによると、幹部たちはマリウスから呪いをかけられており、マリウスについての話をさせようとすると、身体が燃えてしまうのだという。


「他の幹部もそうだった。教主のマリウスはかなり慎重な性格らしいな」


「とりあえず、呪いも解けたことだし、アイシャの元に帰りましょう」


「その前に、この地下施設を破壊させてくれ。これ以上、人間を魔物化させるわけにはいかないからな」


「わかったわ。それじゃあ――」


 アンナさんたちが魔法で周囲にある機械のようなものを破壊していく。何故かとても楽しそうに見える。すぐに地下施設はめちゃくちゃになった。


「これで、もうここは使い物にならないでしょう。では、アイシャの小屋まで転送するよ」


 私たちはアンナさんの空間転移魔法で、アイシャさんの小屋へと帰った。

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