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マチさんは必ず私が連れ戻す

 突然現れた謎の少年にマチさんを攫われてしまった。

 

 私たちはすぐにアイシャの小屋に戻り、マチさんの居場所を探す方法を考えた。すぐにマチさんが今いる場所を調べる必要がある。占いや予知の力で何とか場所を探し当てることができれば――。そう思って地下の書庫から占いの本を手に取って眺めていると、その中にウィジャボードの記述を見つけた。


「これだわ。ナルカ、いい方法を見つけたよ」


 私は、紙とペンで簡易的なウィジャボードを作成して、マチさんが今いる場所を占ってみることにした。


「これからウィジャボードを使ってマチさんの居場所を占ってみようと思う。ナルカも協力してくれる?」


「もちろんだよ。マチさんがどこにいるのかわからないと助けにいけないもの」


「ありがとう。それじゃあ占いの準備をするよ」


 私は魔石の破片を削って、即席でプランシェットという文字を指し示すためのアイテムを作った。そして、大きめの紙にウィジャボードと同じ文字を書き込んでいく。


「これで準備はできた。ナルカ、私と一緒に魔石の上に指を置いて、魔力を流してくれる?」


「わかった」


 私とナルカはプランシェットに指を置いて、魔力を流し込みながらマチさんがいる場所を占うことにした。

 初めに、今、マチさんがどこの国にいるのかを質問する。紙に書かれた文字の上をプランシェットがゆっくりと動いて回答した。


「これは、ベルマリクって読むのかしら? 確か、ベルマリク王国という国の名前を聞いたことがある」


 次にベルマリク王国のどの場所にいるのかを質問した。プランシェットはオルドリーアイランドという文字を差し示した。


「オルドリーアイランド、つまりオルドリーという名前の島ってことね」


 ベルマリク王国にオルドリー島という場所があるのかどうか、私たちにはわからなかったので、例の通話が出来る魔道具でブリジットさんに聞いてみた。ブリジットさんによると、確かにベルマリク王国の南端にオルドリーという島は存在するとのこと。その島はかつてエヴァンズという大富豪が大規模なリゾート開発を行っていたことで知られているが、現在は島に存在するほとんどの建物が廃墟となっているらしい。


「場所はわかった。この島に行こうナルカ。マチさんは取り戻す。どんな手を使ってもね」

 

 その前に、私はあの少年が檻に記述していた高等魔術言語について調べることにした。あの檻をなんとかしないと、マチさんを助けられないと思ったからだ。


 私はアイシャの書庫の本棚から高等魔術言語の解説書を探し出して、目を通す。本によると、魔法は頭の中のイメージを具現化する他に、高等魔術言語で術式を記述するか術式を詠唱することでも発動するようだ。術式を使うメリットとしては、イメージよりもより具体的に魔法の効力を調整出来る点にある。そして、イメージの具現化と術式を組み合わせれば、魔法の効力が数倍に跳ね上がる場合もあるそうだ。私は、この本に書いてある基本的な術式の記述方法を全て頭に叩き込んだ。とりあえず、基本的なルールさえ守れば、かなり自由に術式を組めそうだ。あとは、記述を間違えたり、記述した内容に矛盾がなければ、組み込んだ術式がそのまま魔法として発動するはずだ。


 マチさんがいる場所がわかったので、早速空間転移の魔法を使ってみた。この時の私は頭に血が昇っていて、失敗した時のことを考える余裕がなかった。とりあえず、あの少年が詠唱していた言葉を思い出して、覚えたばかりの高等魔術言語で彼の詠唱を再現してみたら、なんと一発で成功してしまった。


 オルドリー島に転移した私たちは、島の中央に大きな洋館があることに気づいた。この洋館の中にマチさんがいる。そんな予感を感じた私は、ナルカの手を取って洋館のある丘の上へと向かう。洋館の入口についた私は、レイさんの真似をして、マチさんの魔力を感知できないか試してみた。洋館の中から、はっきりとマチさんの魔力が感じられた。

 

「この中にマチさんがいる。ナルカ、いくよ」


(マチさんは私が連れ戻す。どんな手を使ってもね……)

 

 入口の扉を開けて中に入ると、大きなエントランスとなっているホールの中央であの少年が待ち構えていた。


「まさか僕のアジトに来るとは、驚いたよ。どうやってこの場所がわかったんだい?」


「あなたに教えるつもりは無いわ。マチさんを返してもらう」


 すでに頭に血が昇っていた私は、少年を睨みつけながら答える。


「おやおや、随分と殺気立ってるねえ。せっかくのかわいい顔が台無しだよ。あのお姉さんは僕のママになったんだ。君たちに返すつもりは無いよ」


「……聞こえなかったの? マチさんを返せ!」


「僕の意見は無視か。これは相当お怒りなようだ。ならば、僕から奪えばいい。今の君にできるのならね!」


 少年はいきなり私たちに閃光の魔法で攻撃してきた。彼の手のひらから、青白く輝く光線が私たちに向かってまっすぐに向かってくる。私はナルカの前に立つと、魔法で大型のシールドを展開して、彼の魔法を防いだ。


「詠唱もせずに僕の攻撃を防ぐシールドを張るとは、やるじゃないか」


 正直、自分でもどうやっていたのかはなんとなくしか覚えていない。ただこの時は頭に血が昇っていて、とにかくこの少年を倒してマチさんを連れて帰ることしか考えていなかった。だから、無意識のうちに身体が動いて、魔法を防ぐシールドを作っていた。


「ナルカ、私がやるわ。下がっていて」


「わかった」


 ナルカが十分に私から離れたのを確認したので、私は空間転移の魔法を唱えて、少年の背後に移動した。そしてそのまま彼を同じ閃光の魔法で攻撃した。


 背後から私の閃光魔法をまともにくらって吹き飛んだ少年は、空中でくるくると身体を回転させて勢いを相殺しながら、ゆっくりと着地した。


「今のはいい攻撃だった。完全に不意をつかれたよ。しかし驚いたな。空間転移の魔法まで使えるとは。まだ若いのに、高等魔術言語を知っているのか」


「マチさんを返せ……」


 私の身体が勝手に動いて少年を攻撃する。なんとなくどう動いたのかはわかるが、自分でも信じられないような動きをしている。私は少年が攻撃を回避できないように、体術による攻撃と魔法による攻撃を織り交ぜて、複数の方向から同時に攻撃を仕掛けていく。


「この小娘、何て動きをするんだ。これは人間の限界を超えているよ。怒りで覚醒して、自分の限界を超えたのか。前に会った時より、体内の魔力量もかなり増えている。これはまずいかもな」


 私の攻撃を回避しきれなくなった少年の身体に魔力を込めた私の拳がぶつかる。そして、もう片方の私の拳が、彼のアゴにクリーンヒットした。

 

「ちっ! やはり子供の身体では限界があるか! 残念だが、一度この肉体から離れるしかないな。だが、次はこうはいかんぞ! 覚えていろ!」

 

 少年は断末魔のように捨て台詞を吐くと、倒れて動かなくなった。怒りが抑えられなくなっていた私は、仰向けに倒れている少年に馬乗りになった。

 

 「奪うな! 私から大切な家族を奪うなぁ!」

 

 そう叫びながら、私は少年の顔を何度も何度も殴り続けた。


「もうやめてアリサ! この子はもう意識を失ってるよ!」


 私はナルカに殴るのを止められるまで、少年を殴り続けていた。


 ナルカのおかげで少し頭が冷えた私は、念のため少年の身体を拘束してから、彼に回復魔法をかけて私が殴って出来たケガを治してあげた。


 再度、魔力を感知してみる。この部屋の下からマチさんの魔力を感じる。マチさんの他にも何人か人間が捕まっているようだ。私たちは急いでエントランスの階段を降りて地下へと向かう。マチさんは地下にある牢屋の中に入れられていた。


「マチさん、大丈夫? 今助けるからね」


「アリサ、ナルカ。私を助けにきてくれたのね。本当にありがとう。私なら大丈夫よ。他にも彼に捕まった人がいるの。彼らも助けてあげて」


 私はカバンからダウジングロッドを取り出して、魔力を込めながら鍵の場所を探知する。私の握っているダウジングロッドがゆっくりと動き出し、戸棚の前で止まった。ロッドが指し示している戸棚を開けると、中に檻の鍵が入っていた。私は牢屋の檻の鍵を順番に開けて、マチさんと、少年に捕らえられていた人たちを救出した。


 私とナルカは檻から出てきたマチさんに抱きついて泣きじゃくった。マチさんも私たちを優しく包み込むように抱き返してくれた。私は捕らえられていた人たちを空間転移の魔法でグランレスタの街まで送り届けてから、再度空間転移の魔法でナルカとマチさんと一緒に私たちの暮らすアイシャの小屋まで戻った。


 こうして私たちはマチさんを連れ戻すことができた。マチさんの魔力を感知したのか、レイさんがすぐに小屋にやってきた。


「連れ去られた時はどうなるかと思ったけど、無事に連れ戻せたんだね。本当によかった。あの時は何もできず、あなたを助けられなかった。本当に申し訳ない」


 レイさんがマチさんに深々と頭を下げる。


「頭を上げてくださいな。みんなあの子に動けなくされていたんですから。それに、皆さんが私を助けようとしてくれた。それだけで、私は幸せですわ」


 マチさんはレイさんににっこりと笑った。本当に素敵な笑顔だ。


 マチさんが連れ去られてから私はずっと寂しかった。だから、マチさんが戻ってきてから、私は毎朝マチさんの胸を求めてしまっている。最近は胸だけでは我慢できなくて、マチさんの唇にキスしてから、自分の欲望の赴くままに、マチさんの全身を舐めたり吸ったりしてしまっている。マチさんは、そんな私のことを優しく抱きしめて、受け入れてくれた。


 もう、マチさんのいない生活なんて考えられなくなっていた。私の中で、マチさんとナルカと三人でずっとずっと暮らしていきたいという気持ちがどんどん強くなっていった。


 私から家族を奪う人間を、私の幸せを奪う人間を、私は絶対に許さない。

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