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呪い移しが完成した

 大蛇のうろこを手に入れた私たちはエルザさんの店へと戻った。店に入るとすぐに、エルザさんたちが私たちのことを出迎えてくれた。


「お帰りなさい。その顔だと、色々あったみたいね」


「ええ。ベルンは大変なことになっていました。領主が重税をかけていて……」


「とりあえず、あなたたちが無事で帰ってきてくれて本当によかった。とりあえず話は後にして、お茶でも飲んでゆっくりしましょ」


 エルザさんが私たちの苦労を労うように、にっこりと微笑んでくれた。彼女が気を遣ってくれているのがとても嬉しかったが、同時に少しだけ申し訳ない気持ちになった。


「こっちに来て。お茶の準備が出来てますよ」


 私たちはフラニーさんが準備してくれたお茶とお菓子を食べながら、ベルンで起きていた出来事を全て話した。


「まさか、大蛇が生贄に差し出された村人を助けていたとは。いやあ、真実は小説よりすごいものだな」


「それに、ベルンの村人たちが、家族を山に捨てるところまで追い込まれていたとは知りませんでした。食べる物が無いというのは本当に辛いことなんですね」


「それで、アリサたちはバルザックとかいう領主の悪行をグランレスタの騎士団長さんに報告したんだったな。うまくいくといいね」


「騎士団長のブリジットさんは国王様の関係者と繋がりがあります。うまく動いてくれるはずです」


 正義感の強いブリジットさんなら、きっと何とかしてくれる。きっと、エヴァさんにもこのことを話して、何らかの対処をしてくれる。私にはそんな確信があった。


「国王様は正義感の強いお方だと聞いている。ベルンの惨状を知ったら、きっとその領主を何とかしてくれるさ。あ、そうそう。人形、作ってみたんだ。見てくれるかな」


 エルザさんが私の目の前に大きな人形を差し出す。私たちがベルンに行っている間に、エルザさんは可愛らしい見た目の人形を作ってくれていた。


「すごく素敵な人形。エルザさん、ありがとうございます」


「気に入ってくれたみたいだね。まあ、ここまで見た目を可愛くする必要は無いんだけど、せっかくだからね」


「可愛い呪いの人形。ギャップがあって、より怖くなるかもしれませんね」


「そう言ってくれるとうれしいよ。後は今回手に入れた素材を使って、呪いを吸収するための宝珠を作る。そして、宝珠を体内に埋め込んだら、高等魔術言語で人形が呪いをかけた人物を追いかけ続けるように命令を書き込むだけだ」


 私はエルザさんの作業部屋を借りて、宝珠の精製にとりかかった。火喰い鳥の涙と大蛇のうろこを合成して、新しい宝珠を作る。そのために、火喰い鳥の涙に少しずつ魔力を込めていく。魔力を込めた火喰い鳥の涙が徐々に高温になっていく。高温になり、マグマのように溶けたところで大蛇のうろこを入れる。熱で溶けたうろこが火喰い鳥の涙と混ざり合ったら、ゆっくりと冷ましていく。この時、急激に冷えると割れてしまうため、火の魔法を使って温度を細かく調節しながら回転させて球の形に整えていく。

 混ざり合った素材が固まり、綺麗な丸い宝珠が出来た。エルザさんに確認してもらうと、予想以上によく出来ていると褒めてくれた。

 私は、エルザさんが作ってくれた人形の胸の部分に宝珠を埋め込んだ。そして、エルザさんに教えてもらいながら高等魔術言語で人形に命令を書き込んでいく。エルザさんが高等魔術言語の辞書を持っていたので、私は何とか命令を書き終えることが出来た。


「完成しました。エルザさん、本当にありがとうございます。あなたの助けが無ければとても作れませんでした」


「アリサ、あなたががんばったから製作できたのよ。正直、この人形の製作難易度はAランクを超えている。それをきちんと作れたのはアリサ、あなたの実力が本物だっていう何よりの証拠だ。後でアリサがAランクになれるように、私が書いた推薦状を訂正して協会に出しておくよ」


 こうして、成り行きで錬金術を始めた私は、いつの間にかAランクの錬金術師になってしまった。私にはまだその実感は無いけど、エルザさんのような凄腕の錬金術師に認められたのは正直嬉しかった。


 エルザさんたちにお礼と別れを告げた私たちは、レイさんたちの待つ森へと戻った。レイさんは魔力の感知が出来るらしく、私たちが森に入るとすぐに私たちの元へと駆けつけてくれた。


「ただいま、レイさん」


「おかえり。その顔だと、どうやら解呪のアイテムは完成したみたいだな」


「ええとね、解呪とは少し違うんです。これなんですけど……」


 私はカバンの中から大きな人形を取り出して、レイさんに見せた。


「なるほど。人形型のアイテムなんだね」

 

「ええ。これは対象にかけられた呪いを吸い取る人形なんですけど、その呪いをかけた人物に、この人形が復讐をするんです。呪いが効力を失うまで、この人形はその人物を襲い続けるんですよ。かけられた呪いが強力なほど、この子も強くなるんです」


「それは興味深いアイテムだ。すぐに試したい所だが、妻もリリも君たちにずっと会いたがっていてね。ぜひ、顔を見せてあげてくれないかな?」


「もちろんです。私たちもルカさんやリリちゃんに会いたいですから」


 私たちはレイさんの家へと向かった。待ちきれなかったのか、私の姿を見るなりリリちゃんが走り出して、私に抱きついてきた。


「アリサさん、おかえりー。会いたかったよおー」


 リリちゃんは私の胸の中で大泣きしている。


「ただいまリリちゃん。長い間待たせてしまってごめんね。寂しかったのね。私もよ。ずっとリリちゃんに会いたかったわ」


 私はリリちゃんの頭を抱き寄せて、頭をやさしく撫でてあげた。少し前まで、レイさん一家は赤の他人だったのに、今ではかけがえのない存在になっている。私にはそれが嬉しかった。ナルカやマチさん以外にも、こんなに人と繋がりが持てるなんて、この森に来た時には考えられなかったからだ。ここに来る前の私はどうだったんだろう?

 いまだに森に来る以前のことは思い出せない。一番古い記憶は、私が車にはねられた時の出来事だ。でも、その記憶も徐々に不鮮明になってきている。それでも、私は、今が一番楽しいから、過去のことは気にしないことにした。ナルカとマチさんと一緒に、今、この瞬間を精一杯生きる。それだけで、今の私は十分に幸せを感じられる。

 

 私たちはレイさんと森の精霊の元へと向かった。私の作った鎮静薬の効果はまだ切れていないようで、精霊は静かに眠りについていた。

 私はカバンなら人形を取り出して、宝珠の部分を森の精霊の身体に押し付ける。その瞬間、精霊の体内からどす黒いオーラが出てきて、宝珠へと吸い込まれていく。呪いを吸収していった人形は翼の生えたおぞましい魔物の姿へと変貌していった。


「こんなに恐ろしい姿になるなんて……」


「どうやら私たちが考えていた以上に精霊にかけられた呪いは強力だったみたい」


「グオオオオオオ」


 魔物と化した人形は咆哮をあげると、空に飛び上がっていった。その姿に見とれて、私たちは油断していたのかもしれない。私はこの時、周囲に無警戒だったことを死ぬほど後悔することになる。


「やっと見つけたよ、お姉さん。ブレイズベリーで見かけてからずっと気になっていたんだ」

 

 突然、青い髪の少年が現れて、マチさんの上空に巨大な鳥籠のような檻を召喚した。マチさんは上から落ちてきた籠の中に閉じ込められてしまう。完璧に気配を消していたらしく、私たちは彼が喋りかけてくるまで近くに来たことに気づくことができなかった。


「マチさん!」


「うーん。身体を消して外に出ようと思ったけど、何故か身体を消すことが出来ないわ」


「これは僕が気に入った人間を捕まえるために作った特製の檻なんだ。この中では魔法も特殊能力も使えないよ。全部無効化するように高等魔術言語で術式を組み込んであるからね」

 

 檻の中にいるマチさんは実体を消すことが出来ずに、檻の柵をガンガンと揺らしてなんとか外に出ようともがいている。とにかくマチさんを助けたい私は、すぐに檻へと近づいて、檻の柵を握りしめた。


「お姉さん、マチっていうんだね。ふふ、本当にかわいいなあ。僕はねえ、家族になる人間を集めているんだ。マチさんには、僕のママになってもらおうかなあ」


 青い髪の少年は無邪気に笑いながらマチさんの顔を見つめている。ミオス山のふもとにある洞窟の中で感じた人の気配は、きっとこの少年だったんだろう。それからずっとこの子はマチさんを狙っていたみたいだ。あの時、もっと気にしておけばよかった。

 

「待ってマチさん。今助けるから」


 私は檻を壊そうと、柵を握りしめている両手に魔力を込める。

 

「無駄だよ。君じゃこの檻を壊せない。とりあえず、手を離してもらうよ」


 私がありったけの魔力で両腕の力を強化して柵を壊そうとした瞬間、私の両腕に電撃が走る。


「痛っ!」


 あまりの激痛に私は思わず手を離してしまった。どうやら少年が檻に魔法で電気を流したようだ。


「ふふ、魔法を使えないと思って油断したね。一応、僕だけは魔法や能力が無効化されないようにちゃんと檻にかけた術式を調整してあるんだ」


「大丈夫か、アリサ」


 レイさんが私の前に立って少年から私を守ってくれる。


「彼女たちは俺の大切な仲間だ。傷つけるような真似はこの俺が許さない」


 レイさんが少年を睨みつける。


「その見た目。君は魔族なのかな? どうでもいいけど、僕の邪魔はしないでもらいたいな」


 少年の目が怪しく光る。次の瞬間、私たちの身体はまるで金縛りにあったかのように動かなくなってしまった。


「ふふ、これでしばらく君たちは動けない。それではマチさんを僕のアジトへ連れて行くとしよう」


 私たちが動けないことを確認した少年は、そのまま高等魔術言語らしき言葉を詠唱する。そして、彼と檻に入ったマチさんは忽然と姿を消してしまった。少年の術と全身の痺れで身体が動かない私には、彼がマチさんを連れ去るのをただ見ていることしか出来なかった。


「アリサ、大丈夫?」


 ようやく動けるようになったナルカが、心配そうに私に声をかけてきた。


「まだ身体が痺れているけど、なんとか大丈夫よ」


「あの子と一緒にマチさんがいなくなっちゃった。どうしよう」

 

「おそらく、あの少年が空間転移の魔法を使って、マチさんごとどこかへと移動したんだ。とりあえず、どこに移動したのかを調べて、私たちもすぐに追いかけよう」

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