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皇太子妃の身代わりとして隣国へ引き渡され移住先で聖女をしていたら、元婚約者が追いかけてきた  作者: 綾井このか
1章

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21/22

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したから推しCPを堪能しようと思ったのに、ヒロインが全く恋愛フラグ立ててくれないんですけど!?➁

 ヴィクトリア・サンプトンに成り代わって1ヶ月が経った頃、事件が起きた。

 一日の終わりに侍女に湯浴みを手伝って貰っていると、侍女がふとそれに気づいたことが全ての始まりだった。


「お嬢様、背中に大きな痣があるのですが、お痛みはありませんか?」

「痣? どの辺り? 痛みは全くないけど、背中なんてぶつけたかしら……」

「ここです。大きな丸い痣です……それに、何だか模様のような……」


 侍女が痣の場所を伝えるために触れたのは、背中の中心辺りだった。

 そんなところを痣になるほど強くぶつけた覚えがないが、寝相が悪いので寝ている間にベッドの柱で打ったりしたのだろうか?

 そんなことを考えていると、侍女が息をのむのが聞こえた。


「何? この痣、そんなにひどい?」

「いえ、そうではなく……。お嬢様、これはただの痣ではなく、月の痣のように見えます……」

「月の痣?」

「……はい。聖女様の証の、月の痣でございます」

「……え?」


 聖女の証の月の痣。

 ゲーム『つきこい』でヒロインであるララちゃんが左手の甲に持つ、聖女の証、三日月の形の痣。

 このグランジアでは30年に1人、その痣をもつ女児が生まれる。

 グランジアが信仰する月の女神に選ばれた女児には、国を守り発展させていくための特別な力がある。

 雨を呼び太陽を呼ぶ、人々の心の闇を癒すこと。


 その月の痣が私にあるのは、どう考えてもおかしい。

 17年前にララちゃんが月の痣をもって生まれ、17歳を迎えた彼女は先代の聖女から任を引き継ぎ、立派に聖女として活躍している。

 次の聖女が生まれるまで、あと13年もあるはずだ。


「そんなはずないわ、聖女様はもういるじゃない。それに丸い痣なんでしょう? 月の痣は三日月の形だから違うじゃない」

「確かに丸い痣ですが、月の表面のような模様が痣にしっかりと出ています。間違いありません、これは大聖女の証です」

「大聖女?」


 大聖女。

 ゲームにはなかった設定だが、私はそれを知っていた。

 ヴィクトリアに成り代わった私には、彼女の今までの記憶が残っていて、これまでの出来事や思い出のみならず、彼女が学んだ事の記憶も引き継いでいた。


 大聖女とは、満月の形の痣を持って生まれた女児の事で、三日月の形の痣を持つ聖女よりも強く大きな力を持つと言われている。

 大聖女が生まれるのは数百年に一人ほどで、かなり希少な存在である。

 けれど、聖女は30年に一人。

 今代の聖女の任期はまだ始まったばかりだ。

 一代に二人の聖女が存在するなんて事は、今まで一度もなかった。


「とにかくお嬢様、旦那様に報告して神殿に連絡しなければ……」

 「で、でも、この痣生まれつきあるものじゃないわ。そうでしょう?」


 月の痣と言うのは生まれつきあるものであって、ヴィクトリアには背中に痣なんてなかったはずだ。


「それはそうですが……。どうみても月の痣なのです。神殿に連絡する義務がありますし……」


 結局、侍女の言う通りお父様やお母様も呼んで背中の痣をみて貰った。

 痣を見た2人は、確かにこれは月の痣だと言う侍女と同じ意見だった。

 私も鏡に映して自分の痣を確認すると、それは確かにただの丸い痣ではなくて、月のクレーターのようなまだら模様がはっきりとあり、夜空に浮かぶ満月のように立体的だった。


 月の痣を見つけたら神殿に報告しなければならない。

 これはグランジアにある法律なので、私たちは決まりに従い、次の日の予定を全てお断りして神殿に出向いた。


 神殿ではゲームの登場人物で、ヒロインの恋をサポートしてくれるお助けキャラでもある神官長と面会し、背中の痣を見せた。

 一代に二人の聖女、しかも大聖女の証が後天的に現れたなんてことは前例もなかったが、神官長は私の背中に現れた痣を月の痣だと認めた。

 そうして私は、神殿に移り住むことになった。


 話がどんどん進んでいく一方で、私の心は戸惑いと不安でいっぱいだった。

 聖女よりも力の強い大聖女なんてものになってしまったが、私にそんな力があるのだろうか?

 そして、聖女よりも力の強い大聖女が現れてしまったら、今代の聖女であるララちゃんの立場を脅かしてしまうのではないか。

 たくさんの不安を抱えながら神殿に引っ越してきた私を、ララちゃんは温かく歓迎してくれた。


「初めまして、ヴィクトリア様。ララと申します。これからどうぞ、よろしくお願いいたします」


 実際に会ったララちゃんは、画面越しに見るよりずっと可憐で魅惑的だった。

 大好きなララちゃんを画面越しではなく、実物を真正面から眺めることができて、私は感動を圧し殺すのに精一杯だった。

 ララちゃんははじめの方こそ、悪い噂のあるヴィクトリア(私)との共同生活に戸惑いを見せていたが、予想外に私が接しやすい性格だと感じてくれたのか、どんどん懐いてくれた。

 朝、神殿の廊下で会うと、嬉しそうにぱあっと笑顔を咲かせて駆け寄ってくるララちゃんは国宝級に可愛い。

 私は毎日推しに会える喜びを堪能し、神殿で楽しく暮らしていた。


 しかし私は、大問題に直面した。

 それは、ララちゃんが攻略対象キャラどころか、誰とも恋愛フラグを立ててくれないことだ……!!


 神殿でひとつ屋根の下、数年間ララちゃんと共同生活を送っていたアラン・ハーデンは、ララににこりともしない。

 それどころか、ララちゃんは神殿ではアランの先輩であるはずなのに、鉄面皮で取っつきにくい彼に苦手意識を感じている始末。

 正直なところ、ララちゃんにはギルバートと幸せになってほしいが、万が一ギルバートルートが失敗に終わってしまった時、まかり間違ってもセドリック王子ルートとダニエル王子ルートへ入ってしまわない為の保険がほしい。

 保険扱いしてアランには申し訳ないが、私は牢獄行きは御免だし、ララちゃんにバッドエンドを辿らせるわけにはいかないのだ。

 私は心を鬼にして、ララちゃんにアランとの恋愛フラグを建たせようと企んだ。


「ララ様とアラン様が並んでいると、まるで一枚の絵画のように様になりますわ」

「お二人はとても仲がおよろしいのですね」


 まず手始めに、二人が一緒にいるときを狙って茶々をいれてみた。

 今は恋愛とは程遠い関係の二人だが、外野から冷やかされれば多少は意識するはず。

 しかしそんな作戦ではうまくいかず、むしろララちゃんとアランは顔を合わせそうになると全力で方向転換し、私に茶化されないためにお互いを避けるようになってしまった。

 それに、私が茶化すたびララちゃんは顔面蒼白になり、恐る恐る鉄面皮のアランの顔色を伺っているので可哀想になり、この作戦は取り止めることにした。


 それでも保険を諦めきれなかった私は、聖女の仕事で地方都市へ遠征に行った時、思いきった行動に出た。


「ララ様、この街は王都にはない珍しい店がたくさんある、人気の観光地なのですよ」

「そうなのですね……。確かに、たくさんの人で賑わっていますね」


 なかなか神殿のそとに出ることのないララちゃんは、たくさんの土産物屋や飲食店が軒を列ねる賑やかな街に、瞳を輝かせていた。

 本当は私自ら、可愛らしいララちゃんをエスコートして全力で楽しませてあげたいが、それはまた別の機会のお楽しみにとっておく。


「ララ様、せっかく来たのですから、散策へ出てはいかがです? そうだ、アラン様を誘ってみては? きっと楽しい時間を過ごせますよ」

「……え、アラン、様を、ですか?」

「ええ。以前お聞きしたのですが、アラン様はよくこの街へ観光に来るそうで、この街をよくご存知なのですって。きっといろいろと案内してくださるわ」

「あの……、でしたら、ヴィクトリア様もご一緒にいかがですか? アラン様と二人というのは、どうにも居心地が悪くて……」


 予想通り、アランの名前を出したとたんにララちゃんの表情がひきつってしまった。

 この遠征はアランルートに入るために重要なイベントなのだ。

 二人はこの街を散策し、人混みの中で一瞬アランとはぐれてしまったララちゃんがナンパされ、そこへ颯爽と現れたアランが「彼女に近づくな」と、普段は見せない男らしいところを見せてララちゃんの手を取って……。

 手を繋いだ二人はお互いを意識しはじめて、楽しい一日を過ごすのだ。

 ……ゲームでは、ララちゃんとアランの関係はこのイベント前も良好だったが……。

 とにかくこのイベントは絶対に成功させてほしい。

 ララちゃんは可哀想だけれど、この機会は絶対に逃せない!


「私は今日はお祈りをして過ごしたい気分ですので、一日宿にいると、もう護衛に伝えてしまったのです」

「そうですか……。では、私もお祈りして過ごすことにします」

「いえいえ、ララ様はめったに街に出たりなさらないではないですか。せっかくですから、今日は楽しんできてくださいな。それでは失礼します」

「えっ、あっ……」


 何か言いたそうなララちゃんを残して、私はさっさと宿に入った。

 ごめんねララちゃん。

 でもこれはララちゃんの幸せのためなのよ……!

 後ろ髪を引かれる思いでララちゃんを突き放した私だが、結局私の作戦はまたしても失敗に終わった。


 夕食の席に現れたララちゃんを見つけると、私はすぐさま彼女の隣に座って今日は楽しかったか尋ねた。

 しかし、ララちゃんは苦笑いで「それが……」と言いにくそうに話し出した。


 ララちゃんは私の助言を素直に聞いて、勇気をふりしぼってアランを散策に誘った。

 けれど彼の返事は……。


「ララ様、我々は遊びに来たのではないのです。ヴィクトリア様は明日の儀式のために一日お祈りで力を高めるご予定とお聞きしました。ララ様も見習われるべきではございませんか?」


 そう言って叱られてしまったので、あの後お祈りして過ごしていました、とララちゃんはすっかりしょげてしまっていた。


 なんだあいつ……!

 こんなに可愛いララちゃんの誘いを断ったうえに叱るなんて……!!

 許せない!!


 私はアラン・ハーデンに怒りを燃やし、ララちゃんにあんな男は相応しくないと判断した。

 たとえ保険だとしても、もうアランとのルートは必要ない。

 もっとララちゃんに優しい、いい男がいるはずだ。

 ゲームに登場する攻略対象キャラだからと、アランにこだわる必要はないのだと思い直した。


 なぜゲームのイベントが発生しなかったのかはわからない。

 もしかしたら、私というイレギュラーな存在がいるせいで、ゲームのシナリオ通りに進まない世界線になってしまったのかもしれない。

 私の存在自体が、ララちゃんの幸せを阻んでいるのかもしれない。

 そう思うとやるせなくてたまらない。


 けれど私は落ち込んで暗くなるような人間ではなく、割りとポジティブな方だ。

 落ち込んでてもしかたない、落ち込む時間がもったいない!

 アランがダメなら次だ、次!

 大本命、ギルバートルートに全力投球するのみである。


お読みいただきありがとうございます!

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