表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
皇太子妃の身代わりとして隣国へ引き渡され移住先で聖女をしていたら、元婚約者が追いかけてきた  作者: 綾井このか
1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/22

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したから推しCPを堪能しようと思ったのに、ヒロインが全く恋愛フラグ立ててくれないんですけど!?

 トラックにはねられ、目が覚めたら──。

 乙女ゲームの悪役令嬢に転生していた。


 私は岡本早織。

 神社の娘で、人よりちょっとだけ霊感がある以外はいたって普通のアラサー女子。

 実家の神社は兄が継いでくれ、何のしがらみもない私は会社勤めの独り暮らし独身貴族、休日は趣味の乙女ゲームを好きなだけプレイしたりアニメ鑑賞をしたり、それなりに人生を楽しんでいた。


 そんなある日、会社から帰宅する途中、歩道を歩いている私のもとに、対向車線を走っていたトラックがスピードを落とさずに突っ込んできた。

 迫り来るヘッドライトの眩しさに、私は目を開けていられず……。

 どうやら私は、そのまま死んでしまったらしい。


 本当に死んでしまったのか、実際のところわからない。

 だって次に目を開けたとき、私は大好きな乙女ゲームの世界の、登場人物になっていたんだから。


 天涯つきのベッドにフリルがたくさんのカーテン、私が住んでいたワンルームの部屋より遥かに広い寝室、そこで私は目が覚めた。

 すべすべの白い肌にツヤツヤな長い金髪、少し下を見るだけで視線に入るくらい恵まれたバスト。

 これ絶対私の体じゃないぞと、私はすぐに確信した。

 近くにあったドレッサーの鏡を見ると、そこには金髪に紫色の瞳の美女がいた。


 あ、私知ってる。

 これは二次元界隈によくある設定、死んだと思ったらゲームの世界の登場人物に転生するやつだ。


 しかも私が転生したのは、大好きな乙女ゲームのヒール役。

 ヒロインに立ちはだかる恋のライバル、所謂悪役令嬢だ。




 乙女ゲーム『月の聖女と恋の王国』、通称”つきこい“は、月の女神に聖女として選ばれたララ・エールが、聖女の力でグランジア王国に貢献しながら、その過程で出会った見目麗しい男性と恋に落ちると言うストーリーだ。

 主人公のララ・エールはプレイヤーが操作するキャラクターで、勿論名前変更可能。

 ゲーム内のスチルでは後ろ姿しか描かれていないが、私はララちゃんのキャラクタービジュアルがめちゃくちゃ好きだ。

 公式ホームページで初めてララちゃんのビジュアルを見たとき、あまりの可愛らしさに感動した。

 ピンクブラウン色のふわふわな長い髪に、くりっとした真ん丸のグレーの瞳。

 守ってあげたくなるほど華奢で小柄な彼女が、長身キャラと並ぶと身長差が尊い……!

 私は、ララちゃんの愛らしさに惹かれてこのゲームを購入したと言っても過言ではない。


 ララちゃんが尊いのは見た目だけではない。

 素直で純粋で心優しく、自分の事よりも他人の幸せを第一に考えるようなとてつもなく良い子なのだ。

 更には彼女の生い立ち……。

 聖女の印である三日月の形の痣を持って生まれたために生まれてすぐに家族と引き離され、17歳まで神殿の外に出ることも許されない厳しい修行の日々。

 自由を奪われて生きてきたと言うのに、泣き言や我が儘を言わず、聖女になってからも国のために献身的なララちゃんに、素敵な恋をして幸せを掴みとって欲しいと、誰もが思うだろう。

 私は強くそう思う。


 そんな彼女を取り巻く攻略対象は四人。


 まず一人は、グランジアの皇太子、セドリック王子だ。

 太陽の光の様に輝く金髪に、海のように美しい青い瞳。

 勤勉で博識、品行方正、正に非の打ち所の無い完璧な王子様。


 そして王宮の第一騎士団で副団長を勤める、ギルバート・エイブリー。

 身長は190センチ越え、日々の鍛練で鍛えぬかれた肉体、赤茶色の短髪に切れ長のグリーンの瞳。

 真面目で寡黙、少し近寄り難い雰囲気のクール系美男子でしかも伯爵家の三男と家柄もいい。

 ちなみに、私はギルバートルートが一番のお気に入りだ。

 ララちゃんとの身長差が素晴らし過ぎる……。


 それからララちゃんと神殿で一緒に暮らしている神官アラン・ハーデン。

 少し長めの黒髪に、インディゴ色の瞳、肌が透き通るくらい白く、イケメンと言うよりは美女。

 侯爵家出身のため恐ろしく品があり、どこか儚げな美しさで男女問わず魅了している。


 最後に、グランジア第二王子、ダニエル。

 セドリック皇太子の弟で、髪の色は銀色だが、瞳はセドリックと同じ青色。

 生まれつき体が弱く、離宮に籠って療養していて表舞台に顔を見せたことがない。

 ダニエルのルートはバッドエンドとメリバしか存在しないので、プレイするのはとても辛かった。

 もしかしたら、攻略対象4人制覇したらダニエル王子のハピエンルートが解禁されるのでは? と思って攻略対象キャラを制覇したけれど、結局ダニエル王子の幸せルートは見つからなかった……。

 ダニエル王子は離宮から出ることはないし、ララちゃんも用がなければ神殿の外にすら出ないので、ララちゃんがダニエル王子のルートに入ることはないと思うが、絶対にダニエル王子ルートだけは回避せねばと思っている。


 4人の中でもセドリック王子は攻略対象の特別枠で、彼のルートではララちゃんは聖女でありながら皇太子妃となり、やがて王妃になる。

 しかし攻略がとても難しい。

 と言うのも、四人の攻略対象の中で唯一恋のライバルがいるからだ。


 そう、そのライバルこそが私、岡本早織が成り代わってしまったキャラクター、ヴィクトリア・サンプトン侯爵令嬢である。

 ヴィクトリアは侯爵家の長女として生まれ、皇太子であるセドリック王子の婚約者に決まってから、将来立派な王妃になるために厳しい教育を受けてきた。

 彼女は自分の生まれや未来の王妃という身分に大変な誇りを持っていて、そして自分がそれらに相応しい存在でいることに努力を惜しまない完璧主義で、自分にも他人にもとても厳しい性格だった。


 決して悪い人間と言うわけではなくて、真面目で誠実な性格が故に尖った人になってしまったのだと思う。

 ヴィクトリアは自分が完璧でいるために邪魔だと思った物は全て切り捨てた。

 粗相をしてしまった侍女や屋敷の下働きの者には厳しい処罰を下し、最悪の場合は解雇するので、サンプトン侯爵家で働く人々はみんなヴィクトリアを恐れた。

 そしてヴィクトリアは自分に敵意を向ける相手にも容赦がなかった。

 茶会や夜会で一言でも自分に嫌味を言う令嬢がいようものなら、手を滑らせた振りをしてシャンパンやワインを令嬢のドレスにかけて恥をかかせたり、皇太子の婚約者と言う立場を使って令嬢を孤立させたり……。

 とにかく自分が完璧でいるために、ヴィクトリアは冷酷な人間になってしまい、たくさんの人から恐れられる存在だった。


 そんなヴィクトリアを見て、セドリックは彼女が未来の王妃に相応しいのか、考えあぐねていた。

 ヴィクトリアは親が決めた未来の結婚相手で、セドリックにとってはそれほど特別な思い入れはない。

 けれど、家柄と教養でヴィクトリアの右に出る令嬢はいないし、婚約が決まったその日から、ヴィクトリアは王妃になるため凄まじい努力の日々を過ごしている。

 他に相応しい令嬢もいない。

 セドリック王子はヴィクトリアとの婚約を解消する理由がなかった。


 そんなセドリック王子と、正式に聖女となったララちゃんは顔を合わせる機会が多くなった。

 ヴィクトリアにはない柔らかく優しい雰囲気のララちゃんに、セドリック王子はやがて心惹かれていき、二人はひっそりと恋心を育てていく。


 しかし、それを見逃してやるヴィクトリアではない。

 決められた婚約者とは言え、ヴィクトリアはセドリック王子を愛していた。

 だから将来王位を継承する彼を支えたいと強く思い、その一心で厳しい王妃教育に耐え抜いて完璧な存在を目指してきた。

 それなのに、神殿でぬくぬくと育てられてきた平民出身の女にセドリック王子の心を奪われて、ヴィクトリアは嫉妬に狂ってしまう。

 ララちゃんも神殿で厳しい修行の日々を送っていたのだが、ヴィクトリアはそんなことは知らないので、ララちゃんを甘やかされて育った小娘と思っていた。


 嫉妬の感情に飲み込まれたヴィクトリアは、あらゆる手を尽くしてセドリック王子とララちゃんの仲を引き裂こうとしたが、ヴィクトリアが邪魔にはいる度に二人の愛は深まっていった。

 やがてヴィクトリアは聖女暗殺を殺し屋に依頼し、それが失敗したことで罪に問われ、裁判にかけられる。

 自ら手を下しそうとした訳ではなかった事で、ヴィクトリアは死刑を免れ終身刑となり、その後の生涯を囚人として過ごすことになった。


 そしてヴィクトリアとの婚約が解消されたセドリック王子は、晴れてララと結ばれ、二人はやがて王位を継ぎ、幸せに暮らした。




 冗談じゃない。

 死ぬまで牢獄の中なんてそんな人生絶対に嫌だ。

 まだ社畜をしていた方がましである。

 何としても、そんな結末は阻止しなければならない。


 だから私は決意した。

 セドリック王子との仲を良好にしよう。


 ゲームでは、完璧を求めすぎるがあまり冷酷になってしまったヴィクトリアの事を、セドリック王子はあまりよく思っていなかった。

 だからララちゃんと言う天使の登場で、セドリック王子の心はあっさりとそちらへ向いてしまったのだ。

 つまり、ヴィクトリアが冷酷な人間でなければ、セドリック王子との仲も良好になるはずである。


 それでもセドリック王子がララちゃんに心惹かれるなら、その時はセドリック王子に婚約解消の話を持ちかけて、全力で二人の仲を応援すればいい。

 二人の仲を引き裂こうとさえしなければ、ゲームのような結末は避けられるはずだ。


 かくして私は、ヴィクトリア・サンプトンいい人作戦を開始した。

 作戦は簡単で単純な事だ。

 とにかく人に優しくすること、怒らないこと、よく笑うこと。

 私はヴィクトリアに成り代わった日からこれを徹底した。

 もともとそんなに怒りっぽい性格ではなかったし、大雑把だし適当だし、堅苦しいのも苦手な方なので、この作戦のせいでストレスが貯まるなんて事もなく、寧ろ本来の完璧主義なヴィクトリアを演じる方がしんどかっただろう。

 それにヴィクトリアの変化に驚いた人たちの反応を見るのは、なかなか楽しかった。


 作戦初日、家族揃っての晩餐の席でのこと。

 (ヴィクトリア)に給仕をする緊張のあまり、使用人が私のワイングラスを誤って腕で倒してしまった。

 倒れたグラスから溢れたワインは、私のドレスの裾にかかってしまい、空気は一瞬で凍り付いた。

 あまりの恐怖に震えて謝罪する使用人に、その場にいた他の使用人達も恐怖から動けず、黙って下を向いていた。

 それはそうだろう。

 ヴィクトリアならこんな失態をした使用人は厳しく叱り付けた後、その場で解雇を言い渡すだろう。

 家族も怯えたように私の顔色を伺っていた。


 私は一つ息を吸うと、真っ青な顔色で泣きながら謝罪する使用人ににこりと微笑んだ。


「グラスが割れてあなたが怪我をしなくてよかったわ。ドレスのことは気にしなくていいのよ、この程度の汚れなら、家の優秀な洗濯係がきっと頑張って落としてくれるわ。だからそんなに泣かないで」


 私がそう言うと、使用人たちも家族も固まった。

 こんなに顕著な反応が見られるとは思っていなかった私は、内心してやったり顔で笑っていた。

 お父様とお母様には、体調でも悪いのではないかと心配され、弟のクラウスは「姉様が粗相をした使用人を解雇しないなんて……明日は槍が降るか、この世の終わりか……」と世界の終わりが来ることに恐怖していた。


 その他にも、庭で作業中の庭師に気さくに話しかけたり、用もないのにふらっと厨房へ入ってシェフに料理の感想を言ってみたり、とにかく気さくで親しみやすい上司のように振る舞ってみた。

 お手本にしたのは、まもなく定年を迎える優しくてちょっとドジだけど憎めない部長だ。


 使用人や侍女たちはヴィクトリア(私)のなれない態度に戸惑いを隠せない様子だったが、たわいもない話題を振ると少しずつ言葉を返してくれるようになった。

 そして作戦を一週間程続けていると、彼らの方から私に話しかけてくれるようになった。


 お父様やお母様も、完璧を求めすぎる娘に思うことがあったのか、態度が軟化したヴィクトリア(私)を見て安心したように見えた。

 そして弟のクラウスとの会話も、以前よりずっと増えた。

 会話の内容は、何故急に人が変わったように性格が軟化したのか、誰かがのりうつっているのではないか(これは正解だけど、本当の事を言うと面倒なので否定した)と言う内容がほとんどだが、彼は創造力が豊かなので話していて面白い。


 こうしてお屋敷は柔らかい空気に満ち、賑やかになっていった。


久しぶりの更新で申し訳ありません。

お読みいただきありがとうございます!

よろしければ評価、ブックマークもぜひお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ