98 実技試験(2)
私とアレス君の実技試験は、昼食後にやっと順番が回ってきた。
私たちは顔を見合わせ、2人で横に並び同時に的当てを開始する。
打ち合わせ通りに7メートル先の的に全て当て、10メートル先の的も半分ずつバンバンと残らず撃破した。
「な、なんだとー!」
3人の教官は大声で叫び、10メートル先の的まで確認しに走って行く。
見学に来ていた校長と副校長も「信じられん」と、後ろで呟き絶句している。
7メートル先の的は、これから皆が使うから壊さないよう細心の注意を払って、魔術師と同じように正しい詠唱をしたけど、10メートル先の中位・魔術師用の的は魔法で撃破した。
もう私たちには訓練する必要がないから、壊しても構わないと思ったんだよね。
「いったい誰から魔術を習ったんだ君たち?」
驚いた表情のまま、王宮魔術師団から出向で来ている副校長が問う。
「私たちはトレジャーハンターなんで、基本的な魔術を教えてくれたのはトレジャーハンター協会の魔術師ファーズさんです。僕もサンタさんも、トレジャーハンター協会の中位魔術師資格はもらってますから」
アレス君がにっこりと貴公子スマイルで説明する。
「なんだと、トレジャーハンター協会の中位魔術師資格を持っているだと!」
今度は魔術師協会から出向で来ている校長が叫び、急に難しい顔をして思案し始めた。
「では君たちは、王様の魔術具に魔力充填した・・・あぁ~っ、なんてことだ」
校長は何かに思いあたったようで、小声でそう言って頭を抱えた。
どうやら私たちの噂を聞いたことがあったみたい。
実技試験の途中だけど、急用ができたから魔術師協会に行ってくると副校長に伝えて、校長は演習場から去っていった。
私とアレス君は大きい方の岩の破壊を魔法陣を使って完璧にこなし、格の違いを見せつけておいた。
お前ら如きと見下していた【上位クラス】の者たちも、これで喧嘩は売ってこないだろう。売ってこなかったらいいな。
「実力はあるのに商会の後援や準男爵程度の子供じゃ、魔術師協会は難しいだろう。王宮魔術師団なら口をきいてやれるぞ。
君たちが望むなら、男爵や子爵家との養子縁組だって、私の人脈があれば可能だ。まあ、中位・魔術師に合格する前に養子縁組の手続きが必要だがな」
放課後、就職・進学担当のデスタート教官38歳から呼び出された私たちは、思いもよらない提案というかゴリ押しにポカンとした。
王宮魔術師団にいい印象がないから、デスタート教官も胡散臭く感じる。
貴族社会をよく知らない子供なら、喜んで飛びつくだろうと思ってるのかな?
養子に入って名前を変えてから、中位・魔術師に合格させるのはなんで?
あれ? 私って準男爵家の子供だと思われてる?
入学手続きには、自分が準男爵だって名前を書いたはずなんだけど?
「いえ私たちは卒業後、王立能力学園に入学するので就職する気はありません」
アレス君は貴公子スマイルで、きっぱりと断った。
「あの、私、入学手続きの書類に、サンタナリア・ヒーピテ・ファイトアロと書いたんですけど?」
「はあ? ヒーピテ? いやいや、準男爵の子供はヒーピテンだぞ」
こんな子供じゃ常識も分からないかって顔をして、名前を訂正された。
これは、間違えて記入したとの思い込みで、勝手に修正された感じかな?
「ええっと、私も中位・魔術師に合格したら王立能力学園に入学する予定ですし、私はトレジャーハンターだから、王宮魔術師団に就職する気はありません。ごめんなさい」
あまり事を荒立ててもいけないから、穏便にお断りして頭を下げた。
「いやいや、トレジャーハンターなんて野蛮な仕事は辞めなさい。
男爵や子爵家の養子になれば、ちゃんと中級学校にも通わせてもらえるぞ。
ちょうど魔術師の養子を欲しがっている家があるから、会わせてやろう」
う~ん、全く話が通じない。
中級学校じゃなくて王立能力学園に行くんだよ!
面倒臭くなったから、祖父は子爵だから学費くらい出せると言って逃げた。
「ねえねえアレス君、もう今の爵位を言った方がいいかなぁ?」
「う~ん、言えば【上位クラス】だよね・・・あのメンバーと一緒は嫌だよね」
【上位クラス】の男爵家ボンデラス14歳には「この貴族もどきが!」と悪態をつかれ、もう1人の男爵家ニートダン13歳は「野蛮なトレジャーハンター如きが」と言って私たちを睨み付けた。
喧嘩は売られなかったけど、2人とも背は高いし体格がガッチリしていて、上から見下されると圧迫感がある。
魔術や魔法じゃあ負けないけど、拳や腕力でこられたら絶対に負ける。
噂では勉強嫌いで粗暴らしい。王立能力学園の入学は諦め、コネや縁故で王宮魔術師団を目指し、無理だったら軍に就職する気のようだ。
魔術師協会はエリート集団だから、王立能力学園の卒業と中位・魔術師の合格が就職条件だ。でも王宮魔術師団は、下位・魔術師から就職できる。
中位や高位の魔術師は、元々伯爵家以上の高位貴族家に多いから、魔力量は遺伝するんじゃないかなって私は考えている。
翌日は学校が休みで、貸し出していた魔力属性判別魔術具を、ハンター協会に取りに行く。
魔術師協会・王立能力学園魔術師学部・トレジャーハンター協会の3箇所に、5か月ずつ白金貨3枚で貸し出していたけど、最後に貸したのがハンター協会だった。
魔力学会以降、ハンター協会には行ってないし、学生の間は距離を置きたいと思っている。
ハウエン協会長なんて、一時は私の一般後見人になりたいとか言ってたのに、勝手に私とアレス君の魔力を売る契約をしたり、学会中は無責任な態度をとったから信用度はゼロだ。
「すみません、サンタという者ですが、協会にお貸ししていた魔術具を返して貰いに来ました。協会長かボルロさんを呼んでください」
1階にある総合受付で、綺麗なお姉さんに用件を伝える。
今日は舐められていい加減な対応をされたくないから、男爵の身分証を提出して面会依頼する。
「ええっと、協会長は面会予約がなければお会いになりませんし、ボルロ鑑定士もお忙しいと思います」
受付のお姉さんは、子供の私を見て完全に侮っている。
「関係ないです。今直ぐ、私の魔力属性判別魔術具を返さないと、王様に訴えます」
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