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93 サンタさん、男爵になる(2)

 緊張して足が止まりそう・・・ふぅ、お腹に力を入れて深呼吸よ。

 入場した私を値踏みする視線が左右から突き刺さるけど、下を向いちゃダメってパトリシアさんとマーガレットさんが励ましてくれる。


 ……あっ、母様と兄さまだ! 2人とも緊張してるけど嬉しそうだ。


 入場前に、コーシヒクさんが序列と名前を書いた紙を渡してくれたので、守護霊5人にも見せて覚えて貰った。

 貴族の名前を覚えるのは苦手だけど、今後の付き合いを考えると覚えざるを得ない。はあ~憂鬱。


 前進しながら周囲をチラ見すると、悪意ある視線を向ける者が数人いた。

 主に左側に立っている子爵や男爵たちだけど、なんだこのガキは!って感じで睨んでくる。

 まあ確かに、何処の馬の骨かも分からない少女が、どうして筆頭公爵家の男爵になれるんだって誰だって思うよね。


 ……よし、緊張しないよう他のことでも考えよう。


 こんな大仰な授与式だとは思ってなかったけど、母様の言う通り王女様に頂いたドレスを急遽お直しして正解だったな。

 ドレスを買うと張り切っていたお爺様は、がっかりするんだろうなぁ・・・

 ホロル様が用意してくれた正装一式を着ているアレス君、今日は一段とカッコいい。


 ……元々貴公子でキラキラしていたから、こういう場面でも他の兄姉に負けないオーラがある。うん。


 ……おっと、公爵様の前で跪くんだった。



「これより、準男爵サンタナリア・ヒーピテ・ファイトアロ7歳の、女性男爵位授与式を行います」


 いつの間にか前に移動していたコーシヒクさんが、授与式の開始を宣言する。


 始めにアロー公爵が、私を準男爵に叙爵した理由を、優れた魔術師としての能力を、【聖なる地】の調査団に同行して示したからだと皆に説明した。

 今回男爵に陞爵した経緯では、魔力学会で類稀な魔力量で王様の魔術具を起動させ、王子や王女の友人として王太子夫妻からも認められた天才的な頭脳が、アロー公爵家に有用であると判断したからだと説明した。


 ……う~ん、ここでホロル様の命を救ったとは言えないかぁ。そんなことをしたら、私が命を狙われるもんね。


 準男爵位を貰った時と同じように、アロー公爵が書いた男爵任命証と、国が発行した正式な爵位証明証が入った黒革のファイルと、役職や領地の代わりに馬車一式を贈ると書かれた褒賞内訳証も頂いた。

 表面上はにこやかに拍手をしている皆さんだけど、腹の内は全く読めない。


 コーシヒクさんがくれた参列者の名前の横には、〇△の印が付いている。

 △印の者は、ホロル様が倒れた時に、ヒバド伯爵のバカ息子を後継者にすることを認めた者らしい。

 明らかなヒバド伯爵派の貴族は、今日の式に呼ばれていないし、アロー公爵が徐々に排除する方向で動いているとか・・・貴族社会って本当に怖い。



 私の爵位授与式が終わると、今度はアレス君のお披露目だ。

 アレス君はホロル様の子供だけど、現在は公爵様の養子として国に届け出ているため、対外的にはホロル様の弟として扱うが、身内では公爵の孫として扱うと説明された。


 先日魔術師試験を私と一緒に受験し、見事に下位・魔術師に合格し、来年には中位・魔術師資格をとって、そのまま王立能力学園に入学すると、アレス君の能力を披露する。

 王立能力学園入学後は、高位・魔術師を取る予定だが、公爵家の継承権は本人が放棄しており、それを認めたという重大発表まで同時にされた。


 その発表を聞いた兄姉たちは、ホッと胸を撫で下ろし笑顔になっていた。




 アレス君の紹介を終えると、皆で来客用のパーティー会場へと移動する。

 大きなテーブルが3つ並べられた会場には、サンドイッチ等の軽食から豪華な料理までがずらりと並べられていた。

 早速王宮料理人だったマーガレットさんが、嬉しそうに内容を採点し始める。


 直ぐにパクリといきたいところだけど、これから私は、ホロル様と一緒に皆様との顔合わせが待っている。

 先ずは、公爵様のご家族から順に紹介していただく。

 公爵夫人も、ホロル様の正妻さんも側室さんも、小声でホロル様と次男トーラスの命を救ってくれてありがとうとお礼を言ってくれた。


 大人は概ね好意的だったけど、王立能力学園工学部に通っている長男のレイノルドが、アレス君と一緒に暮らしている魔術師だから、爵位を貰ったんだろう?って、私に蔑みの視線を向け耳打ちしてきたから、一瞬ポカンとしてしまった。


 ……う~ん、正妻の子で長男だけど、魔術師じゃなくて中位・技術・土木持ちである16歳のお坊ちゃまは、私とアレス君が父親を救ったと知らないようだ。


「いいえ、私の職業は魔術師ではありませんよ。これからの時代、魔術師であることより、どれだけ魔力を持っているかが重要になると思います。

 私は来年、中位・魔術師に合格して、王立能力学園工学部に入学する予定です。同じ工学部の学生として、よろしくお願します先輩」


 なんか腹が立ったので、ちょっとだけ上から目線で自分の予定を言って微笑んでおく。


「な、なんだと、魔術師じゃない?」


 レイノルドはちょっと大きな声を出し、目を見開いて私を見た。

 何事だ?って顔をしたホロル様がやって来て、長男レイノルドを軽く睨む。


「ホロル様、私は魔術師ではないと申し上げたのですが、今の常識では理解が難しかったかもしれません」


「ああ、レイノルドには、まだサンタさんの職業を説明してなかったな」


 どうしたものかとホロル様が思案していると、次に紹介を受けるはずだった伯爵や子爵たちが、興味津々という顔をして近付いてくる。


「魔術師でない者が、下位とはいえ魔術師資格を得られるとは思えませんが、大丈夫なのでしょうか?」


 最初から私を睨み付けていた50歳くらいの男が、フンと私を見下し、ホロル様を心配するように声を掛けた。


 ……何が? 何が大丈夫なのかって訊いてるのこの人。


『サンタさん、この禿げ頭はツルリ子爵だ』と、トキニさんが教えてくれる。


『この男の名前には、△がついてたわよ。教会本部発行の職業選別カードを見せてやればサンタさん』って、パトリシアさんは怒って言う。


 ……どうなんだろう? あの正式な職業身分証を見せても大丈夫なの?

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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