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89 旅立ち(2)

 予想はしていたけど、アロー公爵は神聖国ガリアへ行くことを反対した。

 王太子様まで、まだ少ししか魔法を学んでいないじゃないかと文句を言った。


「私の後見人でもあるアロー公爵様とは、魔法の発表は早くても私が魔術師学校に入学するまで、又は、王立能力学園に入学するまで秘匿すると約束しました。

 魔法の公開は、攫われたり殺される危険度を上げることになります。

 王太子様は、まさか私の死をお望みではありませんよね?」


 私は余所行きの笑顔を作って、生き残るための行動なのだと説明しながら脅しを掛ける。


「では、王宮で暮らせば良いのではないか?」


「いいえ王太子様、私はもっと強くなりたいのです。アレス君を守るため、家族を守るため、そして友であるエルドラ王子を守るために。

 大きなカラ魔核に充填できると知られてしまったのに、欲を出す貴族から私とアレス君を隠せますか?

 超古代文明紀の王族であり大魔法使いである師から、出る杭は打たれると学びました。私には、出た杭を打ちにくる者を、撃退する力が必要なのです」


 王宮が安全なんて信じられないとは言えないから、戦う準備を万全にする必要があると言い換え、その目的の中に王子を守ることも入れておく。


「確かに、こんな鼻息の荒い5歳児が王宮に居たら、嵐が吹き荒れる気がする。身分に関係なく、方々に喧嘩を売る姿が目に浮かぶな。う~ん・・・」


 王太子様はこめかみを指でトントンしながら、うーんと唸る。


 

「お爺様、僕はまだ死にたくありません。

 アロー公爵家を乗っ取ろうとする敵は、呪術を使うのです。

 公爵家の乗っ取りを画策する呪術師は、王家にも手を出すかもしれません。

 ですから僕は、呪術についてガリア教会で学んでこようと思います。

 お爺様の孫に呪術を仕掛けたんですから、3倍返しは当然ではありませんか!」


 アレス君は未知の呪術を前面に出し、今の状態では僕を守れないでしょう?とは言わず、自分が学んで戦うので邪魔するな!って、より過激な言い回しでアロー公爵を説得?する。


『アレスは、日々逞しくなるなぁ』

『そうねトキニさん。弟子が師匠に似るのは当然だわ』

『まあ、アロー公爵家を継ぐ気がないから言えるんじゃろう』


『そうね。アレス君と私は、世界を巡るトレジャーハンターが夢だもん』


 渋い顔をしたアロー公爵が、腕を組んでどうしたものかと思案を始める。

 王太子様と顔見合わせ、2人同時にハーッと溜息を吐く。

 なんとか引き留める策を思考しているようなので、止めを刺しておこう。


「私、ガリア教会大学から名誉教授の称号を頂いたので、エイバル王国の人間として、ガリア教会に貢献する所存です。

 どうせカラ魔核の取引等で、これから協力体制をとらねばならないでしょう?」


「本当に何なんだよこの2人は。うちの宰相をも言い負かせそうだ。

 分かった。好きに、いや、しっかり学び、しっかり教会に恩を売ってこい」


 一瞬嫌そうに眉を寄せた王太子様は、諦めたように許可を出した。


「ありがとうございます王太子様」


 私とアレス君は、極上の笑顔で礼をとる。


 ……よし、勝った! 



 翌朝自分の家に戻った私とアレス君は、母様と兄さまを泣き脅しで説得した。

 もう攫われたくないとか、ハンター協会本部は守ってくれないとか、もしかしたらファイト子爵家にも迷惑が掛かるかもしれないと訴えた。

 渋々諦めてくれた母様と兄さまは、旅立つ私たちのために買い物が必要だと言って、4時間も買い物に連れ回された。


 こんなに必要ないと言い掛けたけど、これも親孝行よとパトリシアさんに言われ、2年分の服や靴を買い込んだ。

 支払いは、私とアレス君が受け取った今回の魔核充填代から出したけど、高額な冬用コートは母様がプレゼントしてくれた。


 考えてみたら、こうして母様と買い物をするのは久し振りだ。

 アレス君が、僕たちも何かプレゼントしようと言ってくれたから、母様にはちょっと豪華なショールを、兄さまには学校用の鞄をプレゼントした。


「もう、やっと母親らしいことをしてあげられると思ったのに、早く大人になり過ぎよサンタナリア。アレス君もありがとう」


 そう言って母様は、私とアレス君を優しく抱きしめた。




 午後3時、最初の予定通りに最速踏破者が私の家にやって来た。

 きっと凄く心配させただろうから、元気な姿を見せて、暫く国を離れることを伝えなきゃいけない。


「確かに協会本部はサンタさんを守ってくれなかったし、真剣に探そうとしなかった。魔術師協会の奴等も、トレジャーハンターをバカにしていたからな。

 悪意ある高位貴族なんて、自分の利益のためなら何でもしそうだ」


 ガリア教会大学行きを聞いたリーダーは、確かに俺たちじゃ守れないなと頷き肩を落とした。


「そうだなリーダー。このままハンターとして活動していたら、ハンター協会の奴等にも、調査団のお偉方にも、利用されるだけ利用され、いつ危険な目に遭わされるか分からない」


 サブリーダーは、これからアレス君も加わり、がっぽり儲けるぞと張り切っていたけど、ゲートル支部に居ない方が安全だろうと、残念そうに了承してくれた。

 他のメンバーも、寂しそうな顔をして「そうだな」って同意してくれた。


 ……私だって寂しいよ。ずっと一緒に活動してきたんだもん。


 ちょっと涙が零れて、皆が優しく頭を撫でてくれる。

「いつでも戻ってこい」ってリーダーが言って、「待ってるぞ」って皆も声を掛けてくれる。

 私は指で涙を拭きながら「うん、大好き」って返事した。



 最速踏破者の皆が帰った後、私とアレス君はゲートルの町で帰りを待っているホッパーさんに手紙を書いた。

 本当はゲートルの町に戻って直接説明したかったけど、ガリア教会大学に戻る学会出席者と一緒に、明日の朝には出発する。


 私とアレス君は、これまでお世話になったお礼と感謝の気持ちを込めて、王様から頂いた大きなカラ魔核に1個ずつ魔力充填し、プレゼントとして手紙に添え、夕方ホッパー商会王都支店に持っていった。



 旅立ちの朝は少し肌寒く、王都のガリア教会大聖堂前まで見送りに来た母様と兄さまの吐く息が白い。

 定期的に手紙を書くと約束し、私とアレス君はガリア教会大学のアメフラ教授と同じ馬車に乗り込んだ。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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