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88 旅立ち(1)

 今夜も王宮で晩御飯を食べている私とアレス君。

 今夜は王太子様のご家族とアロー公爵、何故か王様と王妃様まで一緒だ。

 なんでも、学会の大成功を祝う食事会なんだって。

 当然ご辞退申し上げたけど、王太子様が許してくれなかった。


 着替えの服もないからと言って逃げようとしたら、王太子妃様が王子と王女のお古だけどと言って、私にはフリフリのドレスを、アレス君にはカッコいい正装一式が下げ渡された。

 王女様は私より少し大きいから、もうサイズが合わないらしい。

 メイドさんにお風呂で磨かれ、リボンまで髪に付けられては諦めるしかない。


『サンタさん、凄く可愛いわよ』

『馬子にも衣裳やな。王女は無理でも高位貴族令嬢くらいには見えるで』

『さすがわしの弟子じゃ。王女にも引けは取っておらん』


 鏡の前で戸惑っている私の後ろで、守護霊3人は嬉しそうにドレス姿の私を褒めてくれる。

 恥ずかしいから止めて。まあ、こんな機会は二度とないだろうから、覚悟を決めてご馳走を食べよう。シロクマッテ先生にマナーを習っていてセーフ。


 

 食事会の冒頭、今回の学会でエイバル王国は、魔力分野で他国を大きくリードできたと王様が誇らしそうに語られた。

 また、魔力属性判別魔術具を試したエルドラ王子が、魔術師でもないのにオレンジ色のパネルを見事に光らせ、流石王子だと来客たちを唸らせたことにも触れ、嬉しそうに褒めていた。


 食事会は和やかに過ぎていき、最後に王様は、新しい【空間】属性を証明する魔術具を発見し、魔核に魔力充填した私とアレス君に、10センチクラスのカラ魔核を3個ずつ褒美としてくださった。


 ……まあ確かに自分で魔力充填したら、1個金貨8枚以上で売ることはできるけど、今までは捨てていた物だと思うと……どうなんだろう。


 ……幼児が貰って喜ぶ物じゃない気がする。王族のシャレなの?




 祝賀会終了後、私とアレス君は今日の報告を聞くため、王太子様、アロー公爵と一緒に、昨夜と同じ防音の特別室に移動する。

 部屋の中には、騎士副団長と側近のバリウスさんが待っていて、騎士副団長が報告を始めた。


「捕らえた誘拐犯は、自分の行いは犯罪ではなく、礼儀を知らない生意気な平民の子供に、教育的指導をしただけだと言い張っていました。

 デモンズの指示だったはずだと脅してみましたが、口を割らないばかりか、王様との契約を守れなかった幼女には、罰を与えるべきだと主張し、驚きを通り越して呆れました」


 騎士副団長は苦笑しながら、供述書をテーブルの上に置いた。


「そうか・・・国の主催でもある学会で、王様の持ち物である魔術具の展示を妨害した男爵には、罰金として白金貨2枚を払わせ、降爵する厳罰を与えよう。

 もしも不服を申し立てるようなら、上司であり寄り親であるエルー伯爵家にも類が及び、徹底的に関連を調査するぞ脅せば何もできまい」


 騎士副団長の報告を聞いた王太子様は、犯人の処罰内容を確定した。


「今回の主犯であるデモンズは、政治的な判断から罪に問わないこととする」


 ちょっと申し訳なさそうな顔をして、王太子様が私に向かって言った。

 デモンズを罰する必要はないと私から願い出ていたので、この処分に対しては何も文句を言う気はない。自分の身の安全のためにも。


「やられたら3倍返しが私のモットーなので、魔術師学校に入学したら、私とアレス君で仕返しするから問題ないです」


 私は王太子様とアロー公爵に向かって、堂々と宣戦布告し、同じ中位・魔術師資格を取るのが楽しみだと付け加えて笑った。


『サンタや』って、サーク爺の低い声が・・・


 微妙な表情の王太子様を見て『しまった!』って自分の言動を後悔したけど、意外にも「好きにしたらいい」と言ってくれたので、仕返しする日まで2人で魔法の腕を上げておこうと心に誓った。 



「お爺様、体育館でのデモンズの様子はどうだったのですか?」


 私がやらかしたと察したアレス君が、直ぐに助け舟を出してくれる。


「フッフッフ、よくぞ訊いてくれたアレスよ。結構笑えるぞ」


 悪い顔をしてニヤリと笑うアロー公爵は、デモンズのお粗末ぶりを面白おかしく話してくれた。


 王太子様とアロー公爵が体育館に到着したのは、私が魔核充填する予定の時刻で、2人の姿を見付けたデモンズは「大変なことになりました!」と言いながら駆け寄り、魔核充填するはずの幼女が来ていませんと報告したらしい。


「王様との契約を破るとはけしからんと激昂し、ハンター協会の協会長を連れてこいと叫んでな・・・いや、もう、あまりの迫真の演技に笑っていいのか怒っていいのか戸惑ったほどじゃ」


「そうでしたね伯父上。折角だから私もお芝居に参加して、協会長を呼びに行かせたら、サンタさんが救出されたことを知らない協会長は、何とも言えない顔をして、アロー公爵様なら充填できるのでは?って、縋るような眼差しを伯父上に向けましたよね」


 アロー公爵に続いて、王太子様もニヤニヤしながらその後の様子を説明してくれる。

 私は既にサーク爺から詳しく聞いていたけど、初めて知った風を装いながら、アレス君と驚いたり笑ったりする。



「ハウエン協会長は、幼女は何者かに攫われました。行方不明になったのは、図書館なら安全だと請け負った魔術師協会の責任だと言い出し、幼女が図書館に居たことを知り得た全ての者を、取り調べるべきだと主張した。

 結局私は、もしも魔核が充填されていなかったら、幼女の責任を問い、ハンター協会本部にも何某かの罰を与え、関係者を調査すると言っておいた」


 王太子様は、デモンズとハウエン協会長に向かって、そう言い放ってやったと胸を張る。


「その後、魔術具の魔核を確認したんじゃが、美しい七色に充填されていた魔核を見たデモンズとハウエンの顔といったら、ダメだ、思い出したら笑いが止まらん。腹が、腹が痛い」


 腹を抱えて笑うアロー公爵を見て、私は今がチャンスだと思い立ち上がった。

 そして勇気を出して、自分たちの命を守るための行動予定を話し始めた。


「アロー公爵様、重要な報告があります。私とアレス君は、私が魔術師試験を受ける日まで、ガリア教会大学で様々な学びを受けたいと思います」

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

ブックマーク、ポイント応援ありがとうございます。感謝感謝です。

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