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87 魔力学会(8)

 到着した図書館では、アレス君がエルドラ王子に魔力循環を教えていた。

 1時間も練習したら、なんだかコツが掴めたかもって王子が言うから、私は置きっぱなしにしていたリュックからカラ魔核を取り出し、王子に魔力を充填するよう指導していった。


 エルドラ王子は気さくに接してくれるから、直ぐに仲良くなった。

 でも途中、もう疲れたとやる気をなくしたので、私のリュックの秘密を教えて、やる気を引き出すことにした。


「本日エルドラ様が体験される魔力属性判別魔術具は、自分の持つ属性が分かる魔術具なのですが、未知の属性である【空間】を使ったリュックがこれです。

 エルドラ様がこれから魔力を増やせれば、【空間拡張ウエストポーチ】を使えるようになるかもしれませんよ」


 そう言って私は、リュックに入っている椅子や食材や寝具なんかを、図書館の開けた場所に出していく。


「そんな小さなリュックに、それだけもの量が何故入っているのですか!」


 エルドラ様は「信じられない!」を連呼しながら、リュックを何度もガン見する。


「これこそが【空間】属性の応用なんです。この【空間拡張リュック】、今現在この国で作れるのは私だけだと思います。絶対に秘密ですよ。

 そして使用できるのは、私とアレス君の2人だけです。

 もしもエルドラ様が頑張って、5センチくらいのカラ魔核に魔力充填できるようになったら、【空間拡張ウエストポーチ】をプレゼントしますよ」


 私は笑顔で誘いながら、ジャケット下のウエストポーチを見せる。


「凄く便利なんですよ。サンタさんと同じ容量のリュックを使うには、10センチ以上のカラ魔核に魔力充填できる魔力が必要ですが、僕が持っているウエストポーチでも、図書館のテーブルくらいは収納可能です。

 王様も持っていないウエストポーチを、使ってみたいと思いませんか?

 僕たち3人の友情の証として、お揃いにできたらいいなぁ」


 アレス君が、キラキラの貴公子スマイルでエルドラ様を落としにかかる。

 

『公爵家の子息なのに、サンタさんの影響ですっかり逞しくなったわねアレス君』


『せやな、サンタさんの意図を瞬時に読み取り、的確な発言ができる才能には脱帽や。いいコンビやで本当に』


『このままでは、王子も同じような影響を受ける気がするぞサンタや?』


『ねえねえ、それって悪口? それとも褒めてるの?・・・なんで誰も答えないのよー!』



 お昼前に騎士副団長が王子を迎えにきて、私とアレス君に美味しそうなお弁当をくれた。

 騎士副団長、とっても好い人だ。


「頑張ってねエルドラ様」と、私とアレス君はエールをおくる。


「うん、絶対にオレンジ色の【動力】属性を光らせるよ。また夜に王宮で会おう。結果を教えるよ」


 バイバイと手を振って、エルドラ様は意気揚々と学会会場に向かった。

 思った通り、高位職のエルドラ様は魔力量が多かった。

 僅か3時間で2センチのカラ魔核に魔力充填できていた。素晴らしい。

 大人より子供の方が、覚えやすいのかもしれない。



 そして夕方、私は再び騎士さんと倉庫に戻って、囚われの幼女を演じる。

 倉庫の小窓から、オレンジ色に染まっていく空を眺めていたら、誘拐犯の男がやって来たとサーク爺が教えてくれた。

 サーク爺は朝からずっと犯人の行動を監視していたから、後で詳しく体育館の様子も教えて貰おう。


「思っていたより元気だな。いいか、暴れたら痛い目に遭わせるぞ!

 今から目隠しと猿轡をするから大人しくこの袋の中に入れ。言うことを聞けば20分後には解放してやる」


 鍵を開けて入ってきた男は、顔を覚えられたくないのか眼鏡をかけ帽子を深く被っていた。

 私は何も言わず頷く。目隠しと猿轡をされ手まで縛られて、攫われた時と同じように大きな麻袋に押し込まれた。


 脇に抱えられて倉庫から出た瞬間、「何をしている!」と大きな声がして、ザザザと大勢の足音が犯人と麻袋に入った私を取り囲んでいく。


「な、なんだ、何故王宮騎士団が此処に・・・わ、私は頼まれた書類を取りにきただけだ」


「書類? お前が抱えているのが書類だと? 我々は、今回の学会に貢献した幼女が行方不明になっているとの訴えを聞き、王太子様のご命令で捜索している。命が惜しくばその袋の中を見せろ!」


 聞き覚えのある騎士副団長の声がして、剣を抜くような音も複数聞こえる。


「わ、私はエルー伯爵家に仕える男爵だ。貴族の当主である私に剣を向けるとは、王宮騎士団とはいえ無礼ではないか!」


 男は抵抗するように後退り、なんとか逃れようと言い訳をするが、騎士たちの足音はじりじりと迫ってくる。

 男は「くそっ、どうしてこんなことに」と呟いて、私が入っている麻袋を、あろうことか力任せに放り投げた。


 体が宙に浮いて「ギャーッ!」と心の中で叫びながら飛んでいく。

 このまま落ちたら絶対に痛い。誰か助けて!

 ギュッと目を瞑ったら、誰かがガシッと私を受け止めてくれた。


 ……ハアハア、た、助かった? 大ケガするかと思った! 



「大丈夫ですかサンタさん!?」


 私の護衛をしてくれていた騎士さんの声がして、麻袋から私を出し、目隠しや猿轡を外し、両手を縛っていた縄を剣で切ってくれた。


「だ、だ、大丈夫じゃない。怖かったよ~」


 私は震えながら、心配そうに私の顔を覗き込む騎士さんに抱き付いた。

 どんなに魔法が使えても、物理攻撃はやっぱり怖い。ちょっと涙も出ちゃった。

 何度か深呼吸をして辺りを見ると、犯人が騎士団に取り押さえられ、上半身をグルグル巻きにされていた。



『サンタや、ウエストポーチを下衆男の足に落としてやれ』って、珍しくサーク爺が好戦的だ。


『分かった。許すまじ下衆男!』



「騎士団の皆さん、助けていただきありがとうございます。凄く怖かったです」


 グルグル巻きにした犯人を立たせようとしている騎士団に走り寄り、深々頭を下げながら、抵抗しバタつかせていた犯人の足の上に、ウエストポーチを落とした。

 ボキと鈍い音がして、思わずにんまりしちゃった。

 重量的には100キロを超えているけど、絶対誰も気付かないはず。


「グワーッ!」と大袈裟に犯人は叫び、私は「嫌だ、大事な鞄が穢れちゃった」って言いながら、軽々とウエストポーチを持ち上げて、パンパンと穢れを払った。 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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