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86 魔力学会(7)

 王太子宮の数ある客室の中でも、防音魔術が掛けられている特別室内に重い沈黙が流れる。

 身内の裏切りに、アロー公爵は深く息を吐きながら椅子に座り直した。


「そういえばデモンズは、簡易空間魔術具は魔術師協会こそが所有すべきだと言っていた。魔核も充填できないハンター協会が持っていても役に立たないと。

 ハンター協会が勝手に王様に売ったのが許せないと、先日私に上訴文を提出していた。あいつは、王様にも敬意が足らんな」


 アロー公爵はデモンズの言動や行いを思い出しながら、「愚かな」と呟き肩を落とした。


「サンタさんが狙われたのはなんでだ?」


「王太子様、私とアレス君は祖父と一緒に、簡易空間魔術具の検証をするためトレジャーハンター協会本部に行ったんですが、偶然学会メンバーに出くわし、皆で簡易空間魔術具の検証をすることになりました。

 その時、誰も魔術具の魔核に充填できなかったのに、弟子のアレス君があっさり充填したので、私に恥をかかされたと思ったのではないかと推察します」


 私はテーブルの上に用意された高級ジュースを飲み干して、自分の考えを素直に申し上げた。


「こんな答弁を5歳児がするか? 推察? は~っ、まあいい。あの魔核は、私では充填できないのだろうか伯父上?」


「訓練は必要だと思いますが、王太子様は高位・魔術師です。問題なく充填可能でしょう。そうだろう、サンタさん?」


 ……えっ? 私に振るの?


 そこから、私の監禁事件は何処へ行ったの?って話が逸れ、魔力操作の話になってしまった。

 まあ教える約束だったからいいけど、アロー公爵だって知ってるじゃんって言い掛けて、ぐっと言葉を呑み込んだ。

 危ない危ない。この口がまた余計なことを・・・


 折角だから、アレス君とアロー公爵も一緒に魔力循環から練習をする。

 さすが高位・魔術師の王太子様。飲み込みも早いから直ぐに魔力操作の練習に移ることができた。

 アレス君がテーブルの上のオレンジを手に取り、床から膝まで上げ、頭上でクルクル回す魔法を披露すると、初めて見た魔法に王太子様は驚嘆した。


 全く同じことができるようになっているアロー公爵が、得意げにオレンジを頭上で回したので、王太子様も負けじと魔力操作の訓練を始めた。

 高級オレンジが3個潰れたけど問題なし。幾らか値段も想像できない花瓶も犠牲になったけど、始めは誰でもこんな感じだ。ハ、ハハハ・・・


 良い子はおねむの時間なので、後の練習はアロー公爵に任せて、私とアレス君は別室に案内されお風呂に入って、ふかふかの布団でぐっすり眠った。



 翌朝は、何故か王太子様のご家族と一緒に朝食を食べることになった。

 アレス君は元々公爵家の貴公子だけど、王族の高貴なオーラが眩しすぎる。

 私一人だけ野生児で、足跡付きの服なんか着てるから妙に居心地が悪い。

 食事中、王子様と王女様の友達になるよう、私とアレス君は命令されてしまった。なんで?


『すっかり巻き込まれおったわ』って、サーク爺が縁起でもないことを言う。


『王子とアレス君は1歳違いだし、王女とサンタさんは同じ歳だもの、優秀な2人を早目に取り込むのは王族なら当然のことね』


『せやなパトリシアさん。規格外な2人には規格外な友人がお似合いやな』


 出された朝食の感想を言い合っていた守護霊3人は、今朝も通常運転だ。


『でもまあこれで、王子と王女の友人という地位を得たことになる』


 王太子様から渡された王太子宮の入場許可証を見て、サーク爺は結果オーライじゃと笑った。


 


 朝食後は直ぐに、王太子様と王子様と一緒に王立能力学園へと向かう。

 先に資料倉庫前へ寄ってもらい、デモンズの手下が様子を見にきてもいいように、昨夜壊した場所に左手を当て、再び壁を壊して私は倉庫の中に入った。


「昨日は気付かなかったが、詠唱もなしか・・・魔法は便利だな」


 昨夜からすっかり魔法の虜になった感じの王太子の言葉に、なんだか嫌な予感がするけど、頭を振って打ち消した。

 壊した壁は土魔法が得意なアレス君が、外側から綺麗に補修してくれた。

 王宮騎士が2人、倉庫から少し離れた場所で見張りをしてくれるらしい。

 私は犯人が確認に来たら、直ぐに図書館に向かう予定である。


 ……まあ、犯人の特定は必要だよね。絶対に捕えないでと言ってあるけど。


 エルドラ王子8歳は、今日の学会に午後から出席して、魔力属性判定魔術具を試すらしいから、それまでの時間、私とアレス君が図書館で魔力循環を教えることになっている。

 エルドラ王子は、職業選別で高位職の【学者・気象】を授かったらしい。高位職だから、魔力を持っている可能性は高いと思う。



 王太子様は学会本部でアロー公爵と合流し、何も知らない振りをして激励のため体育館へ行き、デモンズの出方を見ると言っていた。

 私が来ていないことを確認したデモンズは、きっとほくそ笑むことだろう。


 ……でもねぇ、大事なのは私が居ないことじゃなくて、魔核に魔力充填してあるかどうかなんだよね。フッフッフ。


 倉庫に戻ってから20分後、昨日の誘拐犯がやって来たとトキニさんが教えてくれる。

 今朝は鍵を開けずに、ドアをドンドンと叩き「起きてるかガキ!」と大きな声で訊いた。


 ……まあ顔は見られたくないか。


「だーれ? ここから出して。お腹がすいた。助けておかさーん」

「煩い! 騒ぐと出してやらないぞ!」


 私が居ることを確認した男は、そそくさと去っていった。

 男のあとを見張りをしていた騎士の1人が追っていく。ついでにサーク爺も追跡していく。間違いなく体育館に行くはずだ。


「サンタさん、男は去りました。出てきてもいいですよ」


 残ったもう1人の騎士さんが、男の姿が見えなくなったので、壁を壊して図書館に行きましょうと声を掛けてくれた。

 何度も同じ場所だと脆くなりそうだから、今度は少し離れた場所に穴を開けて脱出する。直ぐに修復して、騎士さんの護衛付きで図書館へと移動した。


 ……よしよし、予定通り。誘拐犯を捕まえるなら、学会終了後に私を連れ出そうとした時が一番効果的。なにせ現行犯逮捕だもんね。言い逃れなんてさせないよ。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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