83 魔力学会(4)
犯人は最低でも2人。
そして主犯は魔術師協会のあの男。
監禁の目的は、私が処罰されることと、トレジャーハンター協会のメンツを潰すこと。
……私を殺す気はなくて、明日の夜には平民地区で解放する・・・ふ~ん。
「何か薬でも飲ませたのか?」
転がったままの私を見て、ご主人様と呼ばれている男が実行犯の男に問う。
「いえご主人様、抵抗したので頭を殴って気絶させました。食料や水はどうすればいいですか?」
……ん? そういえば後ろ頭とか首が痛い。気絶するほど幼児の頭を殴るなんて、許すまじ!
「フン、所詮は魔力量が多いだけのガキ。正式な魔術師でもないし、薄汚い平民のトレジャーハンターだ。水も食料も与える必要はない」
そう言いながら男は、私の顔を確認するためか歩き始めた。
……薄汚い平民のトレジャーハンター? よくもハンターをバカにしたわね!
ああそうか、私の安全も考慮して、トレジャーハンター協会は身分を伏せ、準銀級ハンターとだけ伝えているんだった。
当然、私の後見人がアンタの上司であり、魔術師協会のトップでもあるアロー公爵だってことも知らないわよね。
アロー公爵は、私が魔術師学校で中位・魔術師資格を取得したら、後見人だと公にするって言ってたもんなぁ。
私の家名がファイトアロでも、アロー公爵家の臣下だと分かる人は少ないらしい。シロクマッテ先生が、公爵家が家名の一部を与えるなんて、常識では考えられないって言ってたから。
「ご主人様、生かして解放すれば、自分は誰かに攫われたと訴えるのではないでしょうか?」
「問題ない。攫われたことも、閉じ込められた場所の証明もできないガキの言うことなど、誰が信用する? 金を受け取ったのに責務を果たさなかった事実が重要なのだ。王命に逆らった罪は重い」
自信満々って感じで、フハハハハと気味悪く笑いながら、主犯の男は買ったばかりの正装用ワンピースの裾を、土足でぐりぐりと踏んだ。
……初めて自分で買った高級服なのに、何してくれるのオジサン!
「目隠しはしていませんが、した方がいいですか?」
「構わん。猿轡も必要ない。両手さえ縛っておけば魔術も使えない。
学生は2日間休みで、北エリアへの立ち入りは禁止されている。どんなに泣こうが喚こうが誰も来ない。
明日の夕方まで、下手に動くと危険だから見張りも必要ない」
ニヤリと右口角を醜く上げた男は、再びドアに鍵をかけ部下と去っていった。
……この男、予想以上に頭が悪い。
……行方不明になった私を、誰も探さないと見下している時点でアウト。
……そして、犯人の正体がバレないと慢心している思考がお粗末すぎ。
王命を妨害した罪の重さって、どのくらいだろう?
各国の重鎮を招き、国と王立能力学園と魔術師協会が主催しているのに、問題が起これば主催者が責任を問われるわよね?
ハンター協会だけが、責任を問われると思ってるのかな?
図書館まで私たちを案内したのは、魔術師協会の職員だよ?
しかも、図書館なら安全だって最速踏破者に宣言してたけど?
攫うならアレス君も一緒じゃなきゃ、王命に逆らったことにならないと思うんだけど?
もしかしてアレス君じゃあ、2日連続で充填できないと思ってるの?
『サンタさん、中位・魔術師程度だと、2日連続で充填できるって思わないんじゃないかしら?』
『ああ、あの男って中位・魔術師なんだ。だからアレス君が、魔術師学校で中位資格を取る予定だって言った時、あんなに激怒したのね。ちっさ。
魔術師って、手を縛られてたら魔術が使えないんだ。なんて不便なのかしら。
中位・魔術師ごときが、中級魔法使いを見下すなんて、100年早いわ!』
暫くしてトキニさんもサーク爺も戻ってきて、脱出するための作戦会議をする。
冒頭トキニさんが、アレス君は体育館まで自力で戻り、チーフに私が何者かに攫われたと伝え、今は最速踏破者のサブリーダーと一緒に、体育館のステージ下の小部屋に退避していると教えてくれた。
『ここから体育館までの距離を、よく移動できたねトキニさん』
『いや、俺も驚いたぞサンタさん。体育館までは500メートル以上離れとるんやけど、引き戻されることなく移動できた。もしかして進化したのかも』
『なんじゃと、わしも後で試してみるぞい。して、捜索の指示は出たのか?』
『はい。最速踏破者サブリーダー以外と、トレジャーハンター協会のボルロが、手分けして捜索を開始してます。
でも協会長は、サンタさんは既に学園の外に連れ出されている可能性が高いだろうと、見当違いのことを言ってました』
……う~ん、先ずは犯人の目的を考えてよ。図書館に居たことを知っている者だって限られてるのに・・・協会長の役立たず!
私は風魔法を使って、手を縛っていた縄をサクッと切る。
加減が分からなくて、ちょっと手を切ったけど、かすり傷だから気にしない。
こういう時は後ろ手に縛るのが定石なのに、前で縛ってるからプロの悪人じゃなく、魔術師協会の部下か私兵ってとこかな。
リュックは図書館に置いてきたから、ジャケットの下に隠れていたウエストポーチから、紙と筆記用具を取り出して、覚えている範囲で学園の地図を書く。
王立能力学園の広い敷地は、4つの角が東西南北にある正方形で、円形の中心エリアを囲むように東西南北エリアがあり、5つに仕切られている。
中心エリアには、職員棟や食堂や売店がある。
サーク爺の情報で、この倉庫は北エリアの端に位置していると分かった。
図書館は西エリアに在り、学会が行われている大講堂は東エリアで、体育館は南エリアに在った。
今回の学会では、西と北エリアは使われておらず、関係者以外立ち入りできない。
「とりあえず、誰かが探しに来るのを待つしかない。夜まで見付けてもらえなかったら、魔法で壁を壊して脱出する」
そう宣言して、私は棚にあった資料の中から、凄く古いものを選んで犠牲になってもらうことにした。
ふんふんと鼻歌を唄いながら、資料の紙に「助けて倉庫の中」と朱色で書いて、たくさんの紙飛行機を折っていく。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
誤字報告、ブックマーク等、ありがとうございます。感謝感謝です。