82 魔力学会(3)
翌朝、私とアレス君と最速踏破者は一緒に、平服でトレジャーハンター協会本部へと向かった。
本部の建物に入ると、明日から開催される学会の出席者と思われる者たちで、とても賑わっていた。
国内の高位貴族らしき者たちや、他国の学者っぽい人も含め、1階ロビーの展示場は人でいっぱいだ。
私たちは協会長とチーフと一緒に、学会会場である王立能力学園に移動する。
学会は大講堂で行われ、午前は魔力という新しい概念と新しい属性の発見、そしてカラ魔核に魔力充填できるという、世紀の大発見について発表される。
目玉となる魔力属性判別魔術具の展示及び有料体験会は、午後から行われる。
参加希望者が多くて、特別招待者以外は、初日か2日目のどちらかしか参加できない。よって、両日とも内容は同じらしい。
トレジャーハンター協会は体育館で、【簡易空間魔術具】の展示体験を行う。
購入者は国王なので体験は無料だが、仕切りはトレジャーハンター協会である。
ハンター協会の仕切りを条件に、魔術具を王様に売ったとか。
購入を希望した魔術師協会と揉めたけど、私がハンター協会に一任していると突っぱねたそうだ。
会場である体育館では、既にトレジャーハンター協会の職員や、魔術具協会の職員が準備を始めていた。
主役である【簡易空間魔術具】は、保護魔術が掛けられた箱の中に収納され、ステージ上に置いてあった。
その箱の回りに3人、会場の中に4人、会場の出入り口にも3人の王宮警備兵が配置されている。
まあ王様の所有物だから、王宮警備隊が守るのは当然かぁ。
この世に1つしか無いし、複製はほぼ不可能だから盗難は避けたいよね。
「サンタさんとアレス君は、午後からステージ下の控室で待機してもらう。
これまでの検証で、1回魔核充填すると10回は起動を繰り返すことが可能だと分かっているので、念のための待機だ。
余裕を持たせて1日に8回、会場内の客を入れ替えて展示する予定だ。
アレス君は初日を、サンタさんは2日目の担当だ」
今日のハウエン協会長は、にこにこと物腰が柔らかく口調も丁寧だ。
どうやらチーフから、私がハンターを辞め他国に行くと大泣きしたことを聞いたみたい。だからって、私はにこにこなんてしないよ。
「アレス君、仕事内容は1人魔核充填1回だから、間違っても魔力切れで死ぬ可能性のある2回なんてしないでね。契約違反があれば、他国に逃げようね。
私たちは子供……いえ幼児だから簡単に死んじゃうもん」
「そうだねサンタさん。大人は信用できないよね。
ガリア教会関係者とか、他国の偉い人もたくさん来るから、もしもの時は相談するのもアリだね。
ギューメラ王国には、古王国シャングラって中規模遺跡もあるし、隣国ミースラ王国には、小さいけど古王国ハーデ遺跡もあるよね」
私とアレス君は、打ち合わせ通りに他国に行くぞと脅しをかけておく。
「1回という約束は必ず守る。だから魔核充填した人物だと知られないよう気を付けてくれ。
朝早く来て充填したら、行ってみたいと言っていた図書館で過ごしてくれて構わない。学園の許可はとってある。関係者以外は入れないから安全だ」
そう言ってハウエン協会長は、2日間限定の図書館利用許可証をくれた。
……安全って・・・どこが?
翌朝、私とアレス君と最速踏破者は、体育館に予定通り到着した。
初日担当のアレス君が、チーフと王宮警備隊、魔術師協会職員立ち合いの下で、カラ魔核に魔力を充填した。
学会参加者に会わないよう直ぐに移動しましょうと言って、魔術師協会の職員が王立能力学園の図書館へと道案内してくれる。
図書館到着後「ここは学会会場から離れているから安全ですよ」と案内人に言われ、最速踏破者メンバーは招待状を持って学会の様子を見にいった。
私とアレス君は、誰も居ない図書館で読書を楽しむため、リュックからお茶やお菓子を取り出して、直ぐに本を探し始めた。
3人の守護霊も、知識の宝庫を見て好きな本のコーナーに飛んでいく。
私は各国の古代都市の本を探して、広い図書館の奥へと移動する。
本の背表紙を見ていたら、突然頭から何かを被されて視界が真っ暗になった。
えっ?何事?って驚いていたら、被された布の上から猿轡をされ、両手を縛られて大きな袋みたいなものに放り込まれた。
あっという間に誰かに担ぎ上げられ、そのまま何処かへ移動して行く。
『サンタさんに何をするんだ!』って、トキニさんの怒鳴る声がして、『大丈夫かサンタ』ってサーク爺の心配そうな声もする。
『何処から現れたのこの男?』って、パトリシアさんの驚いた声も聞こえる。
ドアを乱暴に開ける音を聞いたアレス君が、「何者だ!」と叫ぶ声がしたけど、私を脇に抱えている者は何も言わず走っていく。
私は足をバタバタさせて抵抗するけど、ボカッて頭を殴られて、気付いたら倉庫のような場所の床の上に転がされていた。
……図書館が安全だと言った協会長、魔術師協会の職員、出てこいや!
誰も居ない薄暗い部屋の中をゆっくりと見回す。
10畳ほどの広さの室内には沢山の棚があり、古い書類や資料が整理され置かれていた。
明りの差し込む小窓は、私では絶対に手が届かない高さにあり鉄格子付きだ。
しかも私は、猿轡をされ手は縛られたままである。
……埃っぽいから、使用頻度の低い学園内の倉庫かな?
……犯人は誰だろう? 目的は何? 私を攫ったってことは、ヒバド伯爵じゃないよね。
う~んと思案していると、足音と話し声が近付いてきた。
『犯人かな? それとも救助者かな?』
『残念だけど、犯人みたいよサンタさん。悔しいわ。実体さえあれば、犯人を叩きのめしてサンタさんを助けられるのに』
パトリシアさんは涙声で悔しいと言いながら、安全のため目覚めていない振りをした方がいいとアドバイスしてくれた。
サーク爺は、付近の様子を偵察に出掛けている。
トキニさんは、1人になったアレス君の様子を見に行った。
ガチャガチャと鍵を開ける音がして、ギギギーと扉を開ける音がする。
「フン、これでこのガキは処罰を受け、ハンター協会のメンツは潰れる。学会終了後、平民地区で解放しろ」
「はい、ご主人様」
……ん? 誰だっけこの声・・・聞き覚えがあるわ。
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