80 魔力学会(1)
……国王? はあ? 購入者は王様なの?
「魔術具を売ったら、私とアレス君の魔力まで本人の了解なしに売られた。
トレジャーハンター協会本部は、信用するに値しない組織だって分かった。
今後、こんなことがないよう、もうトレジャーハンターは辞める」
……明らかに面倒な事態になってる。この国の最高権力者となんか関わりたくないのに、何やってんのよー!
「いや、なんてことを言うんだサンタさん。これでもしっかり交渉して魔核充填代金を上乗せしたんだぞ!」
本当にびっくりしたって顔をして、チーフが言い訳をする。
「仲介手数料の白金貨2枚を取ってなかったら、その言葉を信じられたけど、私を守ると言ってくれたチーフも協会長もボルロさんも、もうこの世には居ない。
こんな国嫌だ。魔力学会が終わったら、絶対に……ぜ、ぜ、絶対、この国から出ていく。一生懸命……頑張ったのに……もう、もう嫌だー! わーん」
私の中の5歳の幼女が、悲しくて泣きだした。
大人顔負けの幼児なんて利用されるだけで、何もいいことなかった。
調子に乗った自分が悪いって分かってる。
サーク爺たちは気を付けろって何度も忠告してくれたのに、この口が、生意気なこの口が・・・
「わーん」って大声で泣きながら会議室を飛び出し、下で獲物の査定をしている仲間たちの所に向かって逃げる。
凄く心配そうにアレス君も私に続き、隣で「よくも師匠を泣かせたな!」って怒りに燃えている。
日頃は元気で生意気な幼女とか、憎めない天使様とか言われて可愛がられてる私が、大声で泣きながら2階から下りてきたから、ロビーに居たハンターも受付のお姉さんも、皆が何事だ!って泣いている幼女に注目する。
「どうしたサンタさん! 何があった? 誰が虐めたんだ!?」
受付に残っていたサブリーダーが、血相を変えて走り寄ってきたので、私はサブリーダーに抱き付いて大泣きを続ける。
どれだけ常日頃生意気でも、見た目は間違いなく幼女だから、小さな子が大泣きしていたら誰でも心配する。
サブリーダーは何があった?って視線をアレス君に向ける。
「ハンター協会本部が白金貨2枚貰って、僕とサンタさんを行きたくないと断った魔力学会に売ったんだ。
逆らうことはできないって。白金貨1枚やるから言うことを聞けってチーフに言われた。だからサンタさんは、大好きなハンターを辞めるって泣いてる」
アレス君は私より賢い。私みたいにうっかりな発言なんてしない。
どう言えば一番効果的かを、瞬時に考えて発言できる。尊敬する凄いにいにだ。
「なんだと!」
怒りの声を上げたのはサブリーダーだけじゃない。
1階に居たほぼ全員が、幼女を虐めたらしいチーフと本部に対し怒りを露わにする。
「天使様が辞める?」と、掲示板を見ていた先月助けた銅級ハンターが絶望的な顔をして言う。
「チーフめ、大事な仲間を売っただと!」って、サブリーダーは怒りに震える声で叫んで2階を睨み付ける。
この場に居るハンターの半数以上が、私やアレス君に助けられたことがある。
泣き止まない私を見て、ボキボキと指を鳴らし「許せん」と臨戦態勢になる。
「いや、ちょっと、サンタさん、だ、大丈夫か? そんなに王都に行きたくなかったのか?」
凄く険悪な雰囲気になったところで、カウンターの奥に居たサブチーフが出てきて、気まずそうに私に訊いた。
お前も虐めた仲間か!って皆の視線が、サブチーフに突き刺さる。
そこに騒ぎを聞きつけた最速踏破者メンバーが、血相を変えてやってきた。
「命懸けで……グスン、命懸けで採掘した魔術具を、王都に、王都の本部に持って行けっていわ……グスン、言われて持って行ったら、魔術師協会の人に生意気だって、ど、恫喝されて……グスン、見下されて、怖くて、怖くて逃げて帰ったのに……グスン、偉い人は誰も、私が魔力切れで死、死ぬとか、偉い人に殴られる心配なんて、し、してくれないの。わーん」
そこからは・・・もうカオス。
皆は私の父様が戦争で死んだってことを知ってるし、どうやら家族と離れて生活してる訳ありだって思ってるから、自分の娘のように可愛がってくれる気のいいオジサンが多いのだ。
泣いてる私を守ろうと、サブチーフに詰め寄っていく。
『大丈夫サンタさん? ここのところずっと不安そうだったものね』
『まあハンター協会本部の奴等には、悪気はないんやろうな。せやけど、相手が5歳児ってことを考慮してないのは確かや』
『サンタや、これは・・・お主の作戦か?』
『グスン、半分は本当に腹が立って泣いてるよ。残りの半分は、アレス君と考えた作戦の内のひとつだけど、偉い人が鈍感でも、ハンター仲間は違うもん。グスン』
『まあ確かに、これだけの騒ぎになったら、絶対に元気で王都から戻れるようにしなきゃ、ハンターたちの怒りはチーフや上に向けられるわね。うん、いい作戦だわ』
トキニさんとサーク爺は少し引いてたけど、パトリシアさんは褒めてくれた。
結局チーフが皆の前で、私たち2人を危険な目に遭わせないよう全力で守るし、必ず元気な姿で連れて帰ると約束したので、皆は渋々怒りを収めた。
でも納得できなかった最速踏破者メンバーは、魔力学会の期間中は、私とアレス君に護衛として同行すると言い張り許可をとった。
……よし、ボディーガード、ゲットだぜ!
10月、私たち一行(チーフを含む)は、2台の貸し切り馬車に乗って王都に到着した。
今回もアレス君は焦げ茶色に、私は金色に髪を染めている。
きっとヒバド伯爵と呪術師も来るだろうから、念には念を入れて用心する。
明後日からの学会参加のため、到着後直ぐに学会用の服を全員で買いに行く。
平服やトレジャーハンターの服装では、会場に入れないらしいから仕方ない。
正装なんて持ってなかった最速踏破者メンバーは、真剣に選んでいた。
全員の洋服代も宿泊代も、先日討伐した獲物で充分に賄えたので問題ない。
「今度こそ、私の家に招待できるよアレス君」
「うん、楽しみだね」
購入した新品の正装一式を持って、私はアレス君と一緒に家の呼び鈴を鳴らした。
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