77 トレジャーハンター協会本部(3)
……まあそうなるよね。
あの魔術具に付いてる魔核の見えている部分は5センチくらいだけど、埋め込まれている部分まで加味すると7~8センチはありそうだもん。
会議室内のメンバーの中で最も魔力量が多そうなのはミエハール部長だけど、彼は5センチの魔核を充填させるのがやっとだったはず。
「魔術師協会から来ている他の3人は、充填できなかったんですか?
アロー公爵様のことだから、部下に魔力循環を教えてますよね?
もしも魔力充填するとしたら、魔核正規価格の半分は頂きたいです。
私が採掘した魔核であの大きさだと、金貨8枚は下らなかったと記憶しています」
「でも、あれはサンタさんの魔術具だろう? 鑑定できなくてもいいのか?」
いやいや、魔力量が多いからって、ほいほいタダで魔力充填するわけないじゃん。
「全然構いません。有用なモノであればハンター協会に売るつもりでしたが、あれは元々祖父にプレゼントする予定だったので、持って帰れば済むことです」
有料で……なんて言われると予想していなかった様子のミエハール部長は、渋い顔をして相談させて欲しいと言う。
どうせ戻る必要があるから、アレス君と一緒に私も会議室に戻ることにした。
……全て想定済み。わたし、タダ働きはしないので。
会議室に戻ると、ミエハール部長が充填料金についてハウエン協会長と相談を始めた。
「今回はハンター協会に売ってくれるらしいから、充填料金の金貨4枚は、ハンター協会と鑑定士協会が折半しよう。
ただし有用な魔術具だったら、魔力学会にハンター協会の目玉として出品するつもりだから、それを了承してくれ」
ハウエン協会長は、ちゃっかり条件を出してきた。
気持ちは分かるよ。調査団に対し多大な協力をしたのに、ハンター協会は学会の協力組織に過ぎないもんね。
顧客や会員獲得のため、ハンター協会として魔術具を出品したいよね。
「了解です。ただし複製可能なら、製造権利の半分をファイト子爵にください」
「分かった。後程書面を交わそう」と、協会長は約束してくれた。
「互いに契約合意したので、特別に弟子の実力をお見せしましょう」
私のことを知らない魔術師協会の従者たちが、「弟子だと!」とか「できないから責任逃れか?」って聞こえるように呟く。
特にデモンズとかいう高圧的な部下は、憎しみを込めて私を睨み付ける。
……へ~ぇ、そういう態度で喧嘩を売るんだ。成る程。
「確認しますが、魔術師協会の方は、誰も充填できなかったのですか?」
「そうだよサンタさん。ミエハール部長以外は薄く色が変化したくらいだ」
私の嫌味をスルーした王立能力学園のツクルデ教授が、さあさあ早くって充填を急かし、私とアレス君を魔術具の前まで引っ張っていく。
「じゃあアレス君、両手でお願い」
「了解です師匠」
アレス君は深呼吸して、両手を魔術具の魔核に当て一気に魔力を流していく。
魔核はみるみるうちに、美しい紫色に染まっていった。
「充填しただと?」と、デモンズが驚愕の表情で呟く。
ガコンと音がして、50センチ四方の魔術具はカタカタと震えながら、その大きさを次第に変化させていく。
「大きさが変わるだと!」と言って、お爺様は絶句する。
「な、なんだこの物体は!」と魔術師たちも叫ぶ。
「大きさが4倍になるなんて!」と、チーフは後退りながら言う。
「信じられない! こんな魔術具など見たことがない!」
ツクルデ教授は驚きながらも、拡大した魔術具をペタペタと触っている。
皆で魔術具を観察するが、いったい何のための魔術具なのか見当も付かない。
よく見ると、魔核の側に小さな突起があった。
「あら、こんなところに」と言いながら、私はボタンらしきものを勝手にポチっと押す。
「何を勝手に」って、誰かが文句を言ってるけどスルー。だって私の魔術具だし。
すると横1メートル、縦1.5メートルの扉のような仕切りが浮かび上がり、自動扉のように外側へと開いた。中は真っ暗で何も見えない。
全員の目は点。驚き過ぎて声も出ない。
3分後、一番早く再起動したのは鑑定士の2人だった。
「隠し扉が現れるとは、凄すぎる」って、ボルロさんは瞳を輝かせながら言う。
「素材も未知の物です。簡易空間魔術具・・・常識では理解できませんね」と、チーフも興奮しながら素材をコンコン叩きながら言う。
「サンタさん、中に入ってもいいだろうか?」
好奇心旺盛なツクルデ教授は、待ちきれないとばかりに中を覗きながら訊く。
他の魔術具チームの2人も、キラキラした瞳を私に向け訴えてくる。
「分かりました。先ずは発見者である私と弟子が先に入ります。次にお爺様とツクルデ教授、後は交代でどうぞ」
私はそう言って、ウエストポーチから魔核付きの杖を取り出し、魔術具の中を照らしながらアレス君と一緒にそろりそろりと中に進んでいく。
「あれ? 外見からだと中の広さは2メートルくらいだったよね」
「そうだねサンタさん、きっと5メートル以上あると思う。これって空間拡張?」
「そうみたい」
何もない空間を観察しながら、この魔術具は私のリュックと同じ【空間拡張】を応用したものだと、私とアレス君は理解した。
「サンタさん、まだですかー?」ってツクルデ教授が煩いから、「中に入っていいよ」って声を掛ける。
「じゃがサンタ、4人は無理じゃないか?」って言いながら入ってきたお爺様は、魔核で照らされた広い空間を見て「なんじゃこれはー!」って叫んでしまった。
その声を聞いた王立能力学園の2人が、「どうしたー」って心配しながら入ってきて、やっぱり「なんじゃこりゃー!」って叫んでしまう。
……ああ、こうなったら研究者たちの暴走は止められない。
私はリュックから小型ランプを取り出し、呆然としているお爺様に手渡して、アレス君と一緒に魔術具の外に出た。
まだかまだかと順番を待っていた残りの人達に、どうぞお入りくださいと笑顔で入室を勧める。
そして、お決まりのように「なんだこれはー!」と叫ぶ声がして、アレス君と大笑いした。
「強度によるが、これは軍事的にとても有用だと思われる」
中から出てきたハウエン協会長が、ニヤリと笑って私を見る。
「軍事的に?」
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