76 トレジャーハンター協会本部(2)
あちゃ~! 面倒ごとの予感が当たったかも・・・
ミエハール魔術師協会部長は3人の従者と一緒で、これから魔力学会の会議を行うらしい。
ミエハール部長と会話していたら、お爺様が心配そうに私を見るので、ミエハール部長にお爺様とアレス君を紹介した。
「あれ、サンタさんって子爵家令嬢だったの? えぇっ!?
しかも弟子までいるの? なんて羨ましい。いやいや、私も技を伝授されたので弟子の1人だな」
確かに貴族令嬢には見えなかったと思うけど、そんなに驚くなんてちょっと失礼。
魔法じゃなくて【技】って言ってるから、ちゃんと魔法のことは秘密にしてくれてるみたい。まあ、協会長はアロー公爵だもんね。
アレス君の素性は話せないから、弟子って紹介したら羨ましがられた。
今日のアレス君は、旅の途中で金髪を焦げ茶色に染めて変装中だけど、そんなにジロジロ見ないで。
入り口付近で立ち話をしていたら、後ろから王立能力学園工学部のツクルデ教授が、従者を2人連れてやって来るのが見えた。
私の姿を見付けると嬉しそうにブンブン手を振って、「サンタさーん」って大きな声で叫ぶ。
……いや~ん、勘弁して!
ガヤガヤしている所に、チーフがトレジャーハンター協会本部ナンバー2であり、鑑定士協会のトップでもあるボルロさんを連れてやって来たから、もう何処にも逃げ場がなくなった。グスン。
……なんで王都まで来て、調査団メンバーと再会しなきゃいけないのー!
「ちょうど良かった。実はサンタさんがまた、新しい魔術具を発見したらしい。
その魔術具、驚くことに魔核嵌め込み型で、魔力を充填しないと起動しないらしいから、検証のため王都に持ってきてもらった」
何がちょうど良かったの? ねえ、どうして私が発見した魔術具の話を皆にするのボルロさん?
さっさと会議をしたら? いや、私の魔術具が先かぁ・・・
この場に居る全員の目が、キラキラしている気がするのは何故?
「さあ早く出してくださいサンタさん」って、なんで一緒に検証する気満々なのツクルデ教授?
『諦めや、サンタさん、このメンバーが新発見を見ずに済むはずないやろ?』
『そうね、直ぐ見せた方が早く王都見学に行けると思うわ』
『サンタや、どうしてお主はこうも面倒ごとに巻き込まれるんじゃ?』
『はあ? 私だって好きで巻き込まれてないけど?』
……しょうがない。諦めて皆に検証してもらおう。
私たち3人は、大人数と共に鑑定士協会の会議室へと移動していく。
なんだか凄いメンバーに囲まれたお爺様は顔色が悪いけど、ツクルデ教授の従者が知り合いだったみたいで、「素晴らしいお孫さんが居て羨ましいですな」とか言われて嬉しそうだった。
アレス君は「いつから弟子になったんだ?」ってミエハール部長に質問され、戸惑いながらも「2年前くらいです」って答えてる。
「魔術師を目指しているのか?」って問いには、「サンタ師匠にお供する予定です」って答えてるけど・・・王立能力学園では違う学部になるよ、大丈夫?
「トレジャーハンターは、近年魔術師学校を卒業した下位・魔術師を引き抜いているが、君もハンターになる気なのか?」
ちょっとミエハール部長、獲物を見るような目をして不必要な質問をしないで!
「いえ、僕はサンタ師匠と一緒に、魔術師学校では中位・魔術師の資格を取ります。でも、ハンターの仕事もやるつもりです」
あぁ、アレス君ったら、そんな真面目に答えなくてもいいのに・・・ミエハール部長め!
「はあ? 中位・魔術師資格だと!」って、ミエハール部長の部下らしき人が、不機嫌そうな声で、アレス君を見下すように見て言う。
……この人、滅茶苦茶感じ悪いんですけど? 中位・魔術師に何か不満でも? それとも、中位資格を取れるはずがないって思い込み?
……いや、アロー公爵やミエハール部長が特別で、普通の魔術師は皆こんな感じだった。これが普通。ちょっと油断してた。でも、負けたくない。
「私の弟子を見下すような魔術師協会の人には、今後は何も教えない。それでいいよねミエハール部長?」
私はミエハール部長と視線を合わすことなく、不機嫌全開で脅しを掛ける。
「ガキのくせにさっきから、部長に対してその口の利き方はなんだ! 無礼者」
ちょっと大きな声で私を叱咤したから、チーフもボルロさんもツクルデ教授も、刺すような視線を男に向け、責任者であるミエハール部長を睨んだ。
「止めないかデモンズ君、大事な協力者に対し無礼だぞ! あの属性判定魔術具の持ち主はこの子だ。キミの第二期調査団員内定は取り消しとする」
ミエハール部長が慌てて部下を叱ったけど、せっかくのいい雰囲気から一転、重苦しい雰囲気へと変わってしまった。
会議室に到着した私は、直ぐにリュックから魔術具を取り出し床の上に置くと、「それでは鑑定をどうぞ」と言って、アレス君を連れ会議室から出て行く。
お爺様は、鑑定結果を知る必要があるので残った。
……フッ、鑑定できるものなら、やってみればいいわ。
「なんだか頭にきたねアレス君。絶対に高位・魔術師の資格を取って、魔法でさっきの男をぎゃふんと言わせようね」
「そうだね、彼の常識を覆し、魔法の方が上だって教えてやろう」
ロビーまで戻った私たちは、気合を入れて誓い合った。
でも王都に来れば、悔しい思いをすることなんて日常茶飯事になるだろう。
たかが準男爵、たかが男爵程度では、実力じゃなくて地位や爵位で押さえつけられるんだ。ハーッ、それが社会に出るってこと。
気を取り直して、ロビーの椅子に座っておやつでも食べよう。
美味しいお菓子は幼児の必須アイテム。そして、疲れた心を癒してくれる。
「申し訳ありませんでした。以後、このようなことがないよう指導いたします」
お菓子を食べていたら、受付のお姉さんと上司らしき男性がやって来て、私たちに向かって真摯に頭を下げ、身分証を返してくれた。
よく見たら、トレジャーハンター協会のハウエン協会長が、軽く右手を上げ、会議室の方へ移動して行くのが見えた。成る程、ありがとう。
10分後、今度はミエハール部長がやって来て、申し訳なさそうに言った。
「すまないサンタさん、魔核に魔力をお願いできないだろうか?」と。
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