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74 ファイトアロ準男爵

 言いたいことを言っちゃったら室内の空気が重くなって、伯父は私を異質と気付き混乱している。


『サンタや?』


『分かってるサーク爺、言い過ぎた』


『でもまあ、あの野放し状態には俺も腹が立ったで』


『そうね、私に実体があったら、絶対にあの女をビンタしてやったわ』


『慰めてくれてありがとう。ちゃんと謝って、お爺様には感謝を伝える』


「アイガー様、現在ファイトアロ準男爵の筆頭後見人として、アロー公爵が国から正式に承認されており、一般後見人として、次期辺境伯のハウエン協会長も名乗りを上げておられます。

 また魔術師協会と王立能力学園は、ファイトアロ準男爵に様々な協力を要請されています。


 故に、ファイトアロ準男爵の身を脅かす者があれば、それらの勢力から排除されることをご覚悟された方がいいでしょう。

 ガリア教会大学からも名誉教授の称号を頂き、教会に多大な貢献をされたので、保護対象者として認定されるようです。ご注意ください。

 これは高位貴族の遣り方を、よく知っている商会主としての助言です」


 ……怖いよホッパーさん。


 アロー公爵から何をおいても私を守れって言われてたから、ホッパーさんが憎まれ役になってくれたんだ。

 申し訳ないけど、私じゃ感情的になって上手く話せないから有難い。


 お爺様は地方の男爵家に生まれ、自分の代で領地持ちの子爵になったけど、中央で働く貴族との関係は希薄だ。

 権力を持っている高位貴族への対応等は、あまりご存じないようですとホッパーさんは心配していた。



「暫く会わないうちに、随分と偉く・・・いや、いろいろ活躍したようだな。  

 サンタナリア、叙爵おめでとう。

 まだ5歳だというのに、こんなに早く祖父の手を離れていくとは・・・

 もう決めたのなら仕方ない。じゃが、お前を愛していることだけは忘れないでくれ」


「うん、ありがとうございます。それから、生意気言ってごめんなさい。

 私、自分で稼いだお金で王都に家を買ったよ。だから、もうお爺様の家には帰らないと思う。

 自分のお金で服も買えるから、これからは……もう……1人……1人で頑張る」


 泣く気なんてないのに、涙がどばーって溢れてきて止まらない。

 大好きなお爺様だけど、ここで甘えたらダメ。

 ホッパーさんの言う通り、アロー公爵は、私に害なす者は処分するって言ってた。大嫌いだけど、伯父の家族を害したい訳じゃない。だから距離を置く。


 アイガー伯父さんは青ざめた表情で私を見て、言葉を発することはない。

 どうやら高位貴族を怒らせることが、どれ程怖いか少しは知っているみたい。

 子爵家の嫡男といえど、筆頭公爵家や辺境伯を敵に回したくはないだろう。

 そんなことにならないよう、自分の家族をちゃんと管理監督してくれたらいい。



「い、いろいろと迷惑を掛けたようで、申し訳なかったサンタナリア。

 サンタナリアも兄のバルトラも、ファイト子爵を継ぐことはないと、ちゃんと言い聞かせる。この町にも来させない。

 だがサンタナリアの爵位は、準男爵に過ぎない。長男アルシスとは王立能力学園で会うこともあるだろうが、爵位的にはアルシスの方が上になるぞ」


 謝ってはいるけど、きっと伯父さんは、息子のアルシスの方が身分は上だから、礼を尽くせって思ってるんだ。


 ……そうですか、それならちゃんと伝えておいた方がいいわね。


 私はホッパーさんと顔を見合わせて頷くと、リュックに仕舞った黒革のファイルを再び取り出し、7歳になったら男爵にすると書かれた確約書をテーブルの上に置いた。


「魔術師学校入学時に男爵ですから、王立能力学園入学後は、最低でも子爵、卒業までに王様から伯爵位を授かる可能性もあると、アロー公爵が仰っていました。

 今回は、サンタナリア様が5歳だったので、仕方なく準男爵を授けるしかなかったのです」


 またまたホッパーさんが、嫌われ役をやってくれた。

 私が同じことを言ったら、きっと伯父さんもお爺様もショックを受けただろう。


「学園で会っても、私からは声を掛けません。

 私はもう、中級学校の勉強を終えており、8歳で魔術師学校を卒業したら、直ぐに王立能力学園を受験します。

 よって私は、アルシスより上級生になります。アルシスは、11歳で受験するなんて無理でしょう?」


「サンタや、その辺で許してやれ。王立能力学園には普通、12歳か13歳で入学する。どう頑張っても、アルシスが先に合格するのは無理じゃ」


 お爺様が、伯父さんに憐みの視線を向けながら言うから、この辺で勘弁してあげよう。ちょっとスッキリしたし。

 あのオバサンと似てるだけあって、間抜けだと思ってた子が、自分の息子より優秀だって認めるのは無理みたい。別にいいけど・・・


 すっかり冷めたお茶を飲み干して、私はお爺様とゲートル支部に魔術具を見に行く。伯父さんはホテルへと向かった。




「サンタや、時々でいいからワシに服を買わせてくれないか?」


 ゲートル支部が見えてきた所で、お爺様が寂しそうに声を掛けてきた。

 なんだかしょげてるお爺様を見て、ここで意地を張るのは賢明ではないと守護霊3人が煩いから、いつもの明るい私で話すことにしょう。


「うん、いいよ。ありがとうお爺様。私、準男爵になったから、お貴族様っぽいドレスが必要になるみたい。ちょっと高いけどいい?」


「勿論じゃ。男爵になる時は、正装してアロー公爵に会わねばならんから、王都の有名な店で祝いとしてドレスをオーダーしてやろう」


「わーい! 凄く嬉しい。じゃあ、その時はお爺様とお婆様を、私が買った家にご招待するね。中流地区の端っこの中古住宅だけど、花壇にお花をたくさん植えておくね」


 いつもの元気な笑顔で話せば、お爺様は嬉しそうに頷いて、「楽しみにしとるぞ」って返事した。

 伯父さんが居ないから、いつもの仲良しな孫とお爺ちゃんに戻って、手を繋いでゲートル支部に入っていく。


 カウンターの奥に居たチーフに手を振ったら、何故か怖い顔で睨まれた。


「サンタさん、あの魔術具は・・・あぁ、また協会長とボルロ殿を呼ぶことになる。なんて物を採掘してくるんだよ、本当にもう」


 なんでかチーフに怒られた。理不尽。 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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