7 運命の出会い(2)
強盗犯が起き上がらないのを確認したホッパーさんは、安堵したように深く息を吐いて、「誰か来てくれー、強盗だー!」と大声で叫んだ。
「なんと小さな魔術師なんだ。ありがとう。お陰で助かったよ。それにしても凄い魔術だ。まさかこの歳で中位魔術が使えるとは・・・」
私の顔がよく見えるようにしゃがんで、ホッパーさんは驚愕の表情をしたままお礼を言った。
『やっぱりやり過ぎたみたいだよサーク爺。これは完全に魔法を使ったことがバレてる。しかも中位魔術? あれが?』
『あんなもの、ただの初級魔法じゃ、驚くほどでもないわい』
……あぅ、頑張って演じてきた【ぼんやりっ子人生】が、今日で終わりを告げちゃう。シクシク。
半分腰が抜けたみたいになっていたおばあちゃんを、ホッパーさんが優しく手を差し伸べて立ち上がらせてくれる。
「素晴らしい才能のお孫さんだね、パン屋のマージ婆さん」
どうやらホッパーさんは、おばあちゃんのことを知っていたようで、私を孫だと思って褒めている。
「旦那様、私の孫じゃありませんよ。この子は中央通りの噴水の前に、叔母と従姉に置き去りにされたから、私がこれから警備隊に連れていくところだったんです。
昼前からずっと待ってみたんだけど、迎えは来ませんでした」
「な、何だって! こんな才能あふれる逸材を! まさか貴族の・・・」
「あっ、魔法のことは秘密にしてください。お願いします」
必死で頼む私の姿を見たホッパーさんは何かを察したようで、可哀想にって表情で私を見る。
「マージ婆さん、これも何かの縁だ。私が警備隊に連れて行こう。怖い目に遭わせてすまなかったね。
小さな魔術師さん、助けてくれて本当にありがとう。私はホッパー商会を営んでいるホッパーという者だ。
これから警備隊に届け出て、探している者が居なかったら私の店に来たらいい」
ホッパーさんは、おばあちゃんに「迷惑料だよ。魔術のことは極秘で頼む」と小声で言って銀貨を握らせ、後のことは引き受けるからと笑った。
こういう心遣いができる大人っていいよね。可愛い幼女を捨てるオバサンとは大違いだ。
ホッパーさんの叫び声を聞いた町の人が駆け付けてきて、強盗犯を引き摺って警備隊に運んでくれる。
そしてやって来ました警備隊詰め所。
予想通りというか期待を裏切らないと言うか、オバサンは捜索願いを出していなかった。
「戦争が始まってから、月に2件くらいあるんだよなぁ置き去り。
可哀想に。領主様からのお達しでは、一旦孤児院か教会に預けて、3日待っても誰も迎えに来なければ、そのまま孤児院で過ごす決まりだ」
警備隊のおじさんが、うちは子供が4人も居るからなぁって溜息を吐く。
いやいや、自分の家で預かろうと考えてくれるだけでも嬉しいよ。
この町って、強盗もいるけど基本的に善人が多い気がする。
「いや、この子には恩があるから私が預かろう。ほら、この2人の強盗から魔・・・守ろうと大声で助けを呼ぼうとしてくれたんだ」
手足をグルグル巻きにされて詰め所内に転がされている強盗に視線を向けながら、ホッパーさんは私を預かると申し出てくれる。素敵。
教会や孤児院より、絶対に居心地がいい気がする。
だからここは「うん。わたしもおじちゃんがいい」と言ってにぱっと笑った。
警備隊詰め所にくる途中、私は身内に殺されたくないから、魔法を使えることを黙っていて欲しいとホッパーさんにお願いしておいた。
「やはり後継者問題ですか・・・ということは、お嬢ちゃんは貴族家の令嬢なんですね? 家の名前が分かるかい? 魔法のことも家名も誰にも言わないと誓うよ」
「お爺様はファイト子爵です。私の母は長女で、私を置き去りにしたのは長男の嫁と従姉です。
私の名前はサンタナリア・ハーシルン・ファイト。サンタと呼んでね。
家ではまともに会話もできず、名前も住所も言えない子を演じているの。
お爺様は本当の私を知っているけど、魔法が使えることは知らないわ」
てな会話をしておいたので、警備隊詰め所では身分も魔法のことも黙っていてくれた。
しかもホッパーさん、お爺様と知り合いだったらしく凄く驚いていた。
お爺様はホッパー商会からよく遺物を買うらしく、ホッパー商会もお爺様が作った魔術具を販売しているんだって。
警備隊のおじさんは、迎えが来なかったら3日後に連絡するからと言って、私の頭を優しく撫でてくれた。
「うわー、凄く大きなお店だね」
「そうですね、ゲートルの町では一番大きいと思いますよサンタさん」
焦げ茶の髪に、こげ茶の瞳で、ちょっとだけ出ているお腹は気になるけど、私を幼児ではなく、1人の人間として接してくれるホッパーさんは好い人だ。
「あぁ、このままずっとゲートルの町で過ごしたいなぁ」
つい本音がこぼれてしまう。
だって此処は、私の目標でもあるトレジャーハンターがいっぱいいるし、この店は古代都市で採掘された商品を扱っているんだもん。最高!
『商会と言っておったから、大きな店だろうとは思っていたが、町で一番大きな商会じゃったか。ほうほう。
この町では珍しい4階建の建物じゃし、接客している従業員も丁寧じゃ。掃除もきちんとしてあるようじゃから、この男は信用してもいいじゃろう」
勝手に店の中を偵察してきたサーク爺は、ホッパー商会を気に入ったみたいだ。
ホッパーさんに案内されたのは、2階にある客間だった。
貴族家のお嬢さまだから失礼がないようにと、家人や従業員に紹介してくれた。
そして今後のことを話し合うため、ホッパーさんの執務室にお邪魔した。
「本当にゲートルの町に住むことをお望みであれば、私がお爺様に会いに行ってきましょう。
3歳で命の危機を感じて真実を偽らねばならない生活なんて、過酷すぎます。
私が責任を持ってお預かりすると、ファイト子爵に掛け合いますが?」
「う~ん、でも、それじゃあホッパーさんに悪いよ・・・」
「いえ、実は私にも都合がいいのです。お世話するのは当然の対価としてお考えください。私には、魔術を教えて頂きたい者がいるのです」
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