表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/148

67 魔術具の謎(1)

 アロー公爵たちと呪術の話をした翌日、ヒバド伯爵ご一行はゲートルの町から撤退した。

 まあ、王宮魔術師団が参加を拒否されたんじゃ仕方ないよね。

 おまけに選ばれし勇者のリーダーが、ケガ人が出たから追加料金を払えと迫ったらしく、それを回避するためか明け方には町から出ていったとか。


 昨夜、王宮魔術師団ラースクの様子を探っていたトキニさんによると、ラースクは上司であるヒバド伯爵に虚偽の報告をしたらしい。


『1回はアロー公爵に毒を飲ませ、残りの茶葉も受け取り、必ず調査の合間に飲むと喜んでいました。もしかしたら、他の者にも飲ませる可能性があり、致死量に至らないかもしれません・・・なんてことを言うとったで』


「へ~っ、あの図々しい男も、ヒバド伯爵には叱られたくなかったのね。

 でもヒバド伯爵がその嘘を信じれば、暫くは様子見するはず。時間は稼げる。

 うちのリーダーも釈放されるから、明日から仕事再開だね。ありがとう」


 ゲートル支部3階の特別室の窓を開け、朝の爽やかな風を入れながら、私はトキニさんにご苦労様でしたとお礼を言う。

 敵が撤退したから今日からホッパー商会に戻る私は、鼻歌を唄いながら荷物をリュックに収納する。



『シリス、待っててね。直ぐに戻るよー』


 お留守番をしている光猫のシリスのことを考えながら、足取りも軽くホッパー商会へと向かう。

 途中、噴水前広場の屋台でパンを買う。

 この町に初めて来た時、置き去りにされた私に親切にしてくれたパン屋のマーサお婆ちゃんは、うちのサブリーダーのお母さんだった。縁って不思議。


「あらサンタさん、王都に行ってたんだって? この前も他のハンターから孤児院にパンを届けてくれって注文を受けたよ。いつもありがとね」


 元気なマーサお婆ちゃんから朝食用のパンを買って、新作の菓子パンが出たって聞いたから、孤児院に人数分届けてねとお願いしてお金を払った。

 この町のハンターの多くは、大金が入った時は何某かの善行を積む習慣がある。

 そうすることで、神様がピンチを救ってくださるって信じてる。いい習慣だ。



 いろいろあったけど、これでアレス君もファイト子爵領から戻ってこれる。

 今日は明日に備えて買い出しして、王都で買ったお土産を皆に配ろう。

 なんて考えながら歩いていたら、私の側に豪華な馬車が止まって、中から高位・鑑定士で副団長でもあるボルロさんが降りてきて、そのまま拉致られた。


 馬車の中には、なんと、トレジャーハンター協会の会長が乗っていた。

 なんでもボルロさんは、私が王都に向かった翌日、同じく王都に向かい、たった今戻ったらしい。

 私とシリスが発見した魔術具は、協会長立ち合いの元で検証が必要だと、調査団の鑑定士チームと工学者チームが判断したそうだ。


「君が発見した魔術具は、とんでもない代物の可能性がある。

 はじめましてだなサンタさん。私は協会長のシルゾ・バスラン・ハウエン。次期ハウエン辺境伯の予定だ。

 私は高位職の学者・歴史持ちで、3年前まで王立能力学園で古代都市学者として教授をしていたが、前協会長から推薦されトレジャーハンター協会に移った」


 珍しい黒髪に黒い瞳のハウエンさんは現在46歳で、次期辺境伯らしい。

 なんで公爵とか次期辺境伯みたいな雲上の人と、5歳の幼女が知り合ってるんだろう? もう面倒ごとの予感しかしないんだけど・・・


「はじめまして。つい先日サンタナリア・ヒーピテ・ファイトアロに名前が変わったサンタです。よろしくお願いします。あの魔術具、何か問題でもあったんですか?」


 次期辺境伯だけど優しい感じの協会長に、私は新しい名を名乗って質問する。


「あれ、まさかもうアロー公爵に取り込まれたのかサンタさん」


「うん、王都でちょっと色々あって・・・でも、義務は何も負ってないし、私はこれからもトレジャーハンターですボルロさん」


 しまった!って厳しい顔をしたボルロさんに、私はハンターは続けると苦笑しながら答えた。


「詳しいことはゲートル支部に行ってから話すが、あの魔術具は魔術師の属性を調べる物である可能性が高い。

 もしも本当にそうなら、職業選別の魔術具に並ぶ大発見となる可能性がある。

 これから調査団の魔術師チームに、最終検証をしてもらう予定だ」


 瞳をキラキラ輝かせ、歴史的大発見かもしれないなんて、とんでもないことを協会長が言う。


 ……あぁ、そう言えば職業選別の魔術具みたいに、なんか色のついたパネルみたいな部分があったな。



「それじゃあ、魔核の色の変化も解明できる可能性があるってことね」


「サンタさん、そういうことを簡単に口にしてはいかん。

 前回の調査で君は、凄い大発見をポロポロと皆に教えていたが、私も魔術師のファーズも生きた心地がしなかったぞ。

 ハンター協会なら絶対に秘密にするようなことまで、あっさりと見返りもなしに・・・は~っ、幼女に大人の常識を期待してはいかんが、あまりにも無防備で危険だ」


 ボルロさんは大きな溜息を吐きながら、私のうっかりに頭が痛いと愚痴る。

 私の稀有な才能を、様々な権力から懸命に守ろうとしているのに、自分から危険地帯に飛び込んでいくので、どんどん守れなくなっているらしい。


『サンタや、何度も言うようじゃが、思ったことを喋る前に、わしらに相談せい』


『ううぅ、分かったよサーク爺。口に出す前に念話する』


『そのうっかりは、ただの癖では済まない危険を生むで。特に権力者の前ではな』


 トキニさんも心配そうに注意する。


『そうは言ってもサンタさんは5歳よ。失敗を重ねながら誰だって大人になるんだから、失敗を恐れて縮こまってたら、成長を阻害することにも繋がるわ』


 グスン、やっぱりパトリシアさんは優しい。



 そうこうしているうちに、立ち去ったばかりのゲートル支部に馬車が到着してしまった。


 ……なんだろう・・・協会トップとトップ2を従えて馬車から降りる幼女って、もう完全に目立ちまくってる。


 慌てて出迎えに出てきたチーフに、何やってるんだサンタさんって、叱るような視線を向けられ、私はいろいろ諦めて大きく息を吐いた。


 ……なんか理不尽。 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ