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64 用意された罠(1)

 大至急ゲートルの町に帰れって、何かあったのかな?


「今から帰る予定なので問題ありませんが、何があったか書いてありましたか?」


 ホッパーさんがそう問うと、家令のコーシヒクさんは他には何も書いてなかったと答え、もしもの事態を考慮し、ホロル様の専用馬車で戻って欲しいと頼まれた。

 まあ毒殺を企む者が居るんだから、万が一って考えたら居ても立っても居られないかぁ・・・


 私は直ぐに仕返しの魔法陣を仕掛け、内容は教えられないけど、呪符が仕掛けられていた部屋には、絶対に誰も立ち入らないようお願いしておいた。

 ホロル様は、正式なお礼は母様を屋敷に呼んで改めてするけど、とりあえず受け取って欲しいと言って、上流地区に入るための許可証と、アロー公爵家の刻印入り黒革のファイルをくれた。



【 爵位授与証明書 及び 確約書 】


 アロー公爵家に対し、多大な貢献をした褒賞として以下の者を叙爵する。


 サンタナリア・ハーシルン・ファイト 5歳。

 準男爵位を与え、サンタナリア・ヒーピテ・ファイトアロ と名乗ることを許可する。

 アロー公爵家に帰属する貴族ではあるが、一切の義務を負う必要はない。


 また、7歳の誕生日に、治める領地なし役職無しの、男爵に叙爵することを確約する。

 この確約は、公爵家当主が途中で変わっても、変更されることはない。


 アロー公爵家 嫡男 ホロル・ダグラン・アロー



 ……う~ん、何故か爵位を貰っちゃったよ。


 ファイト()()って、完全にアロー公爵家の紐付きってことよね・・・

 上流地区に入る許可証には、既に新しい名前が書かれてるから、朝一番で王宮に行って作らせたんだろうな・・・筆頭公爵家のゴリ押し恐るべし。

 貰った爵位授与証明書及び確約書の他にも、王宮発行の爵位証明書と、後見人証明書も黒革のファイルに挟んであった。


「まあ、当然といえば当然の褒賞だと思いますが、5歳で準男爵ですか・・・

 法律では確かに5歳から準男爵になれると定められていますし、7歳になったら男爵位だって叙爵や継承可能ですが、ファイト子爵様の困惑したお顔が目に浮かびますね」


 ホッパー商会の2頭立ての立派な馬車じゃなく、4頭立てキラキラの豪華馬車の中で、頂いた証明書をしげしげと見たホッパーさんが呟く。


「そうだね。私の夢は他の貴族に帰属するんじゃなくて、自分で新しい家名を興すことだったんだけどなぁ・・・

 でもシロクマッテ先生が、王命による叙爵なら新しい家名を名乗れるって言ってたし、女性は2つまで爵位を持てるとも言ってた。

 自分で男爵以上の働きをして子爵にならなきゃ、アロー公爵家の臣下のままになっちゃう」


 7歳で魔術師学校に入学する時、私って男爵として入学するの?

 う~ん、アレス君を守るためには子爵家の孫じゃあ、確かに舐められるよね。

 ああ、それも考慮しての男爵位かぁ・・・私、トレジャーハンターなんだけど。


「ものは考えようですよサンタさん。7歳で魔術師協会発行の下位資格を取ったら、多方面から強引に勧誘されるのは確実ですが、男爵本人であれば撥ね退けても大丈夫です」


「ああ、嫌いな金級パーティー選ばれし勇者とかだよね。マジで関わりたくない」


 なんて会話をしながら、キラキラの馬車をすっ飛ばしてゲートルの町に1日早く帰ったら、本当に奴等がやらかしていた。




 調査団は3日間【聖なる地】で調査する。4日目は報告書を作成し、5日目は休日という、5日間の日程を5回繰り返すと決めている。

 私が王都に旅立ったのは4日目で、ヒバド伯爵は5日目の休日にゲートルの町に到着したようだ。


 用心のためホッパーさんは、町の情報屋にヒバド伯爵の次男ナックルの動きを探らせており、もしもヒバド伯爵が来たら、一緒に動向を探るよう依頼していた。

 それとは別に、アロー公爵も私兵に動きを探らせていたらしい。



「その事件は、6日目の朝に起こった」と、アロー公爵が話し始めた。


 いつものようにうちのリーダーは、行きつけの食料品店にリヤカー担当のカンパーニさんと一緒に買い物に寄った。

 そこで何故か、いつもは出会わない金級パーティー選ばれし勇者と遭遇し、罠に嵌められてしまったのだと言う。

 

 選ばれし勇者はその日、新しくパトロンに名乗りを上げたヒバド伯爵の息子ナックルと一緒だった。

 買った食料をリヤカーに積もうとしていたリーダーは、後ろから誰かに突き飛ばされ、側に居たナックルにぶつかってしまった。


「伯爵家の子息である私を害するとは何事だ! 不敬罪で訴えてやる!」


 ナックルは大袈裟に転倒し、うちのリーダーに向かって叫んだらしい。

 用意周到に懇意の役人まで待機させていた選ばれし勇者のリーダーボイルは、「何をする無礼者め!」と大声でうちのリーダーを叱咤し、役人に向かって「伯爵家の子息を害そうとした罪人を捕らえろ」と、指示を出したそうだ。


 リーダーは誰かに突き飛ばされ、わざとぶつかった訳ではないし、ケガをさせる気は全くなかったと弁明したが、聞き入れてもらえなかった。

 リーダーは警備隊に連れていかれ、ナックルが被害届を出したので、最低でも2日間は取り調べを受ける必要があり、警備隊詰め所に拘留されることになった。


 でもまあリーダーは善人として名を売っており、店の人も通行人も情報屋の人も事件を目撃していて、警備隊で事実を証言してくれた。

 リーダーを突き飛ばしたのは、選ばれし勇者のメンバー銅級のモグバスで、大けがをしたと騒いでいた貴族は、わざとらしく大袈裟に転び、打ってもいない頭を痛がっていたのだと。


 それでも相手は貴族だから、2日間は拘留しておいた方が無難だと警備隊の責任者は判断した。

 リーダーの拘留を知ったゲートル支部のチーフは、戦力不足なので【聖なる地】に出発するのは難しいと、支部前に集合していた調査団に渋々報告した。


 そこに、偉そうにほくそ笑む選ばれし勇者のリーダーが現れて「それなら、我々が護衛を代わってやろう」と言ったらしい。


 ……ちょうど顔を合わせなくて済むと思っていたけど、選ばれし勇者と手を組むとは、バカそうな息子と違い、父親のヒバド伯爵は頭がきれるみたいね。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

新章スタートしました。これからも応援よろしくお願いいたします。

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