63 調査の行方(7)
私は再びバルコニーに出て、サーク爺に移動できる範囲の他の部屋の壁も確認してもらう。
「バルコニーから発見できた魔法陣は2つで、西端の部屋には、種類の違う呪符が仕掛けられているみたいです。
隠匿魔法を解除すれば、呪符は姿を現すそうなので撤去できると思います。
念のために、2つの部屋の中も調査した方がいいだろうと師匠が言ってます。
庭の呪符は、枯れた花や木があれば地面を掘って確認してください」
私はサーク爺の指示通りに、必要なことを伝えていく。
ホロル様は、必要なら何をしても構わないし、全ての部屋を調べてもいいから、ぜひ助けて欲しいと再び私に頭を下げられた。
因みに2階の西端の部屋は、アンタレス君の部屋になる予定だったらしい。
……なんだと、許せん! 私、完全に怒ったから。
「旦那様、宿泊者名簿を持って参りました」と言いながら、家令のコーシヒクさんが戻ってきた。
その名簿を確認すると、3年前にヒバド伯爵は執事のヨカランという者を連れて3日間宿泊していた。
その当時、呪符を貼り付けた部屋は誰にも使われておらず、誰でも入室が可能だったみたい。
隣の部屋のトーラス君は、当時から同じ部屋を使っていたそうだ。
そしてヒバド伯爵が最後に執事のヨカランを伴って宿泊したのは、アレス君が襲撃される4日前のことだったらしい。
その時には、西端の部屋をアレス君が使う予定だと、メイドたちは知っていたから、ヒバド伯爵配下のメイドから情報が漏れ、襲撃され呪符を仕掛けられた可能性が高いと、ホロル様は結論を出した。
「ねえサーク爺、呪符って、解呪する以外に呪術内容を改変することはできないの? 例えば呪術返しをするとか、呪符を確認しようとする者を、呪う・・・いや、確認した者に魔法を仕掛けるとかできない?」
ホロル様は自室にお戻りいただき、私はホッパーさんと家令のコーシヒクさんと一緒に、呪符を仕掛けられた部屋に向かいながら、サーク爺に質問した。
『サンタや、声に出とるぞ』
「いいの、わざと声に出したんだから」
私は怒っていた。ちょっとだけ残っていた理性は何処かへ放り投げ、復讐に燃える幼女として戦場に向かう気持ちなのだ。
『サンタさん、けっこうえげつないこと考えるなぁ』
『あらトキニさん、やられたら3倍返しは当然だわ』
「そうよねパトリシアさん、やられたら3倍返しが当然よね」
やっぱりパトリシアさんとは意見が合うわ。
私の隣を歩いているホッパーさんは、私と守護霊が会話しているのに慣れているから、ハハハと苦笑しながら歩いてるけど、慣れてないコーシヒクさんは立ち止まり、「そのようなことが可能なのですか?」と振りむいて私に質問した。
『呪術返し・・・幼児の発想ではないぞサンタや。お主はどうしてそう過激に走ろうとするんじゃ?
まあ、確かにわしの時代にはそういう術があったようじゃが、わしは魔法使いじゃ。呪術の改変は無理じゃな』
「呪術の改変は無理なんだ。残念」
私の話を聞いたコーシヒクさんも残念そうに肩を落とし、階段を下りて2階の廊下を進んでいく。
『じゃが、魔法陣を確認しようとしたら発動する魔法を仕掛けることは、可能かもしれん。まあ、中級魔法でも難しい部類じゃから、サンタにできるかどうか』
「えっ、魔法を仕掛けることはできるの? やる。難しい魔法でも絶対にやる!」
私はフンスと鼻息も荒く、必ず敵に攻撃をお見舞いすると拳を握った。
先に到着したのは、西端のアレス君のための部屋で、全員で怪しい物がないかどうかを確認する。もちろん最強守護霊3人も手伝ってくれる。
「サンタさん、ベッドの下に何か貼ってあるような気がします」
ベッドの下をしゃがんで見ていたホッパーさんが、私を手招きしながら言う。
大人では確認が難しいベッド下のスペースだけど、幼児の私なら問題ない。
可愛いワンピースが汚れても構わないので、私はスルスルと潜り込む。
「ああ、如何にもって感じの魔法陣だね。黒い紙に描いてある時点で不気味」
ベッドの床板から黒い紙を剝がしとった私は、その紙をテーブルの上に置いてサーク爺に確認してもらう。
「ふーん、ベッドに寝ると気力や魔力が失われていくんだ。へーっ」
サーク爺から聞いた説明を、私は声に出してコーシヒクさんに説明する。
「なんと、それではトーラス様のベッドにも! 許せません」
冷静沈着、できる家令の見本みたいなコーシヒクさんが怒りを爆発さる。
次は全員でバルコニーに出て、サーク爺の指示をコーシヒクさんに伝えながら壁から呪符を剝がして貰った。
その呪符には、庭の呪符と壁の呪符が連動し、3日間屋敷に滞在すると死ぬ呪いがかけられているとサーク爺から説明を聞き皆に伝えた。
「へーっ、たった3日の滞在で殺すつもりだったんだ。ふ~ん」
私もコーシヒクさんもホッパーさんも、怒り心頭で呪符を睨み付け、私は黒く微笑み絶対に3倍返ししてやると皆の前で誓った。
「いえいえサンタさん、それは私の仕事でございます。毒には毒で返さねば、ホロル様はお許しにはならないでしょう。
できればヒバド伯爵には全く同じ毒で毒返しをし、呪術師にも相応の痛みを与えねばなりません」
私より黒く微笑むコーシヒクさんが、これはアロー公爵家が売られた喧嘩ですからと、私にはヒバド伯爵の次男から毒を入手して欲しいと跪いて頼んできた。
「それがいいでしょう。幼女のサンタさんが手を汚す必要などありません」
サンタさんは本当に3倍返ししそうだから、アロー公爵家に任せた方がいいと、私を説得するようにホッパーさんが言う。
……確かにそうだけど、私の腹の虫が治まらないのよ!
結局次男トーラスの部屋のベッドにも同じ呪符が貼られていたけど、壁の呪符には3年後に死ぬ呪いがかけてあった。
呪符の説明を聞いたホロル様は、当然怒り心頭で底冷えする冷気を漂わせ、3倍返しでは甘いですよサンタさんって、真っ黒い笑みを私に向けた。こわ!
翌朝、私とホッパーさんはゲートルの町に帰る前に公爵屋敷に寄った。
徹夜で描いた、大魔法使いの反撃魔法陣を仕掛けるためにだ。
「たった今、大至急ゲートルの町に戻って欲しいと、大旦那様から早馬便が届きました」
馬車を降りたら、コーシヒクさんが飛んできてそう言った。
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