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59 調査の行方(3)

「えっ、アロー公爵が後見人?」


 いったい何の話だって顔をして、私を見ながら兄さまが言う。


「どういうことかしら? 説明してねサンタナリア」


 母様は睨むような厳しい視線を私に向け、黒く微笑んで問い質してきた。


 ……うん、やっぱりこうなるかぁ・・・


 そこで私は今回の遺跡調査について説明し、魔法使いという私の特異性と、守護霊様の知識で古代語や超古代語が読めると知ったアロー公爵が、他の調査団員から強引に取り込まれることがないよう、後見人になろうと提案してくれたのだと話した。


「サンタナリア、古代語まで読めるの?」


「そうだよ母様、サンタナリアは中級学校の勉強も殆ど終わらせてるんだ。僕より先に行ってる。一緒に勉強と魔法を学んでいるアンタレス君も、凄く優秀なんだよ」


 兄さまがにこにこしながら、私の近況を母様に暴露していく。


「それじゃあ本当に、アロー公爵は善意で貴女を守ろうとしてくださってるの?」


 家族にはアレス君とアロー公爵の関係は話せないから、どうして公爵様が私を守ってくれるのか分からないんだろう。

 子爵家の、しかもトレジャーハンターなんかしてる変わり者の幼女を、最高位貴族が保護・支援してくれるなんてこと、常識では有り得ないことらしいから。


「お爺様はご存じなの?」


「まだだよ。私、調査団の仕事が休みになって直ぐに王都に来たから。

 でも、ホッパーさんが知らせてくれたんじゃないかな?

 ほんとホッパーさんには、お世話になってる。明日購入予定の家も、ホッパー商会が世話をしてくれて、ちょっとお値引きもしてもらえる予定だよ」


 本当に家を買うために王都に来たと思っていない母様に、ちゃんと明日の予定も伝えておく。


「あのねサンタナリア、私やバルトラのために頑張ってくれてるって知ってるけど、王都の家って凄く高いの。

 ファイト子爵領やゲートルの町と違って、此処より少し広い中古アパートでも、最低白金貨5枚(500万エーン)はするのよ。知ってる?」


 ……あぁ、やっぱり母様は信じてなかったんだ。まあ、それが普通だよね。そんな可哀想な子を見るような視線で見なくても大丈夫なのに。


「そうだね。新築は無理だよね。だから中古の小さな家を頼んであるんだ。

 貯金は白金貨10枚くらいだから、中流地区の端っこになると思う」


「な、なんですって! 白金貨10枚?」


  ……あっ、母様が立ち上がってよろけてる。


「うん、私、準銀級ハンターになった。魔術具も何回か発見したし、大型の地底生物も何度か倒した。

 今、アロー公爵や学者の皆さんが調査してる場所は、私が所属してる【最速踏破者】が発見したイオナロードの終点にあるんだよ。

 2年間は、イオナロードで活動するハンターから徴収する通行料の、3%が私に入ってくるの。


 その他にも、違うパーティーが発見したり討伐したモノの、1割から5割がうちのパーティーに入ってくるんだ。イオナロードに限るけど。

 だから、白金貨20枚の家を買って、足りない10枚は2年間に入る権利収入で払えばいいらしい。

 トレジャーハンター協会本部が保証人になって、私の売り上げからホッパー商会に払ってくれる予定だよ」 


 怖いから現金は小銭くらいしか持つこともないし、ハンターとしての収入は全て貯金してあるよって笑顔で母様に言ったら、「そ、そうなのね」って、何とも言えない引き攣った表情で返事した。


「お爺様が、サンタナリアはわしより金持ちじゃって言ってたけど、冗談じゃなくて本当だったんだ。

 それじゃあ、明日は白金貨20枚の家を買うつもりなんだね。楽しみだなぁ」


 兄さまは今日一番の笑顔で、自分のデザートのリンゴをくれた。兄さまはいつだって素敵だ。




 翌朝、私たちはホッパー商会のドレン支店長の案内で、3軒の家を見て回った。

 きっちり白金貨20枚の家は、小さな家ではなくお屋敷だった。

 元伯爵の持ち物だったそうで、3階建で部屋数も多い。でも庭は狭く、北向きで日当たりはよくなかった。メイドさんが必要な屋敷だ。


 次の白金貨18枚の家は、日当たり抜群で家の前が庭になっており、大きさも下級貴族に相応しい感じで、築年数4年のまだ新しい家だった。


「少し高いのですが、しっかりとした造りで、中流地区の真ん中という立地条件です。欲しがる人は多いのですが、右隣が軍の指揮官様、左隣が警備隊の指揮官様のお屋敷で、お二方はとても仲が悪く・・・近所付き合いが難点です」


「ええ、貴族の面倒ごとに巻き込まれるのは嫌よね」


 ドレンさんの説明を聞いた母様が、折角いい家だったのに残念だわって却下した。兄さまも、中流地区の真ん中は分不相応だと尻込みする。



 最後に案内された家は、本当に中流地区の東の端っこで、平民地区と中流地区を隔てている高さ5メートルの壁際に立っていた。

 壁の向こう側は、なんと魔術師学校だ。

 この家は白金貨16枚とお手頃だ。土地はやや狭いから3階建で、道路側に作り込まれた庭があり、裏の壁際には洗濯ものを干せるくらいの裏庭もあった。


「少し古いですが、ここは王立能力学園の教授夫妻が住んでいた家で、退職後に転居するため売りに出されました。

 お手頃価格なのですが、裏の魔術師学校の学生の元気な声とか、魔術練習の際の音ですとか・・・まあ学校は週に3日だけなのですが少々騒がしいようです」


 ドレンさんが説明している間にも「やったぞー」とか「当たったぞー」って少年の元気な声が聞こえていた。


「母様、此処にしましょう。私、7歳になったら魔術師学校に通うし、魔法で壁を越えられるので、寝坊しても大丈夫です」


 エアーアタックを使って壁を越えれば、直ぐに学校って最高じゃない?ってテンションが上がる。


「そうだねサンタナリア、どうせ母様はお城だし、僕も学校に行ってるから煩くても問題ないよ。母様の好きな花壇もあるしね」


 直ぐ近くに乗合馬車の停留所があるから、王城に行くのも便利そうですよ母様って、兄さまもこの家を気に入ったみたいだ。


「そうね、家の中も綺麗だったわ。此処にしましょう」


 母様も賛成したので、私の借金は白金貨6枚になった。


 ……よし、念願の家も買ったし、午後はアロー公爵屋敷に潜入するわよ。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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