58 調査の行方(2)
やって来ました王都!
おーっ、キラキラの馬車がいっぱい。お店もいっぱい。これぞ大都会だよ。
最初の目的地であるホッパー商会王都支店は、長男のドレンさん23歳が任されていて、私が倒した大トカゲが鞄や靴に加工され売られている。
ホッパー商会の本店はゲートルの町の方だけど、店の大きさは王都支店の方が大きく、ゴージャスな感じの商品がたくさん並んでいる。
お店で働く人の服装も洗練されているし、お客さんも高級ドレスのご婦人や、ステッキを持った紳士が多い。
ゲートルの町だと、トレジャーハンターが薄汚れた服で来店しても問題ないけど、王都店だと完全にアウトって感じだ。
……よかった。お爺様が買ってくれたフリフリのワンピースを着てきて。
こんな服いつ着るの?って思ってたけど、お爺様ありがとう。大好き。
ハンター服みたいな格好の子供なんて、中流階級の人が多いこの通りには居ない。子供だって綺麗な服を着てるし、制服姿の者も多い。
王都に入って直ぐの平民街ならハンター服でも浮かないけど、円形の城郭都市の中心にある王城に近くなる程、身形もきちんとしていないとダメらしい。
「中流地区の先には内城壁があり、その先は上流地区になっています。
内城壁を通過するには、門兵と言われる警備兵に必ず身分確認されます。
男爵以上の身分でなければ、お城で働く者も、上流地区で働く者も、商売のために通過する者も、専用の身分証や許可証が必要になります。
持っていない者は、目的や行き先等を詳しく調べられます」
そう言いながら、ホッパーさんが銀縁の身分証を見せてくれた。
母様はお城で働いているから、きっと専用身分証を持っているんだろうな。
因みに、王立能力学園や王立高学園、王立中級学校は中流地区に在る。
魔術師学校は平民地区の東側に在るらしい。東側には、軍や警備隊の演習場や、役場などの公共施設が多く治安はいいらしい。
シンシア伯母さんの夫アイガー伯父さんは上流地区に、明るく気さくなカーレイル叔父さんは平民地区に住んでいる。
クソババアに私の行動や近況は知られたくないので、今回はアイガー伯父さんと会わない予定だ。
そうそう、母様の弟カーレイル叔父さんちには、ヒアルくん4歳とエリザちゃん2歳という従弟妹がいるんだけど、なんとヒアルくん、3歳の職業選別で高位職の【学者・経済】を授かったんだよね。
お爺様は、ファイト子爵家から高位職が出たーって、大喜びしたらしい。
クソババアは、息子アルシス7歳が、中位職の【技術・建築】を授かっていたから、当然アルシスがファイト子爵家を継ぐものと思っていた。
でも、お爺様は職業ランクに関わらず、王立能力学園か王立高学園に入学し、優秀な成績で卒業した孫の中で、一番ファイト子爵家の利となる孫を後継者にするって、3人の子供と孫に宣言していた。
まさか他の孫が高位職を授かるなんて、クソババアは想像もしていなかったから、暫く荒れ狂っていたとお爺様が言ってた。
でも、次期当主は夫であるカーレイルと決まっているから、次期当主の息子が継ぐのが当たり前だと主張しているらしい。
【学者・経済】なら王都の学園か城で働くしかない。だからファイト子爵領を治めるのは難しいので、後継者として相応しくないとクソババアは言い張っているらしい。
まあ、高位職のヒアルくんなら叙爵されるのは間違いないし、私だってそのつもりだから、ファイト子爵家を継ごうなんて思ってないよ。
……でも、あのクソババアが、ヒアルくんを殺そうとしないか心配だ。
王都で家を買うという私の夢を叶えるため、ホッパー商会王都支店を任されているドレンさんが、既に幾つか候補を絞ってくれている。
王都支店は不動産部門もやっていたので、全てお任せなのが申し訳ないけど、ホッパーさん曰く、不動産取引の実績を作っておく必要があるから、商会としても助かったんですよと言ってくれた。
……いや本当にお世話になりっぱなし。ありがとうございます。
夕方、仕事を終えた母様が兄さまを伴ってホッパー商会にやって来た。
今夜は家族水入らずで過ごして、明日の午前に家を見に行く予定である。
「まあ、サンタナリア、本当に髪を切っちゃったのね」
母様はバッサリ切った髪を見て、ハハハと諦めた表情で言う。
貴族家の女の子は長い髪が当たり前だから、きっと私はドレスを着ても平民にしか思われないだろう。
調査団の人は、私が子爵の孫ってことを知らない。
高位貴族だらけの調査団にとって、下位貴族には権力を振るいやすいから、私は意図して平民を装っている。
何処の世界に、トレジャーハンターをしている貴族令嬢が居るんですか? ってチーフが心配するから、本名なんて名乗ってない。
「サンタナリアは短い髪型もかわいいよ。それより、ぼんやりっ子がすっかり凛々しくなって、兄さまはびっくりだよ」
変わらない笑顔で、兄さまは私の頭を撫でてくれる。えへへ。
兄さまとはホッパー商会を通して手紙のやり取りをしていて、月に1度は必ず互いの近況報告をしてきた。
貯金額だけは秘密にしていたので、本当に家を買えるとは思ってないだろうな。
母様と兄さまが現在住んでいるのは、王城で働く者専用の賃貸アパートで、平民地区の東側の治安のよい場所に在った。
単身・新婚用のアパートだから、部屋は1部屋とリビング、そしてキッチンなので家族向きじゃない。5階建ての3階で、家賃は当然王都価格で高い。
「サンタナリア、随分と活躍してるってお爺様から聞いてるよ。もう中位・魔術師レベルになっているって本当?」
久し振りに母様が作った晩御飯を食べながら、兄さまが笑顔で質問する。
「うん、トレジャーハンター協会から中位・魔術師認定は受けてるよ。
でも、私は魔術師じゃなくて魔法使いだから、魔術師学校に行って中位・魔術師の資格を取れってお爺様に命令されてる」
「それじゃあ、王立能力学園の魔術師学部には、中位・魔術師資格を取ってから入学するんだね」
「ううん、魔術師学部に入学する気はないよ。あ~っ、でも魔術師協会トップのアロー公爵が後見人だから・・・どうだろう?」
私は首を捻りながら、う~んと考える。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。