53 秘密の扉(2)
アロー公爵の提案を聞いた皆は、「そうしましょう!」と全会一致で賛同した。
工学系研究者は皆で小躍りし、他の学者の皆さんも、魔力の可能性については決して他人ごとではないと喜んでいる。
この仮説が現実のものとなれば、多分野で使用される高価で貴重な魔核が再利用できるのだ。
「もちろん報告書の調査団の中には、扉を発見した【最速踏破者】を含めたこの場に居る全員の名を連ねると約束しましょう。
サンタさんが発見した功績を、勝手に奪うようなことはできません。
扉を開ける方法を模索している時に、皆で発見したと報告し、魔力操作と使用済み魔核への魔力充填についてのみ、先に世に出すということでどうでしょう?」
今度は副団長のボルロさんが、トレジャーハンター協会の幹部として、全員が協力して様々な検証や実験をした結果、世紀の大発見をしたのだと世間に公表することにしようと提案した。
「もちろん賛成です副団長。これはサンタさんの大発見ですが、我々も検証に協力した。だから全員が研究した成果として世に出せば、サンタさんは安全でしょう」
王立能力学園魔術部エバル教授も、それならこの胸躍る大発見を実用化できますと、瞳を輝かして賛成する。
その上で、魔術師の魔力量が増えれば、能力向上の可能性もあると、勝手に夢を膨らましている。
「最高です。実はガリア教会大学は、資金的に魔核の購入が難しく、我々研究者は何度も涙をのんできました。
気象観測に用いる魔術具と分かっていても、使用できないモノがたくさんあるのです。
ああ神よ、ありがとうございます。ありがとうございますサンタさん」
なんだか大袈裟に喜んでいるのは、あの気難しいアメフラ教授だ。
追加情報として、教会大学は使用済みの魔核を捨てずに保管してあると、とても有益な情報を出してくれた。
その情報には、王立能力学園の全教授が大喜びし、魔核の市場価格の1割で買い取らせて欲しいと、ちゃっかり商談をまとめていた。
「ゴミとして保管してあったものですから、市場価格の1割でも教会大学にとって大きな利益となります。
そう考えると、ゴミ扱いだった使用済み魔核が、商品として販売できる。
ああ、これは貧乏なガリア教会にとっても朗報です。
使用済み魔核を教会が回収し、エイバル王国と王立能力学園に充填料金を払い、性能に会わせた価格で販売する道が開けます」
教会大学天文学者のシンセイ教授が、ガリア教会の貧乏を強調しながら、もしも可能ならの話ですよと言いながらも、この場で話を進めようとしている。
その話を聞いた我が国のメンバーも、それなら互いにメリットのある話だと乗り気になっている。
……エイバル王国の国教はガリア教だから、教会に貢献するのはアリだろうな。
「あっ!」とアメフラ教授は何かを思い出したようで、私の前に来てカバンの中から可愛いお菓子箱を取り出し、何故か跪いて「どうぞ」と私に差し出した。
『ああ、またサンタさんファンが増えたわね』
『せやな、これで暫くおやつは事欠かんやろな』
『熱心な研究者だからこそ、サンタがもたらした価値が分かるんじゃろうて。
近いうちに教会大学に招待されるのは、まあ間違いないのう』
『ちょっとみんな、まだ本当に魔核に充填できるかどうか確定してないんだよ。
それに、充填した魔核の寿命だって・・・はっ!』
私はお菓子を受け取って、いつものように3人の守護霊と念話する。
そして重要な検証が済んでいないことに気付いた。
「それじゃあ私は、魔術師協会のニンターイ課長と、充填した魔核の使用可能時間とか、魔核の大きさによる充填時間の違いとかを研究する。
王立能力学園魔術師学部のエバル教授とは、魔核に注入する魔力量が、本当に色で判別できるのかを研究するよ。
この2つの検証が終わらないと、正式な論文として発表できないでしょう?」
私は2人に視線を向け、自分はただのアドバイザーとしての参加だけどと念を押し、一緒に検証しようねと黒く微笑む。
逃がさないよ。
全員の成果として上奏するんだから、当然やってくれるよね?
まあ、遺跡調査期間中だけじゃあデータ量が足らないから、永続的に研究する責任者は必要でしょう?
魔術師協会の研究専門女性課長と、王立能力学園魔術師学部の教授を巻き込んでおけば、将来私が魔術師学校と王立能力学園に入学した時に、何かと便宜を図ってくれるに違いない。フッフッフ。
……わたし、タダ働きはしないので!
「いやいやいや、サンタさん、論文とか検証なんて、5歳児は絶対に言いませんよ? いくら天才でも・・・そろそろ本当の年齢を言ってくださいよ。
本当は35歳? いや、本当は上位職業の賢人でしょう?
うちの学生より博学なんて・・・あぁ、もう入学とか勉強は必要ないので、直ぐに講師として学園に来て、私と魔力量の研究をしましょう」
またまたエバル教授50歳が、年齢詐称してるみたいなことを言いながら、学園に来いと誘ってくる。
「エバル教授、先程私が言ったでしょう? 天才は恐ろしいと。ようやく怖さが分かったようですね。サンタさん、私も今更学生は必要ないと思いますよ」
いやいや、そこで工学者のツクルデ教授まで何で参戦してくるかなぁ・・・
「新しい発見に興奮する気持ちは私にも分かるが、落ち着いてくれ。目的の扉は、ほらもう目の前だぞ」
やれやれって首を振りながら、アロー公爵が眼前に迫った巨大扉を指す。
扉を初めて見る学者たちが、いや、見たことがある皆さんも含め、目の色を変えて急ぎ足で扉に突進していく。
……そういえば、この前は帰るって何度も言ったのに、なかなか帰ろうとしなかったわ。また、あの状況になるのね。とほほ。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。