52 秘密の扉(1)
「凄い発見? そんな大袈裟におだてても、これ以上何も出ませんけど?」
王立能力学園エバル教授のよいしょに、そんな大袈裟なって感じで返したら、顔を顰めて「本気なんだが」って真顔で叱られた。
「そもそも魔術師以外の他の職業の者は、絶対に魔術師になれないのが常識だ。
魔術師以外にも魔力があるなんて信じられないことであり、常識を覆すだけでは済まない発見なんだ。
しかも、魔核に魔力を流し込めば魔力の有無が分かるなんて・・・」
そう言うアロー公爵の困惑した表情を見ると、私は本当に常識破りのことを考えていたようだ。
「ほえ~っ、そうなんだ」
「しかもだ、透明の魔核に魔力を流し込むと色が変わるって何だ? そんな話、聞いたことも見たこともないんだが」
今度は魔術具が専門で、しょっちゅう魔核を使っている工学者のツクルデ教授が、透明になった魔核に魔力を充填できるなんて話、聞いたこともないぞと頭を抱える。
かなり混乱させてしまったみたい。
「う~ん、あの超古代の扉を開けるには、透明の魔核に魔力を流し込む必要があるんだけど、流し込んだ人によって魔核の色が違うんだ。
推測だけど、その色の違いで個人の持つ魔力量が測れるんじゃないかなって思ったんだ」
「はあ? この天才はまた何を言い出すんだか・・・あぁ、私の常識が・・・」
なんで頭を抱えるかなぁ・・・副団長のボルロさん。
前に扉を開けた時に一緒に居て、その現象を見てたじゃん。
……まさか、そう思ったのは私だけ?
あの時一緒にトライしてたファーズさんに、何でよ~って視線を向けたら首を横に振られてしまった。
……あれ? アレス君は分かってた気がするけど・・・
「そんなこと言ったって、幼児なんだから知らないことはたくさんあって当然だろう?
そもそも職業選別で魔術師を授かっていないのに、魔法や魔術が使える自分は普通じゃないのかもって、やっと気付いたくらいなんだよ」
「「「 はあ? 魔術師じゃない? 」」」
ほぼ全員から突っ込みを入れられ、仕方なく自分の職業を【過去・輪廻】だと明かしたけど、守護霊のことや自分の能力については詳しく話さなかった。
昼食後、皆が超古代紀の扉の魔核を確認したいとごねたので、全員で行くことになった。
先日は代表者しか扉を見てないから、残りのメンバーも確認するのは当然のことだし、邪魔な王宮魔術師団の2人が居なくなったので問題ない。
まあ護衛が少ないので、誰も残せなかったという理由もある。
「おっと、広域ランプの魔核が切れたな。透明になってる。取り替えよう」
扉に向かう途中リーダーが持っていたランプの魔核が、ナイスなタイミングで使えなくなった。
よし、折角だから全員で魔力注入を試してみよう。
先ずは魔術師ではないメンバーから順に、透明になった魔核に魔力を流し込んでみる。
結果として、練習で掌まで熱を感じることができた鑑定士のメーナイ教授と、天文学者のシンセイ教授、工学者のミルベ教授の3人だけが、魔核の色を変化させることができた。
試しに自分もと言ってファーズさんが試したら、小さな魔核は綺麗なオレンジ色に染まった。
恐る恐るリーダーが、オレンジ色になった魔核をランプにセットしてみる。
すると、見事に明りが灯った。
それを見た学者の半数が、「ギャーッ!」と雄たけびを上げて崩れ落ちた。
まさか透明になった魔核が再利用できるなんて知らなかったから、高価な魔核を使用済みゴミとして全て廃棄していたらしい。
……なんて勿体ない。
大発見を越えて完全に歴史を覆したと、鑑定士のメーナイ教授48歳が、灯した広域ランプを手に持って、直ぐに学会で発表すべきだと力説する。
「いや、だからサンタさん関連のことは、サンタさんが魔術師学校で中位・魔術師認定されるまでは、全て極秘だって念を押しましたよね?」
アロー公爵は大興奮している皆に向かって、冷ややかな声で釘を刺し直す。
「しかしアロー公爵様、このような有益な情報を秘匿するのは、国家的な損失じゃないですか。
工学者の立場で言わせていただくと、魔術具の研究現場は必要な魔核が常に不足しているため、思うように研究が進められないんです。
魔力を魔核に充填できるなら、予算だって大幅に削減できます」
興奮しながらアロー公爵に反論するのは、工学者のツクルデ教授である。
うちのお爺様も、魔核が高額で試したいことができないと言っていた気がする。
……う~ん、どうすべきか・・・
「でも、透明になった魔核には、いったい誰が魔力を充填するのですか?
王宮魔術師団の人間なんて、誇り高き我が王宮魔術師団は、王族を守るのが仕事。そのような下賤な仕事などできない!・・・とか言いそうですよ?
魔術師の皆さんなら、無償でやってくれると思いますか?」
ラースクの口真似に皆は噴き出したが、誰が充填するのかを考えると、良い案が浮かばず溜息を吐く。
「まあ、学園の魔術師学部の学生なら、魔力操作訓練の一環として充填させるのはアリです。たぶん、魔力量も色で測れますから。
この際だから魔術師協会の皆さんも、魔法を覚えるための訓練として取り組まれてはどうですか?」
私は思いついたことを、簡単に口に出し提案してみる。
「完敗だよサンタさん。君、本当は25歳くらいだろう?」
魔術師学部のエバル教授が、まるで化け物を見るような視線を向けて問う。
「天才・・・天才というのは恐ろしい存在なのだと、私は今、身を以て体験した気がします。
実現不可能と思われる夢を、解決策と共にさらりと言うのですから」
工学者のツクルデ教授も、異質なものを見るような視線を私に向ける。
「確かにサンタさんの提案が実現できれば、国庫の負担は減り、戦争に備える資金を生みだし、使えなかった魔術具が起動できるということだ。
また、小さなクズ魔核なら、魔術師以外でも充填可能かもしれない。
う~ん、調査団が試行錯誤した結果、発見した素晴らしい成果として上奏すれば、サンタさんを守れるかもしれない。どうだろう?」
渋い顔で思案していたアロー公爵は、私を守るため調査団の成果として世に出すのはどうかと提案し、皆に賛同を求めた。
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