51 遺跡調査(10)
夕方まで簡易宿泊施設の設置をして、早目の夕食の後は、魔術師チームの皆さんに魔力操作を教えることにした。
扉を開けるためには絶対に必要だし、魔力量が少ないと二番目の扉の開閉ができない可能性がある。最低でも2人はアレス君並の魔力量になって欲しい。
直ぐにでも扉の調査を始めようとしていた皆さんは、魔力操作ができないと中に入ることもできないと知り、特に学者の皆さんが大暴れし始めた。
「いやいや、始めから言ってたじゃないですか。あの超古代紀の扉は、魔術師じゃないと中に入れないと」
いい年をした学者の皆さんに向かって、魔術師のファーズさんが呆れながら言う。
「だからって、天文や気象が専門の私たちが入れないんじゃ、ここに来た意味がないじゃないですか!」
「そうですよ。超古代の技術を、あの大きさの魔核を使った扉の開閉技術を、この目で見るまでは帰れません」
気象学者のアメフラ教授と工学者のツクルデ教授が、涙を流さんばかりに訴える。
「ねえねえ、魔力って、魔術師以外の人は持ってないの? 魔術なんか使えなくても、魔力さえあれば入れる可能性があるよ?」
私の発言を耳で拾った数人が、凄い勢いで私の所にやって来て、祈るように両手を組んで・・・いや本当に祈ってるけど、縋るような瞳で私を見る。
「いや、その発想は無かったな。
職業選別で授かる職業の中でも、魔術師は特別視されているから、選ばれた者だけが使えるというのが常識で、そもそも魔力って概念がない」
王立能力学園魔術師学部の代表でもあるエバル教授が、腕を組んで「うーん」と唸りながら首を捻る。
「そうだな。そもそもサンタさんの使っている魔法と、我々が使っている魔術の違いが分からん」
団長であり魔術師協会のトップであるアロー公爵が、己の立場もあるだろうに分からないと認め、真摯に発言をする。
「ああ、私もサンタさんから初めて魔法を習った時は、目から鱗が落ちました。
ここに居る魔術師の皆さんが魔法を習得したら、それはもう世界が、魔術師学会がひっくり返るでしょうね」
魔法も魔術も使えるようになった魔術師のファーズさんが、懐かしそうに目を細めて自分の体験と未来を語る。
「世界がひっくり返るだと?」と、魔術師協会部長が怪訝そうな表情で問う。
「はい、そうですミエハール部長。どういうことなのか、私が魔術と魔法の違いをお見せしましょう。
ですが、この場に居る皆さんは、魔法について一切口外しないと約束してください。
サンタさんが魔術師学校に入学し、中位・魔術師の試験に合格する7歳まで、魔法を使うことを禁止します。その条件をのめる方にのみ、魔法を教えます」
それからファーズさんは、日も暮れた神殿跡の広場にお爺様が作った広域ランプを灯して、初歩の初歩である小石を膝の高さまで上げる動作を、定型文の詠唱を使った魔術と、ただ命じるだけの魔法を実演してみせた。
「はあ?」と、魔術師チームの4人全員が、訳が分からないと言って瞠目する。
「今のを応用すると、こんな感じのこともできるよ」
そう言って私は、膝まで上げた小石を頭上まで上げ、クルクルと何度か円を描くように飛ばして見せた。
今度は他の学者の皆さんも驚き、「無詠唱?」っと言って固まった。
「実際には頭の中で、石に頭上でクルクル回れと命じていますよ。
初めて練習する時は、自分で分かり易いように、膝まで上がって止まれ。そして頭上に上がって止まれ。それからクルクルと直系1メートルの幅で横回転しろって感じで言いながら挑戦すれば、明日1日あればできるんじゃないかな」
呆然としている魔術師チームの皆さんに、私は魔力操作の練習になるから頑張ってねと、笑顔で指示を出した。
いやもう魔術師チームの皆さんの食いつきが凄くて、明日って言ったのに、ファーズさんに指導を受けながら直ぐに練習を始めようとする。
でも、何故か全然上手くいかなくて、石が遠くに飛んでいったり、膝まで浮かせられない者もいた。
「皆さん、体験して分かったと思いますが、高位・魔術師であっても、魔力操作ができなければ、魔法の初級さえ使えませんよ。
折角ですから、この場に居る全員で、魔力操作に挑戦しませんか?
もしかしたら、魔術師じゃなくても魔力を持っているかもしれませんから」
今度は悪魔のような微笑みで、魔術師じゃない学者の皆さんを誘惑・・・じゃなくてお誘いする。
……いやだって、現時点で魔術師以外の人に、魔力があるかどうか不明なんだから、あったらラッキーじゃない?
寝る少し前まで、全員で体の中の魔力を巡らせ、掌に集める練習をした。
夜はすることがなくて暇だったからいいんだけど、誰かお茶とお菓子くらいサービスしてよ。
私がウトウトし始めた頃には、魔術師チームは魔力操作とは何かを理解できたようだけど、他の皆さんは、何となく魔力?って感覚を発見したらしい。
翌朝、私はサーク爺に魔術師以外の人に、どうやって魔力操作を教えたらいいか教わった。
『まあ、イメージが大事じゃから、魔力を熱みたいなものだと考えるように指導してみるといいじゃろう。
一番重要なのは、自分の体の中に魔力があると思い込むことじゃ』
『なるほど、思い込みが大事ってことね』
朝食後直ぐに、魔術師チームはファーズさんから初級魔法の講習を受け、私は他の皆さんに魔力操作の続きをやってもらう。
皆さん、さすが教授や高位職業だけあって意識の集中は完璧で、10時のおやつタイムには掌に魔力の熱を感じられるようになっていた。
「ねえねえボルロさん。鑑定士だったら魔核を持ってる? できたら透明の魔核がいいんだけど」
「透明の魔核? 何に使うんだサンタさん」
「う~ん、もしかしたら魔術は使えなくても、透明の魔核に魔力を注ぎ込むことができるんじゃないかと思って。
もしも色が付けば、その人は魔力があるって証明できるんじゃないかなぁ?」
なんて会話をしていたら、全員が目を見開き、会話に食いついてきた。
「それが本当に可能なら、凄い発見だぞサンタさん」
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