表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/147

50 遺跡調査(9)

 王宮魔術師団のラースクは、私の生意気な発言に対し意外にもフンと鼻で笑って、余裕ともとれる表情で私に言った。


「私は優秀な魔術師であり、誇り高き王宮魔術師団の人間だ。地底生物の討伐など、無能なトレジャーハンターがやればいいんだ。

 もちろん調査団の人間が危険になれば、責務を果たし危険を回避する。

 フン、お前たちと違って、剣や弓などで攻撃する必要はない」


 わざわざ私の前に来て、調査団の皆に聞こえるよう、それはそれは偉そうにトレジャーハンターをバカにして私を見下した。


「フッ、これだから素人は」


 そう言って口を挟んだのは、ハンター協会の幹部であり調査団の副団長であるボルロさんだ。瞳は蔑みと怒りの色に染まっている。


「本当に笑っちゃうよね。この大蛇を剣や弓で倒したと思ってるなんて」


 このケンカに負ける気なんかない私も、完全にバカにした口調で言い返す。


「口の利き方も知らないガキ風情が生意気に。

 あぁ、そう言えばキミは準銀級で魔術も使えるんだっけ? トレジャーハンター協会は、魔術師をバカにして・・・」


「いい加減にしないか! 幼児相手に見苦しい!」


 王宮魔術師団ラースクの発言を途中で遮り、団長であるアロー公爵が見苦しいと叱咤する。

 事の成り行きを傍観していた調査団の皆さんは、ラースクに怒りの視線を向けウンウンと頷いてアロー公爵に同意する。


「この天才幼児は、いったい何者なんだねボルロくん。

 どうしてトレジャーハンターなんだ?

 もう古代文字講師じゃなく魔術師でもいいから、直ぐ学園に引き抜きたいんだが」


 大蛇を倒したのが私であると確信した工学者ツクルデ教授61歳が、驚いた顔をしたかと思ったら、今度は欲しい魔術具に出会った時のお爺様みたいな瞳で私を見て、ボルロさんに質問する。


「な、では、あの大蛇を一刀両断したのは・・・まさか、本当にこの幼児なのか? はあ? では、中位・魔術師認定というのは本当なのか?

 いや、でも、あの大蛇を幼児が、こんな小さな子がたった一人で?」


 落とされた大蛇の首を恐る恐る見ていた王立能力学園エバル教授が、信じられない、そんなはずはないと言いながら、化け物を見るような視線を私に向ける。


「そんなバカな。あり得ませんよエバル教授」と、何故かラースクが否定する。

 

 ……ほぼ全員に睨み付けられてるのに、このラースクって男、空気が読めないって意味では凄い才能・・・いや鋼の心臓かも。



「あれ? もう1人の王宮魔術師団のロールテンさんは?」


 ラースクなんて完全無視して、私はうちのリーダーに問う。


「ああ、大蛇が出る10分くらい前に、見回りに行くと言って西側のロード入り口の方へ行ったぞ。

 ん? そう言えばこの大蛇、西の方から来なかったか? もしかして・・・」


 リーダーは念のため安否確認した方がいいぞと、ラースクに冷たく言った。

 もちろん同行するはずもないから、直ぐに視線を逸らして、切り分けた大蛇をリヤカーに積んでいく。

 うちのメンバーも【ロードの申し子】たちも、決して視線を合わせようとしない。


「まあ大蛇は、番で行動することはないでしょう・・・たぶん」


 怒り心頭って顔をしていたサブチーフが、恐怖感を煽るように追加情報を出す。


 若干顔色の悪くなったラースクは、誰にも同行や助けを求めることもできず、顔を歪ませながら西側に向かって去っていった。




「皆さん、私は注意しましたよね? サンタさんの才能は極秘だって。

 秘密が漏れたら調査団から外し、王様に報告すると。

 何者かなんて、もう分かったでしょう? この子は古代語に精通し、高位・魔術並みの、いや、未知の魔法を使う天才児ですよ。

 そして、私、アロー公爵が後見人になっている5歳児です」


 なんてことをアロー公爵が調査団の皆に話していることなんか知らない私は、大蛇の尻尾を観察しながら「食べられたらいいなぁ、美味しいかなぁ」ってにこにこしながら上機嫌だった。


 本当ならうちのメンバーは全員、【聖なる地】に泊る予定だったけど、毒にやられ苦しそうなポーターさんを病院に運ぶため、槍のサバンヤさんがリヤカーに載せて帰ることになった。

 そして【ロードの申し子】とサブチーフも、ケガ人の護衛と大蛇を協会に運ぶため帰ることになった。


 帰り支度を終え出発しようとしていたら、王宮魔術師団のラースクが、大蛇の尻尾に弾き飛ばされて右腕を骨折し、額や太腿から血を流しているロールテンの、左腕を抱えるようにして帰ってきた。

 1人で歩けそうにないロールテンは、治療のためサブチーフたちと一緒に帰ることになった。


「おいハンター、何をしている、ロールテンを乗せたリヤカーを牽いて、ポーターと一緒に病院へ連れて行け!」


 自分たちが借りていたリヤカーに、嫌々ロールテンを乗せたラースクが、何を勘違いしたのか偉そうに命令した。

 ここに来る時は、部下のロールテンが荷を積んだリヤカーを牽いていたのに。


 ……魔術師の貴族ってホント最低! 子爵だからって何様?


「お断りします。それはハンターの仕事ではありません。貴方は調査団員ではないので、我々の護衛対象でもないし、手伝う義務もありません」


 ハンターを見下し命令する男に、サブチーフはきっぱりと拒絶する。


「君が残っても護衛の役に立つとも思えない。遠慮せず大事な部下のために帰りなさい。明日も明後日も休んで構わない」


 団長であるアロー公爵が、部下を人任せにして残ろうとするラースクに、お前など必要ないから帰れと指示を出した。

 ギリギリと音が聞こえるんじゃないかと思う程に、悔しそうに歯ぎしりするラースクは、誰も自分の味方が居ないと知り、慌てて自分の荷物を取りに行く。

 憎しみの視線をサブチーフに向けながら、結局リヤカーを牽いて帰っていった。


「あーっ、おやつの時間が過ぎてる!」


 という私の叫びを聞き、全員で休憩することになった。

 待ちに待ったおやつタイム、魔術師のエバル教授やミエハール魔術師協会部長から、魔法とは何だ、どうやって大蛇を倒したのかと質問攻めにされた。 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ