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49 遺跡調査(8)

 護衛として参加していたはずのラースクは、ハアハアと肩で息をしながら早く来てくれとアロー公爵に頼む。


「大蛇くらい、護衛として参加している君が倒せばいいじゃないか。まさか、護衛とは名ばかりか? キミは中位の上の魔術師だと聞いているぞ」


 アロー公爵はラースクに冷めた視線を向け、自分で討伐しろと言う。


「い、いえ、わ、私が倒しても良かったのですが、ハンターどもがそのガキを呼べと言ったんです」


 目をキョロキョロと泳がせながら、ラースクは言い訳する。


 ……ハンター()()? ()()()()


「サブチーフ、大蛇って美味しい?」


「はあ? ああ、種類によるが美味しいと言われているヤツもいる。でも、大半は不味くて食えないなサンタさん。でもまあ、大蛇の皮はそこそこの値がつくぞ」


「そうなんだ。仕方ない。あの護衛()()倒せないみたいだから、僕が倒すよ」


 私はそう言って、護衛の役目を果たしていないラースクの仕掛けた喧嘩を買う。

 当然ラースクは鬼の形相で私を睨むけど、私はフンと鼻で笑ってやる。

 その場に居た魔術師の皆さんは、マジかよって顔で私を心配そうに見る。

 本当にポーターさんが襲われてて、ハンターが戦っても厳しい状態なら、私が戦うのは当然のことだから、躊躇せずシリスと一緒に走り出す。


 私は最近、ダッシュで走る時に風魔法を上手く利用することに成功している。

 サーク爺は、そんなことを考えるのは幼児くらいだろうと呆れていた。

 でも、魔力量の加減を間違えると、顔から地面にダイブするから要注意だ。

 後ろから「待てーサンタさん」って叫びながら、サブチーフが追い掛けてくる。




 防護魔法(結界魔法)は、ほぼ正方形の【聖なる地】の全体を、透明に近い超巨大な四角錐で覆っていて、一辺の距離は1.5キロくらいある。

 中心にそびえる巨大な三角の遺跡は、他の遺跡群より高い場所に在り、少し下がった東側には、巨大な柱の神殿と凛と立つイオナの巨木がある。


 そのまた少し下がった所には、神官や学者が暮らしたであろう住居跡がある。

 南側には、部屋数が3つ以上ある住居が5戸くらいあるけど損傷が激しい。

 北側には、2部屋+キッチンの住居が10戸並んだ長屋が2棟あり、今回はそこを簡易宿泊施設として使っている。


【聖なる地】は、昔は山の頂に近い場所にあったんだよね。

 三角の……いや、学者先生がピラミッド遺跡と呼んでたけど、とにかくそこを頂点とし、なだらかな下り坂になっている。



 大蛇が出た北側住居まで、約1.5キロの距離を誰よりも早く駆けていく。

 風魔法で走ると1歩の距離が普通の3倍くらいになるから、まるで大股でぴょーんぴょーんって飛んでるみたいに見えると思う。


 よく考えたら超古代は山の頂だったのに、今では地下と言ってもいい高さになっている。

 だったら、あの天文や気象を観測していたピラミッド遺跡も、今ではその役目を十分に果たせるかどうか疑問になる。

 夜空の見える範囲は限られるし、日照時間だって地上よりも明らかに短いよねってなことを思いながら走る。


  

 なんとか転ばずに現場に到着すると、ポーターの1人が血を流して大蛇の側に倒れており、うちのメンバーが助けようと攻撃を仕掛けていた。


『大きい。全長は10メートルを越えてるし、胴回りも1メートルを超えてる』


『サンタや、あれは毒持ちじゃ、腹が赤い。遠距離攻撃で倒さねばならぬぞ』


 サーク爺がそう言うので、大蛇の様子を見ていると、口から黒い液体を吐いてリーダーたちに飛ばしていた。

 私は大蛇と戦ったことはなかったけど、リーダーが「毒に当たるな!」って叫んでるから、皆は毒蛇だって知ってたみたい。


「リーダー、食べれるなら、いや、美味しいなら4分の1の尻尾側ちょうだい」


「待ってたぞサンタさん。それでいい、頼む。ポーターはサバンヤの従弟だ!」


 倒れてるポーターさんは、うちのメンバー槍のサバンヤさんの従弟だってリーダーが焦った声で叫び、サバンヤさんも頼むって私に向かって手を合わせる。

 私は分かったって右親指を上に向け、得意の風魔法で攻撃を仕掛ける。


「行けー! 風の刃」


 私は大声で言いながら、右手を大きく後ろに下げてブーメランを投げるような感じで、首をもたげている大蛇目掛けて風の刃を放つ。

 風の刃はザシュと音をたて、大蛇のもたげた首辺りを切り裂いていく。

 私の戦いを固唾を呑んで見守っていた調査団や【ロードの申し子】のメンバーは、何も変化のない大蛇を見て首を捻る。


 手応えはあったんだけどなと私も首を捻っていると、大蛇の尻尾がくねくねと動き、ドーンと音をたて首から上が地面に落下した。

 仲間は「やったー」と歓喜の声を上げ、調査団の皆さんは声も出さず呆然と私と大蛇を見ている。



「な、なんだ、こ、これ、どうやって倒したんだ?」


 やっと走って追いついてきた魔術師のエバル教授が、地面に落ちた大蛇の首と未だに動いている尻尾を見てうちのリーダーに訊く。

 他の魔術師の皆さんも恐る恐る近付いて、スパンと切れて恨めしそうな目を見開き地面に転がる頭を見て首を捻る。


「う~ん、これが魔術師なら3人くらいで大蛇を囲み、各自が攻撃特化の魔法陣を発動して倒すところだ」


「そうですねアロー公爵様。魔法と魔術では圧倒的に魔法の方が攻撃に適していると思います。

 魔術は必ず決まった詠唱が必要で、新しい魔術を生み出すのは難しいですが、魔法は魔力を大量に使う代わりに、詠唱は自由で思ったことができるんです」


 遅れて到着した魔術師のファーズさんが、一緒に到着したアロー公爵に、小声で魔術と魔法の違いを教えている。

 目の前ではうちのメンバーが、まだ動いている大蛇の尻尾を、運びやすいように切り分け始める。

 首から上には毒があるので、専門家じゃないと処理できないそうだ。


「私はトレジャーハンターだから、地底生物や大蛇だって倒すのが仕事だけど、王宮魔術師団の護衛の人って、何から調査団を守っているのかなぁ?

 もしかしてポーターさんは、守る必要がないとか思ってる?」


 のんびり最後に戻ってきた王宮魔術師団のラースクに、私は被っていたフードを取って喧嘩を売った。 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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