40 アロー公爵家の闇(3)
◇◇ 守護霊 トキニ ◇◇
「ハンター協会のチーフ如きが偉そうに。
私がアロー公爵家の後継者と認められたら、直ぐに圧力をかけて辞めさせてやる。
高貴な生まれである私が、下賤な奴等に頭を下げることなどできない。
だが、午前中に行かせた部下もダメだった。このままでは計画に支障がでる」
……ああ、こりゃビンゴやな。
このクソ野郎は、プライドだけは高いが世間を知らず、自分が特別な人間だと勘違いをしているクズで間違いないだろう。
ハンター協会を出て100メートルも離れていない場所で毒突くとは、誰が聞いているかも分からないのに・・・頭も悪いようだ。
「シマウナ、私は宿に戻る。いいか、明日までに銀級・・・いや、金級パーティーを説得して俺の前に連れてこい。
一人金貨2枚もあれば喜んで受けるだろう。決して私の名前は出すな」
「はいナックル様。出発は明日の午前でしょうか午後でしょうか?」
「そうだな、5キロは歩くらしいから午前の方がいいだろう」
……ほうほう、コイツはナックルちゅう奴か。そいで、このデカい奴がシマウナね。
……アホやなぁ、金級パーティーが金貨2枚程度で動くかいな。
「それからアウトス、預かっている毒を少量、茶葉に振り掛けておけ。
調査隊に同行するロールテンが明日やって来る。抜かりなく準備をして渡す必要がある。
いいか、警備隊を首になったお前を、我がヒバド伯爵家が拾ってやった恩を忘れるなよ!」
急に小声で話し始めたけどなぁ、俺は顔の直ぐ側まで近付いてもバレんから、聞き漏らすこともないんや。
はあ? また毒かいな。ポッパーの予想通りヒバド伯爵が敵で間違いないな。
……調査隊に紛れとる悪人の名はロールパン・・・いや、ロールテンな。
……調査隊のメンバーが毒を盛るちゅうことは、アロー公爵が狙いか? どうやらアレスが狙われてる可能性は低いが、油断は禁物や。
ん、この男、ハンター協会から300メートルも離れてない宿に泊っとるんかい!
まあ、この宿なら調査隊の動きも分かり易いし、情報も得やすいってとこか。
よし、助っ人にパトリシアさんを呼んでこよう。
『サンタさん、緊急事態や』
『ん? どうしたのトキニさん?』
ハンター協会に戻ると、いつものようにサンタさんはお菓子を食べていた。
今日もサブチーフが貢いだんやな。ご苦労さん。
食べている時だけ、サンタさんは表情を誤魔化せるらしいから丁度いい。
『さっきの奴、ヒバド伯爵の息子やったで。で、ここから300メートルも離れてへん宿に泊っとるから、パトリシアさんと偵察してくる。
時間はどのくらい大丈夫なん?』
『う~ん、アレス君の魔術師試験もするから、あと20分くらいかな』
『了解。毒を使うようやから、パトリシアさん、確認してくれるか?』
『分かったわ。それじゃあ行ってくるわねサンタさん』
◇◇ サブチーフ ◇◇
「聞いてるのかサンタさん?」
「えっ? ごめんサブチーフ、食べるのに意識が集中してた」
ホントにもう、この幼児には出会った時から振り回される。
大人顔負けの知能持ちで、常にマイペース。ハンターとしての腕は金級だ。
頭の痛くなることも多いが、食べてる時だけは年相応に可愛い幼女なんだよな。
……は~っ、つい菓子を買ってしまう俺が悪いのは分かってるんだ。でも、気付いたら何故か菓子屋に寄ってるんだよ!
「これから【聖なる地】に向かう許可は出せるが、中位・魔術師が2人いないと潜れないという決まりを破ることはできんぞ」
「ああ、それなら大丈夫だよサブチーフ。今からアレス君が、中位・魔術師の試験を受けて合格するから。
ただし、正式な資格証は調査隊が帰ってから発行して欲しいの。
今日は、合格しても仮資格証でいいから。もちろん口外禁止で」
サンタさんはアレス君に視線を向け、微笑んで試験を受けるよう指示を出す。
「なんで仮資格証なんだ?」
「う~ん、ここだけの秘密なんだけど、アレス君も私と同じように身内から命を狙われてるの。しかも、毒を使う滅茶苦茶えげつない奴等にね。
チーフなら分かるでしょう? 魔術師の世界がドロドロしてるって。
私みたいな野生児なら無能を演じられるけど、この見た目よ。絶対に目を付けられるって。
イオナの木の葉にはね・・・解毒作用があるみたいなの」
「自分を野生児だって分かってたのか・・・それはびっくりだ。
確かにアレス君は、見た目で言えば公爵家の令息って感じだわな。ハハハ。
ん・・・解毒作用?」
そう言ってまじまじとアレス君を見たチーフは、何かを思い出したのか一瞬顔を顰めた。
俺もとある公爵家の嫡男が毒に倒れた話を思い出し、ハーッと特大の溜め息を吐く。
……なんてこった! まさかアロー公爵家のことなのか?
「そりゃ急がねえとな。事情はなんとなく理解した。もしかして、さっきの奴等もその関連か?」
自分の予想と答え合わせするため、俺はサンタさんに探りを入れる。
「さすがサブチーフ。まあ、そんなところ。
だから優秀な魔術師の子供なんて、この町に居ちゃダメなの。
せいぜい私が男児っぽく表に出て、攪乱させるくらいがいいのよ。
まあ年齢は違うけど、一度探られたらこの町に興味がなくなるでしょう?」
私は覚悟を決めてますって表情で、サンタさんは全員を見回す。
……ハハ、こんな5歳児いるわけねえ。そんな作戦まで考えてるのかよ。
「サンタナリア、もうお前を幼女扱いするのは止めよう」
ファイト子爵が、可愛い孫の知略を聞き、全てを諦めたって顔で言う。
「いやもう・・・なんなんだよホント。
こんな小さな幼女が戦う気なら、俺たち大人が見て見ぬ振りはできんわな。
ゲートル支部最強のトレジャーハンターであるサンタさんを、他所に盗られるのはゴメンだし。
俺たちを信用して話してくれたんだ。全力で2人を守ろう」
チーフは腹を括って、サンタさんとアレス君を守ると決めた。
「ああそうだな。しかも、うちの支部では貴重な2人目の中位・魔術師になるんだ。守るのが当然だろう」
俺もニカッと笑って、サンタさんとアレス君を見る。
「みんな男前! 大好き」
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