4 職業選別(2)
そこは、イメージしていた荘厳さは無いけど、儀式を行うという雰囲気を出すためか壁は全て真っ白で、300人くらい収容できる広さの部屋だった。
部屋の前方には真っ黒い石で作られた、1メートルくらいの高さの真四角の台座が置かれている。
その真っ黒な石の台座には、四角い銀色の魔術具が載っていて、赤・緑・紫・青・水色という5色の15㎝四方のパネルが前面に貼ってあった。
その5色のパネルの下には、横10センチ縦5センチくらいの長方形の穴?が空いている。
「魔術具の横には、5色が入り混じった丸い玉のようなモノがある。子供が右手で軽く押すと、自分の職業のランクを表す色のパネルが光って表示される。
赤は高位職、緑は中位職、紫は専門職、青は一般職、そして水色は助手だ。難しい言葉で分からないだろうが、踏み台に上がって玉を押せばいい」
役人の説明を聞いていたのは、本日職業選別の儀を受ける3歳児百人余りと、子供の保護者たちである。
職業選別の儀式は年に4回あり、1日に3回行われる。
どの回でも先に貴族家の男児が選別を受け、次は貴族家の女児が選別を受ける。
男児の中ではファイト子爵家は2番目だったみたいで、ホスディーが先に前に出て並ぶ。貴族家の男児は5人くらいかな。
どの顔も期待と不安が入り混じり、緊張しているみたい。
特に貴族家は、この選別で自分の身分や将来までもが決まってしまうのだから。
「正面のパネルに色が表示されたら、下の穴から詳しい職業を刻印された金属のカードが出てくる。
そのカードは身分証になるので、絶対に失くしてはならない。紛失すれば、1万エーン(大銀貨1枚)が必要になる。
カードを受け取ったら、次は住民登録の手続きがあるので、親と一緒に隣の部屋に移動しなさい」
もう1人の役人が、今度は魔術具の正面下方を指さしながら説明する。
この説明、3歳児に分かるのかなぁ? まあ、親に向かって説明しているって感じだよね。
……良かったぁ。終わったら直ぐに隣室に移動するから、クソババア2号に、私の職業を見られなくて済む。
『サンタのいとこは専門職の【役人】じゃったぞ』
サーク爺が魔術具の前に行って、ホスディーの職業を偵察してきてくれた。
選別が始まると、子供の職業ランクを他人に見られないよう、魔術具の前に衝立が置かれたので、ある程度の個人情報は守られている。
……でも、中位職や専門職を授かると、本人や親が声を出して喜ぶことが多いので、なんとなくバレてしまうんだよね。
『【役人】といえば、クソババア1号の長男と同じ。
しっかり勉強して王立高学園を卒業できたら、上級役人として安泰だもん。十分だと思うんだけど、あの人は不満かもね』
私はサーク爺と念話しながら、自分の順番を待つ。
「次、サンタナリア」と役人が名前を読み上げたので、私はお爺様と一緒に前に出て、お爺様に踏み台の上に載せてもらった。
右手で5色の玉をよいしょと押す。
すると、正面でパネルの色を確認していたお爺様が「オォーッ」と驚いたように声を上げた。
私は踏み台から飛び降り、パネルに緑色が表示されているのを確認し、心の中で『よっしゃー!』と叫びガッツポーズした。
カシャと音がして、自分専用の身分証のカードが出てきた。
ちょっと興奮気味のお爺様が、私より早く手に取り職業を確認する。
「【過去・輪廻】?」と小声で言って首を捻る。
「えっ?【過去】なんですか? おかしいですね、過去は専門職のはずですが、申し訳ありません、別室でお待ちいただけますか」
「輪廻とは何だ? 聞いたこともない職業だ」
役人2人が私の身分証を見て、お爺様同様に首を捻る。
ドアの前に立っていた役人の案内で、私たちは別室に行くことになった。
……【過去・輪廻】・・・ここで輪廻が出てくるのかぁ。
『まああれじゃ、わしは輪廻の輪から来たんじゃから、それが影響しておるんじゃろう』
『サーク爺、でも具体的な仕事内容が分からないんだけど?』
別室で待っている間、職業【過去】は大変珍しい職業で、普通は具体的な仕事内容として【記憶】【技術】【体術】のどれかが記載されるはずだと、役人も困った顔で説明する。
一般的に【過去】はハズレ扱いされており、過去に生きた者の優れた知識や技術や技を受け継ぎ、再現できれば当たりだが9割が役に立たないらしい。
「確かに【過去・輪廻】はありますね。説明書きには詳しい職業は不明と記入されていますが、職業ランクは・・・中位から高位と書いてあります」
30分後、教会が刊行した職業一覧という文献を持ってきた責任者は、内容を読み上げながら驚きの表情で私を見る。
「職業選別の魔術具は正確なので、詳しい職業は不明と住民登録台帳に記載させていただきます。
能力評価は、緑の中位職となりますのでご安心くださいファイト子爵様。
どうしても詳しい内容をお知りになりたいなら、教会に問い合わせます」
子爵であるお爺様は領都でも有名人らしく、役人も丁寧に対応してくれる。
「不明のままで構わないわ、お爺様」と、私はお爺様を見て微笑み、対応してくれた役人に「ありがとう」とお礼を言った。
「お爺様、伯母様には【過去】だったとだけ伝えてください。私、まだ死にたくないので、フーッ」
イライラしながら待っているクソババア2号改め、オバサンのことを考え、建物を出た私は、溜息を吐きながらお爺様にお願いする。
「分かっておる」とお爺様は短く応えて、私の頭をポンポンと軽く叩いた。
馬車に乗り込むと、わざとらしい作り笑顔でオバサンがお爺様の顔色を窺う。
お爺様はやや不機嫌な顔をしており、その表情を見たオバサンは、にやりと気味悪く笑った。
「義父様、ホスディーは専門職の【役人】を授かりました。兄が中位職なので、兄を支えてしっかりファイト子爵家を守っていくと思います。
ところで、サンタナリアの職業は?」
ちょっと勝ち誇った表情のオバサンは、私に見下す視線を向けながら問う。
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