35 聖地イオナ(4)
アレス君が喜びながら現れ、ファーズさんが再挑戦することを報告してくれる。
私とアレス君は、ファーズさんが通り抜けられることを祈りながら暫し待つ。
子供2人だけで先に進むのは不安だし、何が待っているのか皆目見当もつかない。強い地底生物だって居るかもしれない。
「にゃうん」という声がして、よく見るとアレス君の足元には光猫のシリスが居た。
トキニさんの話では、光猫はとても希少で、王族のペットになっていたらしい。
サーク爺も覚えていたけど、サーク爺の知る光猫は、雌の成体は1メートルを超え、雄の成体は1.5メートルを超えていたって。
考えてみれば、この場所に私たちを導いたのはシリスだ。
シリスは、ここに扉があることを知っていた気がする。
しかも扉の膜を越えてきたから、魔力持ちだと考えて間違いない。
シリスは聖なる地で暮らしていた光猫だから、この地を守る存在だったのかもしれない。
……漠然とだけど、そんな気がする。
「おっ、魔力が鍵だったか。扉を開けるには魔力が足らなかったが、この仕掛けは通り抜けられたな」
大人の手がこっちの空間にぬっと伸びてきたかと思ったっら、ファーズさんの全身が現れて、私とアレス君は微笑み合った。
向こう側からも、こちら側からも対面の様子を見ることができないけど、微かに「やったー」という声は聞こえてきた。
「この先には、3人で行くと皆に伝えてくる」
そう言って皆の所に戻ろうとしたけど、ファーズさんは戻れなかった。
私とアレス君も試したけど、どうやらこの扉からは戻れないみたいだ。
なんとか方法を探そうと辺りを見回し、壁に小さな魔核が埋め込まれているのを発見した。
私が代表で魔力を流したら、バタンと扉が閉まっちゃった・・・あ、あれ?
「私は切り替えの早い幼女。さ、次に行こう」
小さな杖を頭上に上げ、私は元気に目の前の階段を上がっていく。
「そ、そうだね。どのみち戻れないみたいだし」
すっかり私という奇妙な幼女に慣れたアレス君は、さっさと思考を切り替え追ってくる。
でもファーズさんは「出口がない・・・どうすれば」って、ブツブツ言いながら動きが鈍い。
「この先にどんなお宝が待っているか楽しみだね、アレス君」
「そうだねサンタさん。お宝があるのか聖なる何かがあるのか、ワクワクだね」
アレス君が笑顔でそう言うと、光猫のシリスがにゃんと鳴いてアレス君の肩に飛び乗った。定位置に落ち着いて満足そうだ。
50段はあろうかという階段を10段くらい上がったところで、ファーズさんが置いていかれてることに気付き追い掛けてくる。
で、結局66段もあった階段を、ふうふう言いながら登り切ったら、その先には、また階段があった。
「どこまで登らせる気よー! 私は幼児なのに、あんまりよー! ハアハア」
休憩しては水筒の水を飲み、カラ元気を出すために歌をうたいながら登る。
何度も休憩して気付いたら涙目になってたけど、まだ見ぬお宝のことを考え歯を食いしばって足を動かす。
にいにだって頑張ってるし、ファーズさんはもう60歳を超えてる。
……よし、もっと体力付けよう。マッチョな幼女を目指すぞ~!
……そういえば、最速踏破者のメンバーや他の皆はどうしたんだろう?
今度こそ平地よねって、残り10段になった所で神に祈る。本気で祈る。
隣で私を気遣いながら登っていたアレス君の肩から、光猫のシリスが飛び降りて、軽い足取りで階段を登っていく。
最上段で後ろを振り返り、早く来てって嬉しそうに「にゃ~ん」って鳴いた。
ハアハア息を吐きながら辿り着いた場所には、またまた扉があった。
大きな1枚扉には、太陽と月、雲と風、雨と雪の絵が描かれていて、中央には直系8センチくらいの魔核が埋め込まれていた。
よく見ると、その扉の3メートルくらい先には普通の大きさの扉があった。
その扉には【聖なる地】にある巨大な三角の構造物が描かれていて、小さな魔核が埋め込まれていた。
「どっちの扉を選べばいいんだ?」ってファーズさんが呟いたら、光猫のシリスがファーズさんの足にすり寄り、こっちだよって感じで三角の構造物の絵が描かれている方に移動してお座りした。
「今度はこっちなんだな。こっちの扉の魔核は3センチくらいだ。よし、今度こそ開けるよう気合を入れて魔力を流そう」
そう言ってファーズさんは、大きく息を吸って魔力を流し始めた。
今度は薄いオレンジじゃなくて、綺麗な赤色に魔核が染まっていく。
そしてガチャって音がして、扉が外側に向かって開いた。
扉の先には、【聖なる地】の神殿の柱があり、地面より少し高い位置だった。
「なんと、この扉は本当に地上に繋がっていたんだな」
そう言いながら、ファーズさんは扉の外を見ようと足を踏み出した。
その時、なんか嫌な予感はしたんだけど、ファーズさんが外に出た途端、バタンと扉が閉じてしまった。
……ああ、やっぱり。そんな気がしたんだよ。ふう。
暫く待ったけど、外から扉が開く気配はない。
「ここの扉って、全て一方通行なんだね。びっくり。どうするサンタさん?」
「う~ん、折角だから大きい方の扉に挑戦しよう。だってシリスが扉の前で待ってるから」
太陽と月が描かれている大きな扉の前にお座りして、シリスがそうだよって「にゃ~ん」と鳴いた。
「よし、僕も今度は頑張るよ。サンタさんみたいに両手で魔力を流してみる。そう言えば僕、携帯用の小さなランプを持って来てた」
忘れてたと言いながら、カバンにも付けられる魔核の欠片で発光する、高価な携帯用小型ランプをリュックから取り出した。
さすが公爵家の貴公子。超高級品だ。広くは照らせないけど、足元や近くなら問題なく明るくなる。
そしてアレス君は、月の魔核に両手をついて魔力を流していく。
今度は直ぐにキレイな紫色に染まり、ガチャンと鍵が開錠されたような音がして、扉がゆっくりと開いていく。
「やったー、今度は開けられた」って、嬉しそうにアレス君が言う。
扉の先に魔核の灯りを向けると、ちゃんと光が届いた。
恐る恐る入ると、そこは4畳くらいの空間で、銀色の金属製の扉のような魔術具らしきものと、赤と黒のスイッチのようなものがあった。
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