34 聖地イオナ(3)
「内なる力が魔力かもしれない?
それじゃあ、超古代の遺物なら魔法使いの魔力ってこと?」
サーク爺の言葉を聞いて、私は確認するように問う。そして皆に、サーク爺の予想を伝える。
……このメンバーの中で魔法が使えるのは、私とアレス君とファーズさんだけだ。
「内なる力が魔法なら、それをどうやって示したらいいのかなぁ」
自分にも関係ある話だったアレス君が、興味深々で私……というかサーク爺に質問する。
『わしの時代では、大量の魔力を必要とする場合に魔核を利用していた。この扉もそうなら、あの魔核に魔力を流せば開くかもしれん』
「あのね、サーク爺の時代は、大量の魔力を必要とする場合に魔核を利用したんだって。だから、あの魔核に魔力を流せばいいんじゃないかって」
私はアレス君と魔術師のファーズさんに向かって、サーク爺の言葉を伝える。
「それなら私が、魔核に魔力を流してみよう」
最近訓練して魔力量を上げているファーズさんが、先ずは自分から試してみると言って、右の扉の中央より少し下にある透明の魔核に向かって進んでいく。
因みに2枚ある扉の左の扉の中央より少し上に、金で象られた太陽があり、右の扉に月を象った魔核が嵌め込まれている。
太陽の方が少し高い位置で、月は少し下にある。
太陽の周りには、黄色い宝石や水晶のように透明に近い宝石が散りばめられており、月の回りにはブルーや紺色に金色が混じる宝石が散りばめられている。
太陽の方が月より大きく、太陽の下方には人や動物が描かれている。
右の扉の月の下には、船や見たことがない乗り物のようなモノが描かれている。
ファーズさんは大きく深呼吸をして、右手を魔核に当て魔力を流し始める。
すると魔核は次第に透明に近い色から薄いオレンジ色に変化していく。
「わぁー、魔核の色が変わっていく」と、アレス君が瞳を輝かせる。
他のメンバーも、その不思議な現象を見て驚いている。
でも、ただそれだけで他には何も変化せず、扉は閉まったままだ。
「じゃあ、次は僕が試してみる」と、アレス君が前に出てファーズさんと交代する。
皆は固唾を呑んで様子を見守り、どうか開きますようにと祈る。
アレス君が魔力を流し始めると、魔核は次第に赤くなり、次に青い色が混じり、最後は美しい紫色になった。
月の回りに散りばめられていた宝石たちも、何故かキラキラと輝き始める。
左の扉の小さな宝石の一部も、キラキラと輝いていく。
「おおーっ!」と皆が声を上げ、期待が膨らんでいく。
だけど、3分待っても扉は開かない。
「それじゃあ私の番ね」と私は言って、即席の土の階段を3段ほど上っていく。
魔核は再び透明に戻っていて、心なしか扉自体が黒光りしているように見える。
スーハ―と3回深呼吸して、私は魔核に右手を当て、その上に左手を重ねて意識を集中していく。
『扉よ開け!』と心の中で命じながら、どんどん魔力を流していく。
すると、先程のアレス君と同じように魔核の周囲の宝石が輝きだし、その輝きが左の扉まで広がっていく。
太陽の周りの宝石たちが、眩しい程に輝きを放ったと思ったら、魔核が七色に輝き手に熱が伝わってきた。
「なんだこれは!」と皆の声が後方から聞こえて、私は眩しくて思わず目を瞑る。
ガコン!と音がして、ゴゴゴゴゴという振動が手に伝わってきた。
『サンタや、もう手を放しても大丈夫じゃ』
サーク爺がそう言ったので、私はそっと扉から手を離す。
すると重厚な扉は、奥に向かってゆっくりと開いていく。
扉の先は真っ暗で、残念ながら何も見えない。
ファーズさんが杖の先の魔核の明りを強くし、扉の奥を照らそうとするけど、その光は扉の位置から先には通らなかった。
『この先には、選ばれた者しか入れない。それは明りも同じということじゃな。聖なる者以外は入れないよう、魔法が掛けられておる』
「えっ、選ばれた者以外は明りもダメなの? 聖なる者以外は、魔法が掛っていて入れないの?」
「聖なる者?」
皆が首を捻りながら私に問うけど、私にも意味は分からない。
そこで試しに、全員が扉の先に入れるか試してみることになった。
トップはお宝を予想し、瞳をギラギラ輝かせている鑑定士でもあるチーフだ。
次がサブチーフで、本部の3人が挑戦し、最速踏破者のメンバーが続く。
魔術師のファーズさんの次がアレス君で、最後が私だ。
残念ながらファーズさんまでは、見えない柔らかい膜のようなモノに阻まれて、扉の場所から先には進めなかった。
押しても叩いても先に進めず、試しに剣をそっと刺そうとしたリーダーは、剣が膜に触れた途端、ビリビリと痺れるような刺激が体を駆け抜け、バタンと後ろに倒れてしまった。
『聖なる者が剣を使う訳がなかろう。無茶をしよるわ』
「リーダー、サーク爺が聖なる者は剣なんか使わないって!
この先が聖なる地に繋がっているなら、先に進める聖なる者って、きっと今の時代の神父様とか神官だよ。物騒なことは止めてね」
私は半分呆れ、半分リーダーの体を心配して注意する。
驚きと痛みで倒れたけど、リーダーは意識を失うことはなかった。
困惑顔で立ち上がったリーダーを見て、皆は安堵の息を吐いた。
そして超古代の遺跡の仕掛けに、皆は恐怖し文明の違いを実感する。
「アレス君、先に私が行くよ。今、罠が発動したし、もしもアレス君が通れたら、この先は真っ暗かもしれない。それは怖いでしょう? 私が通れたら、明りを灯しておくから」
「分かった。任せるよ」
アレス君が頷くのを見て、私は勇気を振り絞って開かれた扉の前に立つ。
右手を伸ばし、膜があるであろう場所をそっと触って、軽く魔力を流しながら押してみる。
すると指先が、見えないその先へスッと入った。
「アレス君、膜に軽く魔力を流したら通れるかもしれないよ」
アレス君に通り抜ける方法を教え、私は覚悟を決めて右手の次に体を進めていく。
気付けば体は扉を通り抜けたようで、視界の先に薄っすらと階段が見えた。
よく見ると、光り苔のような植物が、辺りをぼんやりと照らしている。
私は意識して、強過ぎないよう魔力を抑えて魔核の杖で明りを灯す。
「うわっ、僕も通れた。ファーズさんも魔力を流して再挑戦するみたいだよ」
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