33 聖地イオナ(2)
私とアレス君は扉には触れず、トキニさんの指示に従い罠がないかどうか辺りをチェックする。
サーク爺は超古代文明紀のものと思われる扉の装飾を確認し、刻まれている文字を解読していく。
確かに、私が覚えた古代文明の文字よりも、この扉に刻まれている文字の方が現代の文字に近くて簡単そうだ。
古代文字は絵文字に近いし、なんだか四角い感じだけど、この扉の文字は違う。
それに、扉の縁に使われている金属が、地中にあっても錆びてない。
装飾には、恐らく金や宝石も使われているから、この先は特別な空間だと思われる。
……これって、もしかして凄いお宝が眠ってるってこと?
サーク爺の指示で、埃を被っている豪華で重厚な扉に、風魔法を軽く当てて落とせる埃を落としていく。
強く放ち過ぎると破損する可能性もあるから、慎重に少しずつだ。
『この扉は、神に選ばれし者にのみ開かれる。選ばれし者よ、暦を読み、天の声を聞いて知らしめよ。星の動きを観察し、厄災から民を守れ』
サーク爺が、埃を払った扉の中央部分の文字を読み、私に教えてくれる。
私は直ぐに、その内容を復唱するようにアレス君に伝えていく。
「もしかして、この扉の先って、地上の遺跡と関係があるんじゃない?」
『そうじゃのう、暦を読むとか星の動きを観るということは、地上のあれは季節や天候を予測するためのモノかもしれん。
わしが生きておった時にも、聖なる山に同じような働きをする神殿や祭祀殿があった・・・ん?・・・聖なる山・・・まさか・・・』
サーク爺の言葉を復唱してアレス君に伝えていると、何か思考を始めたようでサーク爺の言葉が途切れてしまった。
他にも扉や入り口がないか探していると、協会のチーフやリーダーが、ファーズさんの魔術を使って、大人が通れるくらいに穴を広げて追いついてきた。
「危ないから勝手な行動をするなと、あれ程何回も言ったのに・・・はあ?」
腰に手を当て私を叱っていたチーフは、私の後ろにある扉を見て絶句する。
「な、な、なんだこの扉は! こんな如何にもお宝が眠ってますみたいな扉、一度も見たことがないぞ!」
うちのリーダーも、あんぐりと口を開けて扉を見上げる。
「この扉は、個人が所有できるような代物ではない。中央に描かれている太陽は純金と思われる。その周りで鈍く輝いて見えるものは全て宝石だろう。
これは協会が管理すべきもの・・・いや、これ程の物は国宝レベルだ。
で、サンタさん、この扉は何だ? 大魔法使いのサークレス様は何と?」
協会本部から参加していた最高幹部である鑑定士のボルロさん52歳だけは、瞳を輝かせて瞬時に価値を査定し、これが何の扉なのかを私に訊いてきた。
ボルロさんは本部の中でも、私が魔法使いであり職業が【過去・輪廻】であることを知っている数少ない信用できる人だ。
そこで私は、サーク爺の言葉をそのまま伝え、この扉は地上の【聖なる地】と同じ年代の神事に関係のあるものの可能性が高いと伝えた。
「ファーズさん、下から少しずつ階段を作って、皆で丁寧かつ慎重に埃を払って欲しいの。
私とアレス君じゃ高い所に手が届かないから、サーク爺が一部分しか解読できないの」
まだ詳しいことは分からないと伝え、皆には丁寧に埃を払ってもらう。
金とか宝石と聞いた【最速踏破者】メンバーは、滅茶苦茶緊張しながら手持ちの物で作業をしていく。
「リーダー、宝石ばかり磨かないで。カンパーニさん、リヤカーを出さない。持ち帰り禁止よ」
根っからのトレジャーハンターにしたら、こんなお宝を目にしたら、持って帰りたくなる気持ちは理解できる。でも今は埃を払って!
私とアレス君も口と鼻をタオルで覆って、下の部分の埃を払っていく。
「いや、これは貴重な宝石ばかりだ。よく見たら、星の絵は宝石を散りばめて描かれている。これは・・・月の絵に見えたのは、巨大な魔核じゃないか!・・・サンタさん、なんてモノを発見したんだ。いや、凄いぞこれは」
「チーフ、鑑定士の顔になってますよ。鑑定士の2人は邪魔になるので、少し離れてください。取り外し禁止。不要なお触りも禁止。扉の開け方でも考えといて。
不用意に宝石や魔核を外そうとしたら、罠や魔法が発動するかもしれないんだから」
文字の部分の埃を払わず宝石ばかり磨く2人に、私はピシッと文句を言う。
こんな豪華な扉だもん、泥棒避けとか罠があってもおかしくない。
叱られた2人は、渋々即席の階段から下りて、分かる範囲で宝石の種類とか大きさなんかを、サササとノートに書き込んでいく。
「サーク爺、何か分かった? ここって、もしかしてサーク爺の時代の【聖なる山】だったの?」
『そうじゃな、上の部分には、選ばれし者は内なる力を示し、試練を受けよ。扉に許された聖なる者は、扉を開くことを許されるだろう・・・と書いてある』
「選ばれし者が試練を受けて、扉に許されたら扉を開くことができるんだって。内なる力を示す必要もあるみたい」
皆にもサーク爺との会話が分かるように説明していく。
『そう言えば、俺の時代の言い伝えに、枯れない木が祈りの丘を守っているっていう話があった。
地層や天変地異を考えると、サーク爺の時代の聖なる山は、俺の時代には丘の上に変化した。そして今は、地底になっているって考えはどうや?』
トキニさんの話を皆に伝えると、確かにそうかもとサーク爺も同意する。
『諦めていた超古代都市の一部に辿り着く夢が叶った』って、2人の守護霊に念話して、思わず顔が緩んでしまう。
「とりあえず扉を開けてみよう。挑戦しなければ、文字の意味も分からないし、このまま何もせずに地上へ行くのはつまらんだろう」
いつの間にか腕まくりして、やる気満々のサブチーフが場をリードする。
どう考えても子供の私やアレス君じゃ、あの重厚な扉はびくともしないだろう。
残念だけど、皆が挑戦するのを見学するしかないな。
「サンタさん、もしも罠が発動したら危ないから、後ろに下がっていよう」
優しいアレス君が、そう言いながら私の手を取り一緒に後方へ移動する。
30分経過したけど、扉はうんともすんとも動く気配がない。
『サンタや、内なる力とは魔力かもしれんぞ』
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