32 聖地イオナ(1)
新ロードが地上へと貫通した日から10日、トレジャーハンター協会はこの新ロードを【イオナロード】と正式発表した。
ゴールした場所を守るように聳えていた1本の巨木が、イオナという名前の木だったことと、古代では【聖なる木】と呼ばれていたとサーク爺が教えてくれたので、リーダーのカーリンさんが縁起を担いで、【イオナロード】と協会に申請したのだ。
多くの新ロードには、発見したパーティーの名前やリーダーの名前が付けられているんだけど、うちのリーダー、顔に似合わずロマンチストだった。
パーティーの皆も【聖なる木】の由来なら、安全に採掘ができるんじゃないかと言って賛成していた。
あの幻想的な光景を見た協会本部の面々も、雄々しく立つイオナの巨木に見惚れて、新ロードに相応しい名だと納得していた。
サーク爺によると、あの階段式の三角の建造物は、超古代文明紀に造られた神殿の可能性が高いって。
これから【最速踏破者】は、この場所の探索と調査を暫く続ける。
寝泊まりできる簡易宿舎を作り、獣避けの罠なども設置する予定だ。
景観を損ねたくないから、遺跡の住居を再利用する。
全長3キロある【イオナロード】の入場口は、古代都市ロルツの入場ゲートから2キロ進んだ中層部にあったので、ゴールまでの距離はおよそ5キロである。
本来なら中層部のロードとなるところだけど、あまりに危険なので、通行料を払う必要がある3年間は、底層部扱いすることになった。
確かに鉄級ハンターじゃ巨大トカゲは倒せないし、危険な罠まである。
2年間は【中位・魔術師】を2名以上同行するか、金級パーティーなら2組以上、銀級パーティーなら3組以上が合同チームを組んで探索するなら、魔術師の同行なしでも危険指定区域に潜ることが許可された。
「【最速踏破者】は、お宝より最終地点の到達を急いだから、未発掘の場所が多いと他のハンターたちは知っている。
だから日頃は仲が悪いパーティー同士でも、合同チームを組んで探索を始めてる。うかうかしてると、貴重な魔術具を奪われるぞ」
協会のマッチョなサブチーフが会議室で、【最速踏破者】の今後の予定を確認しながら言う。
今日も今日とて、私のために美味しそうなお菓子を貢いでくれる。
……いつもありがとう。大好きです。
「ああ、他の奴等に負ける気はないが、サンタさんも居るから無茶はしたくない。
まあ地底生物に偶然出くわせば討伐するけど、暫くはゴール地点の探索をするつもりだ。あの不思議な場所の秘密も気になるしな」
うちのリーダーはそう応えて、余裕の表情でにかっと笑った。
ゴール地点にもブラックウルフ等の危険生物がいるから、協会も暫く調査するようだ。
世界中探しても、あんな不思議な遺跡の発見は報告されていない。だから公爵家や侯爵家が興味を示しているとかいないとか・・・
今日は【最速踏破者】のパトロンであるファイト子爵と、ホッパー商会の2人をゴール地点の【聖なる地】へと案内する。
本部の偉い人3人とチーフ、サブチーフとファーズさんも、ロード調査と地図作成のために同行している。
調査が終わるまで、他のハンターの探索は2.5キロまでに限定される。
「【聖なる地】の由来はね、超古代文明紀の魔法使いが、この地に結界魔法をかけ神殿などを守った可能性が高いって、サーク爺が爆弾発言をしたからなんだ。
結界魔法まで使って守ろうとした場所だから、きっと【聖なる場所】だったんだろうねって私が言ったら、いつの間にか皆が【聖なる地】って呼び始めたんだよ」
サブチーフに抱っこされて、私はお爺様に名前の由来を説明する。
『あれは、何度見ても素晴らしい結界魔法じゃ。この魔法を持続させるために、聖なる木イオナが植えられたんじゃろう。あの木自体が魔力を放出できるからな』
「アレス君、サーク爺がね、聖なる木は自分で魔力を放出して、この地の結界魔法を持続させてるって」
「そうなんだ。イオナの木って魔力持ちなんだね。早く話題の【聖なる地】を見てみたいな。今日は連れてきてくれてありがとうサンタさん」
アレス君は先日7歳の誕生日を迎え、昨日、協会の魔術師試験を受けて【下位・魔術師】に合格した。
でも、登録は銅級トレジャーハンターではなく、魔術師としてだけど。
アレス君の登録名は、【トレジャーハンター協会、ゴールド会員ホッパー商会・下位・魔術師 アレス】だ。
今日はホッパー商会の、ゴールド会員証を使って同行している。
ここのところ私は、新ロード開通まで毎日のようにロードに潜っていたから、アレス君はきっと寂しかったと思う。
でも、地上にゴールした時に助けた光猫の【シリス】が、凄くアレス君に懐いているから、寂しくないよとアレス君は言ってた。
「これからは、僕も時々魔術師として同行できる。今日はスケッチ道具を持ってきたから、【聖なる地】を描く予定だよ」
……ああ、今日も笑顔がキラキラだよアレスにいに。いつか攫われるんじゃないかと心配。そういえば絵も上手だったね。
……光猫のシリスを肩に載せてるから、キラキラ度が上がって眩しいくらい。生まれながらの貴公子ぶりは、庶民の服を着ても隠せないかぁ・・・
因みに光猫に付けた【シリス】って名前は、古代語で光り輝くっていう意味で、命名したのはアレス君だ。
私のにいには、魔法の才能だけじゃなく絵や命名のセンスまであった。えへん。
ゴール目前って所まで歩いてきたら、アレス君の肩から光猫のシリスが飛び降りて、突然、未探索の側道でもない穴へと入っていった。
私とアレス君は、急いで穴に潜って追い掛ける。
穴は大人じゃ入れない大きさだから、サブチーフとリーダーはスコップで穴を広げながら、「危険だから戻ってこい!」と叫んでいる。
狭い穴を四つん這いで少し進むと、突然空間が広くなった。
シリスが何かを爪でガリガリする音が聞こえて、私は小さな木で作り直した魔法の杖をリュックから取り出し、高く上げて辺りを魔核で照らしていく。
そこは思った以上に広い空間で、シリスの前には豪華な装飾を施された大きな2枚扉があった。
「何ここ?」と、私とアレス君の声が揃った。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。