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30 新ロード探索(2)

 鬼気迫るトキニさんの声を聞いて、私は直ぐ皆に指示を出す。


「止まって! トキニさんが前方に罠があるって」


「トキニさんが?」


 リーダーのカーリンさんが、上げていた右足をそっと降ろし、振り返りながら私に問う。

 他のメンバーも魔術師のファーズさんも、足を止めて辺りを見回す。

 先月も1回、トキニさんは罠を見付けており、危うく獣対策用の落とし穴に全員が落ちるところだった。


 トキニさんによると、3千年前の王国時代は、今よりも獰猛な獣や爬虫類が地上を闊歩していて、人類は身を守るために地下で生活せざるを得なかったらしい。

 それでも地上の植物を採取するため、安全だと思われる場所を選んで森への出入り口を作っていが、時々戸を破壊され獣や爬虫類が侵入していたんだとか。

 

 そこで考えたのが、罠用のロードには落とし穴を作り、本道では天井が崩れる罠を作って安全確保することだったらしい。

 落とし穴に落ちた獣は食材になったけど、天井を崩す罠は、人の命を守るための最終手段として壁に起動装置を設置し、巨大な生物の侵入を阻止したみたい。


 王国時代は、強い軍を持っている国の民が獣の少ない平地に住むことを許され、弱い国の民は地底に住んでいたと、トキニさんが教えてくれた。

 地上で生活できるのは限られた権力者だけで、弱小国は地底に村や町を作って生活していた。

 地底での生活を可能にしたのが、高度文明紀の遺物である掘削機を含む魔術具だったらしい。


『天井崩落の罠があるっちゅうことは、出入り口が近いちゅうことやで』


「そうなの? じゃあ、罠の先を掘れば、地上に出る可能性が高いってことね」


 私とトキニさんの会話を、皆が静かに聴いている。

 いや、皆には私の声しか聞こえないんだけど、私の独り言は、サーク爺かトキニさんと会話中だって理解してるから、聞き耳を立てて待っている。

 


 15メートル先を見ると、ロードは土砂に埋まり行き止まりのように見える。

 この新ロードは、至る所で落盤が起きているから、自然に崩れたのか罠によって崩れたのかなんて分からない。

 思うようには前に進めず、その都度土砂を撤去し、此処で行き止まりなのか、掘れば先にロードが続いているのかを確認しながら進んできた。


 掘った土砂や岩は、探索する余裕なんて全くない側道や粗方探索した空き部屋に、ファーズさんが魔法陣を発動させて運び埋めてくれる。

 そうすることで、側道から湧き出る地底生物との戦闘に時間を掛けなくていいし、安全度が上がる。


 ……いや~、掘っては進み、また掘っては進む、本当に長い道程だった。


「それじゃあ、今度こそゴールってことかサンタさん?」


「うん、その可能性が高いと思うリーダー。

 だって、後ろを振り返れば分かると思うけど、後方の方がかなり低いでしょう? このロードは、きっと地上に向かってるってことだよ」


 私は自分の見解も含めて説明し、皆は後ろを振り返って「なるほど」って呟く。

 これまでもアップダウンはあったけど、気温や風の流れる量を考えると、このロードは地上へと向かってる気がする。


「うぉーっ、ゴールだー!」って叫びながら、皆の士気が一気に上がっていく。

 半年間の苦労が、やっと報われる時が来たのだ。


「で、罠はどうしたらいい? もう発動して落盤してるんなら、掘ればいいだけだよねトキニさん?」


『いや、恐らくこの落盤は時代経過によるもんや。

 見てみい、あの岩の横に赤い装置がある。あの装置は、発動させたら一緒に埋まるようになっとったはずや』


「えぇ? それじゃあ、安全のためには装置を発動させなきゃいけないの?」


『ああ、そやな。壊れとるかもしれんが、試した方がええやろう』


 私はトキニさんとの会話内容を、皆に分かり易く伝えていく。

 装置が発動されていない場合、土砂撤去の振動や重さの変化で、罠が勝手に作動する可能性があるから、装置を発動させる方がいいって。


『サンタや、崩落の規模が分からんから、離れた場所からウインドバーストでスイッチを押した方が良かろう』


「うん、そうだねサーク爺」


 私は皆に下がるように言って、空気を圧縮させたウインドバーストを装置に向かって放つ。

 強すぎて装置を壊さないよう気を付けて、何度か挑戦してみる。

 すると3度目に放ったウインドバーストで、黒いボタンみたいなものが押されて、ガコッって音がしたかと思ったら、装置の真上の天井部分がズドン、ズサーッって崩れた。


 一際大きな岩が落ちてきたから、あれで獣を殺すかロードを塞ごうとしたんだろうな。

 皆は過去の装置の威力に驚きながら、砂埃を吸わないよう口と鼻を首に巻いていたタオルで急いで塞ぎ、砂埃が治まるのを待つ。



『3千年前の装置が、まだ生きとるのか・・・』とサーク爺が呟く。


『せやな、俺も驚いたわ。きっと高度文明紀の金属を使うて作ったんやろう。あれは、鉄と違ってサビんからな』


『ねえトキニさん、その錆びない金属って何処で採掘されたのか分かる?』


 私は皆に聞こえないよう念話しながら、トキニさんに質問する。


『う~ん、俺が生きとった頃と地形が変わっとるからなぁ・・・地上に出んと分からんな』


『そうだね。高度文明紀は地下深くに埋まってるから、採掘場もきっと埋まってるよね。錆びない金属・・・掘り尽くされてなきゃいいなぁ』



「よし、ゴールは直ぐそこだ! 頑張って土砂を退けるぞ!」

「おおーっ!」


 砂埃が収まって、リーダーの掛け声で皆は土砂の撤去作業に取り掛かっていく。

 どの顔も、ゴール到達を夢見て嬉しそうだ。


「あれ? リーダー来てくれー、俺の勘違いじゃなきゃ、この光は地上の太陽だと思うんだが?」


 崩れた土砂の上に登って小岩を下に降ろしていたサブリーダーが、想像もしていなかったことを言った。


「なんだと!」と、皆が驚きの声を上げ、視線を天井に向け見上げる。

 もちろん私も、走り出てガン見する。


 土砂を慎重に上がっていったリーダーが、スコップで光が射しこんでいた小さな穴をつつくと、ドサッと土が落ちて、眩しい太陽の光が降り注いでくる。

 薄暗いロードから見上げると、そこには青空と流れる雲が・・・


「やったー! ゴールだぁ」と叫んだ直後、穴の上から獣の唸り声が聞こえた。  

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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