3 職業選別(1)
ファイト子爵家に来てから半年、ぼんやりっ子サンタナリアは、今日も頑張ってお爺様の工房にお邪魔してます。
ここに居れば、クソババア2号や同じ歳のホスディー3歳に嫌がらせされることはありません。
従兄のアルシス5歳、その姉のナリスティア7歳、そしてバルトラ兄さま5歳は、ファイト子爵家が運営している初級学校に行って留守。
お爺様の工房は2箇所あって、今居るのは屋敷内にある二間続きの小屋みたいな方で、屋敷の外には雇った職人たちが働く大きな工房もあるんだよ。
もの作りを見学するのは、学びも沢山あって楽しい。
だからつい、ぼんやりを忘れるという失態をしでかした私・・・ぐすん。
『ほうほう、現代の技術というのは、古代文明の製品を真似ている物が多いのだな』
「そうだよ、ファイト子爵家の領地の直ぐ隣に、広大な古代都市ロルツがあるから、トレジャーハンター支部も近いの。
だから、トレジャーハンターが採掘した遺物のオークションや、一般販売されている何か分からない遺物をお爺様は買い取り、いろいろ研究しているのよ」
お爺様が隣の部屋に道具を取りに行っている間、私はサーク爺とお爺様の発明品を見ながら会話してたんだけど、どうやら声に出していたらしい。
「サンタナリア、お前はいったい誰と会話しているんだ?
それと、兄にも劣らぬ流暢な喋りと知識を、何故隠していた?
前々から何か違和感はあったが、やはりそうであったか。今のお前が本当のサンタナリアであろう?」
ギャーッ!
振り向くと工具箱を持ったお爺様が、何故かニヤニヤしながら立っていて、私のぼんやりが演技だったことを咎める訳ではなく、確認するために質問した。
「わしの書斎に頻繁に出入りしていたが、書斎には幼児が読むような書物はない。それなのに、明らかに読んだと思われる痕跡やメモが残されておった。
しかも、つたない文章ではなく、大人顔負けの内容の走り書きに、わしは何度も首を捻ったぞ。
やはりあれは、サンタナリア、お前の仕業だな?」
……あちゃ~、私ったら、書斎でもやらかしていたみたい。メモ書きを忘れてたんだ。
今度は正直に白状しろと、子爵家当主って顔で問い質されてしまう。
「お爺様、私ね、もう少し長生きしたいし、母様の為に家を買ってあげたいの。
私がトレジャーハンターで稼いで、兄さまを王立高学園に入れてあげたい。
だから今は、ぼんやりを演じてなきゃいけない」
私は素の自分を出して、作らない口調でお爺様に説明した。
「長生きしたい? それはどういう意味だ! 誰かがお前の命を脅かすとでもいうのか」
「前の家では、クソババアが私のスープに毒草を入れたこともある。5回くらいだし、致死量じゃないけど。
この家だと、階段から突き飛ばされたことが2回。4段くらいからだからケガも打ち身くらい」
「何だと!」と、お爺様は驚いて大きな声を出した。
「実害はないけど、ファイト子爵家には必要ない子だってバカにする精神攻撃なんて毎日だよ。
そのくらいでめげてたら、居候なんてできないよ、お爺様。
明日の職業選別で、もしも中位職なんて授かったら、私、本気で逃げるから」
そう言って意味深に微笑んだら、お爺様にドン引きされた。
こっちはシリアスに訴えてるのに、危機感なんてゼロだよね、お爺様。
「サンタナリア、お前の毒舌には恐れ入ったわ。
職業選別は、何故か親や家門の影響を受けない。
お前の頭の回転から予想するなら、中位職の【経営】か【戦略】の可能性が高いと思うぞ。
心配するな。わしの目の黒いうちは、絶対に守ってやる」
そう言いながら、お爺様は私の髪の毛をぐちゃぐちゃにしながら撫でてくれた。
今は未だ、お爺様に魔法が使えることは言えない。
冗談抜きで死にたくないし、絶対にトレジャーハンターにならなきゃいけないから。
いくら頭が回っても、魔法が使えても、3歳の幼児が身を守るのは実質困難。
階段の一番上から押されて落ちたら、本当に死ぬから。
うちの階段、木製じゃなくて石だから。
今、こうして生きているのは、守護霊のサーク爺が危険を知らせてくれるからだもん。
気付けば背後に、従姉のナリスティア7歳が立ってる恐怖・・・
子供がいたずらで……とか、わざとじゃなかったのに責めるのかって、あのクソババア2号なら逆切れするに決まってる。
……ああ、嫌だ嫌だ。こんな気苦労する3歳児なんて。
で、私が誰と話していたのかって質問には、ちゃんと守護霊様と答えたよ。信じて貰えないと思うけど。
翌日、私はお爺様とクソババア2号と息子のホスディーと一緒に、4人で馬車に乗って侯爵領の領都へ【職業選別】に出掛けた。
行き先は、国が運営しているエイバル王国儀式場だ。
うちの国以外は、敵国ザルツ帝国も含め、全ての国で【職業選別】はガリア教会が行っている。
「職業選別で使われる魔術具は、古代遺跡から発見された遺物だ。
エイバル王国は、自国の領土内に世界最大級の古代都市があり、最初に偉大な魔術具を発見した国でもある。
教会が使っているのは、我が国で発見された遺物の複製だ」
お爺様は、魔術具の専門家でもあるから、儀式で使う魔術具の話を馬車の中で熱く語ってくれた。
何の話か分からない様子のホスディーは途中で寝てしまい、クソババア2号も窓の外を見て興味を示さない。
でも私は、こういう話は大好きなので、しっかり聞いている。
当然「ふ~ん」とか「わかりゃない」って言いながらね。
お爺様は、私が演技をしていても、話を続行してくれる。
時々クソババア2号が鋭い視線を向けてくるけど、その時は大きな欠伸をして誤魔化す。
馬車に揺られて4時間、ロルツラ侯爵領の領都に到着した。
うちはロルツラ侯爵様から子爵位を授かり、小さな領地を任されている。
さあ、いよいよ【職業選別】だ。
『まあ、間違いなく魔術師じゃな』と、サーク爺が縁起でもないことを言う。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。