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23 初めての仕事

 巨大トカゲを討伐した私たちは、取り敢えず町に戻ることにした。

 最初に討伐したブラックワームと巨大トカゲだけで、既に本日の稼ぎをクリアしていたようで、持ち帰れる量を越えてしまっているらしい。

 私はもっと奥まで行ってみたかったけど、また巨大トカゲが現れたら危険だし、初めての探索で無理をするなと、サブチーフがストップを掛けたのだ。


 ……確かにゲートを潜ってから3時間以上経ってるし、私のおやつタイムはとっくに過ぎている。


 討伐した獲物の査定や、買い取り依頼を出す必要もあるらしく、急いで帰ることになったので、折り畳みリヤカーを持ってきたカンパーニさんが、巨大トカゲを積み込むために準備を始める。

 でも、体長3メートル越える巨大トカゲを全て積むことができず、動力系魔術が得意なファーズさんが、はみ出た尻尾を魔術で浮かせて運んでくれる。


 あれは私のしっぽちゃん。思わず「しっぽ、しっぽ、私のしっぽ、可愛いカバンになるしっぽ~」って、ルンルンで歌っちゃったわよ。

 尻尾はホッパー商会で、私とアンタレス君のウエストポーチと、お爺様の鞄を作ってもらう。残りはホッパー商会が防具に加工するんだって。


「サンタさん、女の子みたいに可愛い声だな」って、リーダーが私の頭を優しく撫でながら笑う。帰りはリーダーのカーリンさんが抱っこ担当だ。

 他のメンバーも、ニコニコしながら私を見ていた。

 サブチーフなんて「怖い顔のリーダーが、可愛い幼児を抱っこする日が来るとは、なんて喜ばしい・・・」って泣き真似をして、皆の笑いを誘っている。


「私、本当の名前はサンタナリア。正真正銘の幼女。

 だけど、トレジャーハンターの時は男の子として頑張る。よろしくね」


「はあ?」って声が四方から聞こえる。

 槍担当のサバンヤさん30歳だけは、最初から女の子だと思っていたと言い、自分の娘も3歳だし男の子にしては顔が可愛すぎるって。

 他のパーティーに気付かれて誘拐されたらどうしようって、リヤカーを牽きながらカンパーニさんが心配する。


 ……う~ん、顔がちょっと隠れるフードを付けてもらおう。 


 帰り道、私を含めたこれからの活動について、皆が熱く語り合ったらしいけど、私は抱っこされ心地よい揺れのせいで、ぐっすりと眠ってしまった。

 まあ幼児なんだから、お昼寝だって大事よ。早く大きくなりたいし。



 で、私が眠っている間に決まったことを、協会の会員専用部屋で説明された。


 ① サンタさんは、3日に一回の割合で古代遺跡に同行する。

 ② サンタさんが女の子であることと、魔法使いであることは口外しない。

 ③ サンタさんがメインで倒した地底生物は、最低でも3分の1を取り分として与える。

 ④ ピンチの時のみ、サンタさんに魔法を使ってもらう。

 ⑤ サンタさんは、7歳になったら国の魔術師試験を受け、その後は魔術師学校に入学し、中位・魔術師の資格を取らせる。

 ⑥ 中位・魔術師を取ったら、王立能力学園に入学させる。


「全然納得できない。トレジャーハンターとして稼ぐ時間が3年間しかない。

 王都で家を買わなきゃいけないのに、7歳から学校? 必要ないよ。

 本人の意思が考慮されないなら、私、他の町でトレジャーハンターする」


 寝起きでよだれのついた顔のまま、差し出されたおやつを食べながら私はプンプン怒って文句を言う。

 

 お爺様・【最速踏破者】のリーダー・トレジャーハンター協会のサブチーフが、帰り道で大まかな契約内容を決め、帰ってきてから協会のチーフとホッパーさんも入れて、まとめた契約書がこれだった。


「サンタさん、そうは言ってもまだ3歳の幼児だ。トレジャーハンターは危険がつきものだし、毎回今日みたいに上手くいくとは限らない。

 それにな、月に5回くらい強い地底生物を倒せば、2年で王都に家が買えるぞ。

 屋敷を希望するなら3年は必要かもしれんが、巨大トカゲは魔核持ちだった」


 困った顔で私を説得するのは、協会のチーフだ。

 なんでも今日狩った巨大トカゲは、強固な皮がとても希少で、牙も加工品の素材として高値で売れるらしい。

 肉は、食べられるかどうか試さなければならないらしく、食用になれば収入も増えるとか・・・


「魔核持ち? やったー! じゃあ、じゃあ、頑張って巨大トカゲの巣を見付けなきゃ。もっと魔法の腕をあげて、飛び乗らなくてもいい攻撃魔法を覚える」


「いやいやサンタナリア、そこまでせんでも王都に家を買う金は、わしが貸してやるから大人になって返せばいい。

 お前は頭もいいし、これから多くのことを学ばねばならん。

 もしもケガでもすれば、直ぐに王都の母親の元に連れて行くぞ。分かったな。

 自分で何もかも背負う必要はないんじゃ。お前はまだ幼児なんだサンタナリア」


 お爺様が厳しい表情で、私の目を真っ直ぐ見ながら諭すように言う。

 私は自分の小さな手をじっと見て、確かに幼児だもんなって、悔しい気持ちを無理矢理胸の奥に押込める。

 ここで我が儘を言ったら、トレジャーハンターの活動を禁止されるだろう。


「分かりましたお爺様。でも、家は私のお金で買いたいんです。

 意地悪なクソババアに、お爺様のお金で家を買ったって言われたくないもん。

 最速最短で学校を卒業し、わたし絶対、金級トレジャーハンターになる。

 魔法でポーター人形作って、バーンて一撃で地底生物を倒す。そ、そして、新しい家名を、家名を・・・ヒッ、ヒック、スン」


 そこまで言ったら、次から次に溢れてくる涙のせいで話せなくなった。


『サンタや、何事も経験じゃ。お主はまだ3歳。これからできることは増える一方じゃないか。

 生き急ぐ必要はないんじゃ。わしのように死んで魂になったら、自分では何もできなくなる。

 体があって生きているだけで、人生ぼろ儲けじゃ。そうじゃろう?』


『スン、ヒック、うん、そうだね。生きてるだけでぼろ儲け。なんか元気でた』


 ……うん、今はそれでいい。私が夢を諦めなきゃいいんだ。 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

次話から隔日更新になります。これからもよろしくお願いいたします。

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