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2 ファイト子爵家

 あら嫌だ、この伯母さん、クソババアは聞き取れたみたい。

 そんな殺すぞ!って刺すような目で見るのは止めて。怖いから。


 ふー、よし、泣いて誤魔化そう。


「うわ~ん、きょわいよう。え~ん」


「チッ!」


 まあ、なんて下品なんでしょう。2歳の可愛い幼女に舌打ち? 

 母様の方が美人だし、上品だし、職業レベルが高いからって、ひがまないで。


「分かりました。3日以内に実家に帰ります」


 怖いと大泣きする私を見て、母様はやっと決心してくれた。


「あら、そう。だったら、二度とバコード子爵家に関わらないで。バコードの名も名乗って欲しくないわ。

 そうだわ、これからはもう他人よ。今後バコード子爵家に金銭的な要求はしないって誓約書を書いてくれる?」


「それはバコード子爵家当主との間で交わされるもので、ただの嫁の貴女が仕切ることじゃないわ」


「何ですって!」


 鬼の形相になっているクソババアを軽く睨み、母様は私を抱きかかえると祖父の執務室に向かって歩き始めた。




 三日後、約束通り私たち親子はバコード子爵家から出ていった。

 祖母だけは引き留めてくれたけど、祖父はケチだから出費が減ると嬉しそうだった。

 出発した馬車の中で、バコード子爵家の繁栄は終わったわねと、サーク爺とニヤニヤしながら念話していたら、バルトラ兄さまが「そんなに嬉しいのサンタナリア?」って訊いてきた。


「うん、しゅごく嬉しい。だって、もうバカな振りしにゃくていいし」って、笑顔で答えた。

 ずっとまともに話してなかったから、舌足らずなのは仕方ない。


 母様と兄さまは驚いた顔で私を凝視し、目をパチパチさせる。

 今まで発達が遅めで、抜けてる幼児の姿しか見せてなかったから、驚かれるのは無理もない。


「まあサンタナリア、いつから演技をしていたの?」

「う~ん、1しゃいくらいからかな、かーたま」

「ええぇーっ、ちょっと待って、サンタナリアがもの凄く賢くなってる!」


 驚いて口を半開きにしている4歳児の兄さまに、私は笑って字も読めるよと付け加えた。


「まあ素敵。とても嬉しいわ。

 でもねー、今から住むことになる母様の実家のファイト子爵家にも、ロレイン伯母さんみたいなシンシアって名前の、プライドの高い強烈な嫁が居るのよ。

 だから、帰るのをためらっていたの。はーっ・・・

 ねえサンタナリア・・・悪いけど、もう少し演技を続けられる?」


 申し訳なさそうに実家の話をする母様は、大きな溜息を吐きながら、超驚きの提案をする。

 2歳の幼女は、思わず目が点になっちゃったよ。貴族の家ってみんなこんなの?


 ……なんなのよー! 安住の地は何処?


『貴族に生まれても世知辛い時代じゃな』と、大貴族というか王族の生まれらしいサーク爺が同情してくれる。




 

 そして到着したファイト子爵家では、お爺様とお婆様、そして噂のクソババア2号のシンシア伯母さんと、いとこ3人が出迎えてくれた。

 お爺様は、携帯ライトを発明して男爵から子爵になったらしい。

 広い範囲を照らすことが可能な画期的な発明品で、今では旅の御供として馬車には必ず取り付けられてるんだって。


 他にもぼちぼち発明品があって、意地悪バコード子爵家より裕福らしい。

 だからこそクソババア2号は、格上の伯爵家から嫁入りしてきたそうだ。

 母様情報だと、向こうから強引に婚姻を迫ったとか。爵位よりお金?

 まだ2歳児なのに、大人の事情が理解できるって・・・なんだかなぁ。



「お帰りなさいルクナ。一応バコード子爵からは先に説明のお手紙をいただいたのだけれど、縁切りで追い出されるなんて常識では有り得ないわ。

 そんなにお金に困っていらしたの?」


 お婆様は優しく微笑みながら母様を抱き締め、心配そうに事情を確認する。


「ええ、お母さま。バルトラの初級学校のお金も出せないから、主人が遺してくれた戦没者支援金を全額出せと言われて・・・」


「何だと! バコードの奴、嫁を働かせて利益を得ていたくせに、孫の学費をケチったのか! 

 信じられん。今まで貸した金は直ぐに返済させよう。そして今後二度と貸すことはない。

 お前の為と思い私が決めた結婚だったが、苦労させてしまったな」


 お爺様は悲しそうな顔をして、母様の右肩に手を置いて謝った。


「お爺様、皆様、今日からお世話になります。長男のバルトラ4歳です。どうぞよろしくお願いします」


「しゃんたでしゅ。よじょしく」


 兄さまに続いて私もしおらしく挨拶をする。

 もちろん警戒されないよう、ぼんやりっ子バージョンよ。


「まあまあ、バルトラはちゃんとご挨拶ができるのね」と、お婆様がにこにこしながら兄さまの頭を撫でる。



「変なの。ねえママ、この子、弟のホスディーと同じ2歳なのに、ちゃんと挨拶もできないなんて、頭が悪いの?」


 私たちの様子を黙って見ていた従姉のナリスティア6歳が、私を指さして予想通りというか狙い通りというか、初っ端から喧嘩を売ってきた。


「ナリスティア、そんなことを言ってはダメよ。サンタナリアが可哀想でしょう? フフフ」


 フフフ? なるほど、確かにクソババア2号で間違いないわね。

 自分の息子と同じ歳の子が、取るに足らない娘だと分かり嬉しくて笑っちゃうってところかしら?

 いやいや、でもお宅の長男アルシス4歳も、うちの優秀な兄さまと同じ歳だけど大丈夫?


「ああ、バルトラは職業選別で専門職の【教育】を授かったそうね。

 うちのアルシスはね、義父様と同じ中位職の【技術】を授かったの。

 発明ではなく建築だけど、将来は約束されているわ。だからファイト子爵家の未来は安泰なのよ」 


 ああ、職業ランクが上だから余裕ってこと?・・・なるほど。 


「ふ~ん、バカな妹と【教育】の兄ねぇ・・・せいぜい弟のアルシスを支えるために頑張ることね。フン」


 祖父母には聞こえない小声で、バルトラ兄さまを見下すナリスティア。

 痛い、いたた、大人から見えないように私をつねるのは止めて!

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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