15 サンタさん、魔法を披露する(4)
ここはバババーンって実力を発揮して、お爺様にも認めてもらうべきかな?
それとも、下位魔術くらいのレベルで済ませた方がいいのかな?
いや、そもそも下位魔術のレベルってどれくらいなの?
「あのー、下位魔術師のレベルって、この部屋の的を全て当てるくらいですか?」
「はあ? 魔術師のレベルも分からないのに、魔術師試験を受けると豪語していたのか?」
このガキは何を言っているんだって呆れ顔のファーズ魔術師は、お爺様に問い質すような視線を向ける。
「正直言って、私も魔術師については詳しくない。
王立能力学園では魔術師学部は別館だったし、学園の魔術大会で披露される、高位魔術くらいしか実際に見たことがない。
それにサンタは、魔術師から魔術を習っていないので、実力がどの程度なのか・・・実は、これから初めてサンタの魔術を見るんです」
「何ですって!」と声を上げたのは、協会の3人全員だ。
信じられないって驚いた顔は、次第に怒りの表情に変わっていく。
……ああ、このままだとお爺様が悪く言われちゃう。
……よし、作戦の練り直しだ。
「承知しました。やれるだけやってみます。
でも、これだけは言わせてください。私が魔術師試験を受けたいと思う気持ちは、決して遊びでも皆さんをバカにしたいからでもありません。
私は真摯に、いつか金級トレジャーハンターになりたいと思っています。
父様を戦争で亡くし、爵位を狙う嫁の嫌がらせに耐えている母様に、1日でも早く家を買ってあげたいんです」
私は真剣な表情で胸の前で手を組み、「母様、もう少し待ってください。私は決して身内に殺されたりしません。必ず、必ず独立してみせます」って、ちょっと涙ながらに語ってみた。
「・・・・・」
『・・・』
……ここは対立するより健気な幼児を前面にだして、懸命に頑張っているんだよって、同情を誘う作戦でいく。
『ちょっと、なんでサーク爺まで無言なの?』
『いや、今の言葉に嘘は入っておらんが・・・サンタよ、本当は50歳・・』
『違います、私は3歳の可愛い可愛い幼女です』
『・・・ちと違う気が・・・』
『はあ? 何か言った?』
『いや、何も言っておらんぞ・・・』
「まあ、やれるだけやってみろ」
よし、ファーズさんの怒りの表情がちょとだけ緩んでる。
「サンタ、行きまーす!」
私は全ての的を確認し、最初に大きな岩を破壊することにした。
そうすれば、小さな的に当てる石礫が用意できる。
私が得意なのは風魔法だもん。石礫を集めて一気に的に当てればいいよね?
大きな岩の前まで走っていき、岩に両手を当て「念破、砕けろ!」と言って一点に魔力を集中し一気に流し込む。
ガコ、ピシッ ドガーン!!!
……よし、いい感じの石礫が出来上がったわね。スタートラインに戻って的に当てるわよー!
……あっ、これって、時間も関係あったのかな? 早く的に当てた方が良いのかな?
「いけ、同時に手前の的3 ウインドシュート!」
シュバババ、ゴン! ゴン! ゴン!
「次は後ろの3つ、ウインドシュート!」
バババ、シューッ バン! バン! バン!
次は「エアーアタック」と言ってちょっと高く飛び上がりながら、天井の的にも「ウインドシュート!」と言って石礫を当てる。
ガッコン ヒューッ ドーン!
……ありゃ、天井の的って石に描いてあったんだ。
無事に着地した私は、3分の1くらいの的を残した状態で、全部当てた方がいいのか訊こうと思い、試験官であるファーズさんに視線を向けた。
「・・・・・・」
……ん、なんで全員が口を開けて呆然としているの?
……まさか、これくらいじゃ下級魔術とは言えないとか?
「さすがサンタ師匠! 今日も素晴らしい攻撃でした」
最初に声を発したのは、キラキラしたブルーの瞳で私を見ているアンタレス君だった。
お爺様とサブチーフはやや放心状態で、チーフは何故か階段の所まで移動して固まっている。ホッパーさんは嬉しそうにうんうんと頷いている。
「な、な、何だ今の魔術はー!」
ファーズ試験官はそう叫んで、最初に撃破した大きな岩の所へ走っていき、次に吹っ飛ばされた的の残骸を見付け、拾い上げて「あり得ん!」と再び叫んだ。
「あれ、吹っ飛ばすのはダメだったの?」
「い、いや、全然構わねえ。あれ程見事に吹っ飛ばす【下位・魔術師】なんて居ねえからな。ホッパーさんの話は本当だと認めよう。
俺の人を見る目が、雲って、いや、疑って申し訳なかった。
え~っと、確認するんだがサンタさん、君は魔術師になりたいんじゃなくて、金級トレジャーハンターを目指すって目標で、間違いなかったよな」
放心状態だったサブチーフが再稼働し、アンタレス君と同じように瞳を輝かせ、私の両手を握り興奮したように顔を近付けて確認してきた。
……ちょっと近い近い、この話し方が素のサブチーフなんだね。
「うん、1日でも早く、ここの魔術師試験に合格し、古代都市に潜って活躍したいんです。
魔術師になって、貴族のドロドロした争いや足の引っ張り合いに巻き込まれるなんて、真っ平ごめんだから」
「そうでしょうとも。母上のために家を買うんですよね。素晴らしい考えです。
おめでとう。魔術師試験は合格です。直ぐに協会認定魔術師証を渡します。
今日から君は、魔術を使える銅級トレジャーハンターです!」
凄く嬉しそうにニコニコしながら、いつの間にか階段前からチーフがやって来て、魔術師試験は合格だと言ってくれた。
……ありゃ、ファーズさんの判定はどうなの? いきなり銅級? えっ?
「ちょっと待ったー! ヨクルドチーフ、何を勝手に決めているんですか!
サンタさん、チーフに騙されてはいけません。
貴方は、トレジャーハンターではなく、魔術師として登録すべきです!」
少し前まで叫んでいたファーズ試験官は、私の両肩をガシッと掴み、軽くゆすりながらギラギラした瞳で私に提案してくる。
……ちょっと、肩が、肩が痛いです。ねえ、私って本当に合格?
いつもお読みいただき、ありがとうございます。