表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
145/149

145 悪意ある者(3)

 魔術師学部のエバル教授に続き、今度は商業連合の会長がずいっと前に出て意見を言い始めた。


「いえいえ魔術師学部エバル部長教授、これは王立能力学園だけの問題ではありませんぞ。

 商業連合も多大な迷惑と損害を被ることになる。貴重なアースドラゴンを、その価値も分からぬ愚か者にタダで渡すなど言語道断。

 そもそも、ハンターが討伐した素材を売るのは当然の権利だ。

 最低白金貨30枚の素材を、何故無能の防具に使おうとする! バカなのか?」

 

 商業連合の会長が怒りのあまり、バカと口を滑らせてしまった。


 ……軍の指揮官が、凄い悪人顔で会長を睨んでる。この男って怖いものなしなの?


「ど、どうして王立能力学園の学部長が? 何故商業連合の会長まで?」


 ……フフフ、このメンバーと喧嘩して勝てるかしら国務大臣?


「鑑定士学部部長のメーナイです。

 商業連合会長、鑑定士として申し上げるが、貴方の言われた白金貨30枚には、このアースドラゴンの魔核の値段が入っていません。

 これ程の高位生物、どれだけ素晴らしい魔核が入っているのか、想像するだけで興奮してきます」


 メーナイ教授の瞳は、心から魔核を楽しみにしている感じでキラキラしている。

 確かに、もしかしたら10センチを超える魔核が入っている可能性だってある。魔術具の鑑定士にしたら垂涎の魔核だろう。


「ああ、そうですね。魔核が入っている可能性もありますね。折角ですから調べてみましょう。どの道、今日中には解体に回す予定でしたから」


 私はそう言って、王太子の前にデデンと横たわっている巨大なアースドラゴンの前に立ち、上級魔法魔力感知を使ってアースドラゴンの魔核を探す。

 当然、教授や商業連合の会長も寄ってきて、ワクワクしながら見守っている。



「王太子様の御前で、何を勝手なことをしている!」って、国務大臣が怒鳴った。


「構わん、私も魔核があれば見てみたい。サンタさんやっていいぞ」


 王太子の許可も出たので、私は慎重に魔核のある場所を探っていく。


「う~ん、凍っているので上手く感知できません。王太子様、氷を融かしてもいいですか?」


「構わん、だが、水浸しになるのではないか?」


「いえ、私が溶かしてアレス君が水魔法で窓から外に放出します」


「はあ?」と言ったのは、恐らくこの場に居た全員だと思う。


 アレス君が直ぐに私の側に来て、2人で解凍処理と水処理について打ち合わせをする。

 王子もやって来て、会議室の窓を開ける係りをやってくれる。

 念のためか、私のよく知っている王宮騎士副団長もやって来て、大丈夫かと心配してくれる。


 私はアースドラゴンを魔法で持ち上げ窓の側まで移動し、直ぐに熱魔法を使って氷を融かしていく。

 アレス君は、融けだした水分を水玉にして空中に浮かせ、そのまま窓の外へと移動させ捨てる。


 始めは呆然と私たちの魔法を見ていた教授たちだけど「なんだこの魔術は!」と叫び、「これは魔法ですよ皆さん」とエバル教授が胸を張る。

「いつか私もこれができるようになるのか」って、王太子が瞳を輝かして呟き、なんだかもう何のための集まりだったのか分からなくなっていく。



「魔法? はあ?」って、国務大臣は何かを思い出したようで、みるみる顔色が悪くなっていく。


 ほぼ氷が融けたところで、私は再び魔核を探して魔力感知していく。

 すると、首の付け根あたりで大きな反動があった。

 私はウエストポーチからナイフを取り出し、ググっと力を籠め首に斬り込みを入れ手を突っ込んだ。

 手で握った感触では、優に10センチを超えている。


 いつの間にか最前列に割り込んでいたトレジャーハンター協会のボルロさんが、「魔核だけでも売ってください」と懇願してくる。


「この魔核、真っ黒だわ。こんな魔核は初めて見るけど、誰か知ってる?」


 私は取り出したちょっと禍々しい感じの、15センチを超えている黒い魔核を皆に見せて訊ねた。


「私は王族だけが読める禁書庫で、黒い魔核について書かれた古書を読んだことがある。

 それは空飛ぶドラゴンや、海龍と呼ばれているモノたちから取れる魔核で、魔術具10台を1年起動させる魔力量に匹敵する宝だと書いてあった。

 あれを読んだ頃は、魔力についての知識が無かったから意味が分からなかったし、神話くらいに考えていた。


 だが、今ならその意味が分かる。

 サンタさん、いや、大賢者様。どうかその魔核を、我が王家に、エイバル王国に売ってください。

 王家に伝わる魔術具の中に、大量の魔力を必要とし起動できない魔術具がたくさんあります。どうかお願いします」


 いつの間に会議室に入ってきたのか王様が私の前に来て、黒い魔核について語りだした。

 そして、なんでか大賢者ということを盛大にバラシしてくれた。

 国王自らが真摯に頼むもんだから、財務大臣も王宮監察官も一緒に頭を下げる。


「だ、大賢者?」


 そう呟いたのは、国務大臣と軍の指揮官、そして商業連合の会長、トレジャーハンター協会の2人だった。

 ということは財務大臣も王宮監察官も、私が大賢者だと知っていたことになる。


 ……ムム? どうしてこんな愚か者をゲートルの町に派遣したのか不思議だったけど、2人の不正を知っていて、また政治的失脚に利用されたんだ私。ムムム!



「サンタさん、こういう無礼者が後を絶たないので、もう大賢者として表に出てください。

 国王と並ぶ地位であり、ガリア教会の最たる保護対象者である大賢者様をお守りするためにも、名誉侯爵であることも含め、どうか名乗りをあげてください」


 国王の隣に並んで王太子も頭を下げるけど、全然守る気ないよね? また利用してるじゃん。理不尽!



『サンタや、そろそろ潮時じゃ。大賢者と名乗れば、こういうバカな奴等に喧嘩を売られることもなかろう』


『そうねサーク爺、また政治的に利用されるでしょうけど、無礼者は確実に減るわね。利用された分は迷惑料をぶん取ればいいわ』


 サーク爺に続いてパトリシアさんも、大賢者と名乗ることを勧めてくる。

 他の守護霊たちも、悪人退治料を取って生活の足しにすればいいと勧める。


「分かりました。冬期休暇明けに学校で大賢者だと名乗りをあげ、教会長と一緒に大賢者歓迎式典に出席します」


 ……ふう、仕方ないかぁ貧乏だし。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ