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144 悪意ある者(2)

 翌朝早く、私はアースドラゴンを凍らせて素材用の空間拡張リュックに収納し、王宮の馬車に乗って皆で王都に戻った。

 王宮から来た国務大臣と軍の司令官は、昨日の夕方にはゲートルの町を出たらしいから、先に王宮に戻って、自分たちに都合のいい工作でもする気だろう。


「王宮魔術師団と併合された軍は、マウントの取り合いで酷い状態だと聞いていましたが、あからさまに己の利益のために動くとは・・・本当に情けない。

 しかも、アロー公爵の孫であるアレス君に対する態度も放漫だった。

 サンタさんには不敬を通り越し、処罰が必要なレベルでした。

 国務大臣は大賢者に関する書類にサインをしているはずなのに、あれほど無知では、大臣としての資質を疑ってしまいますね」


 昨日の会議に書記として参加していたセイエス先輩が、馬車の中で怒りを露わにする。


「ふっ、王子である私に対しても尊大な態度がとれる奴等だ。大賢者様に喧嘩を売ってしまったと分かっても、同じ態度をとるような気がするぞ。

 でもなぁ、王様も父上も、空間拡張バックを楽しみに待っているので、彼奴らの思い通りには絶対にならないだろう」


 エルドラ王子も、あの2人の態度や言動は許せないと、セイエス先輩が書いた議事録を見て黒く笑った。


「折角だから、講師バッジをくれた学部の学部長も王宮に連れて行きましょう。

 空間拡張ボックス製作の鍵を握るアースドラゴンという奇跡の素材を、軍の指揮官が自分の防具や盾にするため、そして国務大臣が身内の商会を儲けさせるために奪おうとしていると説明すれば、皆さん王宮に殴り込んでくれると思います。

 商業連合の会長も、喜んで参戦してくれるでしょう」


「えっ、商業連合の会長まで参戦したら、空間拡張ボックスのことがバレちゃうよアレス君。今まで以上に忙しくなっちゃう。

 まあ、空間拡張バックは、国務大臣関連には絶対に売らないようにしてもらうけど」 


 なんて会話をしながら、夏季休暇にもゲートルの町に行こうと5人で盛り上がった。

 もっと【聖なる地】の調査をしたい王子と、トレジャーハンターにも興味を持ったセイエス先輩が、7月に王子が下位・魔術師に合格したら、一緒にトレジャーハンター登録をすると言いだし、アレス君と一緒にびっくりした。


 登録パーティー名を【最強魔法使い】にしようとアレス君が言ったので、魔法の練習を始めたばかりの兄さまとセイエス先輩が、顔を引き攣らせていた。

 頑張れ兄さま。




 王都に到着した私たちは、冬期休暇中の学園に寄った。

 このままではサンタさんが国から出ていく。緊急事態だ。というメッセージを王子が書いて、学部長たちを呼び出した。


 まあ工学部のツクルデ教授は、休暇中なのに学園で魔力量測定魔術具を作っていたから、凍ったアースドラゴンをドーンとリュックから取り出し、ゲートルの町での出来事を報告した。

 もちろん、アースドラゴンの素材で空間拡張ボックスが作れるかもって言ったよ。そしたら商業連合も巻き込むぞと言って、直ぐに出掛けて行った。



 時刻は午後3時。

 王太子に呼び出された私たちは、自信満々って表情をした国務大臣と軍の指揮官、財務大臣と王宮監察官、王宮騎士副団長、そして王子が待つ会議室に入った。

 私たちは学生なので、付き添いとして教師を連れてきたと申告する。

 私とアレス君は、家に帰って制服に着替えている。


「はあ? あんな子供が2人とも王立能力学園の学生だと!」


 国務大臣は驚愕の表情で、王立能力学園の制服を見て叫んだ。

 この人、本当に世事の噂に興味がないんだ。王子が友人だって言ったのに。


 トレジャーハンター協会本部の協会長と副協会長もやって来て、王太子の裁定をうけるべく、3つのグループが持論を展開する。


 最初に意見を言ったのはトレジャーハンター協会で、アースドラゴンという神話級の生物を討伐したことを、広く世間に知らしめ、できれば競売に掛けたいと主張した。

 そして、国務大臣と軍の指揮官が、ハンターに対し暴言を吐き、検分ではなく販売を強要するのは、越権行為であり遺憾だと苦言を呈した。


 次に意見を言ったのは軍の指揮官だった。

 隣国との戦争を考慮するべき現状から、軍の指揮官や上官の身を守ることは当然であり、軍の仕事の重要性も分からないハンターが、自分の利益のために素材を売らないのは許し難いことである。

 そもそも、売るのではなく軍に献上すべきだと主張した。


 ……へ~っ、国ではなく軍に献上ねぇ・・・


「軍の指揮官や上官は、アースドラゴンの素材じゃないと戦えないのか? 2年前に大トカゲの素材で防具を新調していたではないか」


 横から口を挟んだのは財務大臣だった。


「はい、ですから無償提供させるのです」と、今度は国務大臣が口を挟んだ。


「ふっ、前線で戦うこともない指揮官は、大トカゲで充分でしょう?

 大きな出費となるのは兵の食料や武器等ですが、それらの物資運搬に関わる人材や荷車を死守する方が、アナタの防具より大事じゃない?

 国費の削減や国益より、自身の安全だけを考えるなんて、笑えるわ」


「なんだとガキが! お前なんかに国益を語る資格などない!」

「そうだ、王太子様の前で、なんたる戯言を!」


 国務大臣と軍の指揮官が、怒鳴って私を睨み付けた。



「呆れるわい。僅か数人の防具のために、国策である空間拡張ボックスの開発を邪魔するとは、何が国益になるかも分からない愚か者が大臣だとは情けない」


「まあまあ工学部ツクルデ部長教授、王立能力学園の魔術師学部と工学部の講師であるサンタさんと、我が魔術師学部の講師でもあるアレス君に喧嘩を売ったんですから、今回の件は広く世間にも問い掛け、全面戦争・・・いえ、国務大臣と軍の持論が正しいか、王立能力学園の2人の天才が正しいのかを、はっきりさせる必要があります」


 我らは教育者、多くの学生や卒業生を教え導かねばなりませからねと、魔術師学部エバル部長教授が、フンスと鼻息も荒く登場し、国務大臣と軍に正面から喧嘩を売った。


 皆さんここに来る前に、アースドラゴンを見て大興奮し、これは歴史的な大発見であり、学術的にじっくり研究すべき素材だと歓喜していたから、軍人の防具? はあ?って怒ってたもんね。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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