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143 悪意ある者(1)

 最初の1週間は、いろいろあったけど無事に過ごせた。

 でも次の週の途中で、ハンター協会本部の協会長や副協会長、王宮から何故か国務大臣と軍の司令官がやって来て、アースドラゴンの検分をすることになったので、私たちは採掘が1日しかできなかった。

 王子の遺跡調査も、検分次第では中止になる可能性がある。


 貴重な冬期休暇なのに、偉い人たちにはトレジャーハンターの予定なんてお構いなしよ。ぷんぷん!

 しかも、アースドラゴンは売らないと言っているのに、それを常識知らずの我が儘みたいに言われて、私とアレス君はキレた。


「売るなら白金貨50枚。1エーンたりとも負けられません。

 しかも、王太子様から注文頂いている品の素材にする予定ですし、王立能力学園からも素材を頼まれています。

 もしも納品できなければ、その責任と損失は皆さんに負っていただきます」


 最初から舐められてはいけないので、私は自分の主張をきちんと言う。


「なんだと! 白金貨50枚? 王太子様の注文素材? そんな虚言に騙されるとでも思っているのか! 卑しいハンター如きが大臣である私に向かって生意気な!」


 私の主張に対し、国務大臣と名乗った40代くらいの男が私を見下し怒鳴った。

 その言動には、私のことを良く知っているトレジャーハンター協会の新協会長であるボルロさんが顔を顰めて反論した。


「卑しい? それはサンタさん個人を指して言われたのでしょうか? それともトレジャーハンター全員に対してでしょうか?」


「この生意気なガキに対してだ。まあトレジャーハンターも同列だが、中には貴族家の者が居るとは聞いているから例外はあるだろう」


 ハンターを完全に見下し、私なんて平伏して言うことを聞くのが当然と思っている。国務大臣はそういう人間だ。


 この人って、国務大臣なのに私が【大賢者】だって知らないんだ。へ~っ。

 だからって、ハンター協会の支部でそれを言っちゃあダメなんじゃない?

 この会議室には、チーフやサブチーフ、トレジャーハンター協会のトップ2が居るんだから。

 全員が凄く怖い顔をしてアンタを睨んでるわよ。鈍感なの?



「軍の役に立つ素材と聞いてきたが、確かに頑丈そうな皮は使えそうだ。ゴツゴツした部分は盾として使ってやってもいいだろう」


 ああ、この軍の指揮官って奴も、役職を振りかざして好き勝手する類いの人間だ。完全に上から目線。そして場の空気を読む気がない。

 脂ぎった顔も気持ち悪いし、隊服のボタンが飛びそうな程にお腹が出てる。


 協会長のボルロさん情報によると、国務大臣と軍の司令官は従兄弟らしい。

 国務大臣は国内最大の大領地を治めるリースル伯爵の嫡男で、次期伯爵候補。

 軍の司令官は同じ領地の子爵家を継いでいるから、身分は子爵。

 協会長のボルロさんは伯爵だし、チーフだって子爵なんだけど、軍の司令官ってそんなに偉いの?


 国務大臣の側室は、軍に武器を納入する商会経営をしている男爵の娘だと、ボルロさんが追加情報として会議の前に教えてくれた。

 その商会は、トレジャーハンター協会からも素材を買うらしく、よくない噂もある商会だけど、ゴールド会員だから無下にもできないんだって。

 まさかと思うけど、アースドラゴンで一儲けしようとか思ってる?


 ……大領地の伯爵家嫡男って、こんなのばっかりなの?


 ……身分だけで喧嘩するなら、この場で私が一番上になるけど、こんな奴等に名誉侯爵だとは名乗りたくない。



 どうしてこういう輩が王宮から来たのか理解できないけど、いい加減にしないとアレス君がキレる。

 アレス君は、私を傷付けようとする者には、身分を使ってでも容赦しない。

 少し前まで私が守ってたのに、最近ではアレス君が私を守っている。


「アースドラゴンは私とサンタさんの所有物だ。貴方たちに決める権限などない。

 そもそも、サンタさんはアロー公爵家の子爵であり、銀級ハンターだ。

 今の暴言は、魔術師協会の会長であり祖父でもある、アロー公爵に報告させてもらう」


 アレス君は身分証を取り出し、2人の無礼者によく見えるように見せつける。


「な、なんでアロー公爵の孫が、トレジャーハンターみたいな真似を……」


 国務大臣は少しだけ顔色を変え、アレス君をじっと見て値踏みを開始する。

 不出来な孫なんだろうな、とか、私生児か?って考えているのがまる分かりの視線を向け、悪びれる様子はない。


 ……公爵の孫でもハンターだと見下す。これが高位貴族の普通? 


「いや、こんな子供が子爵? いくら公爵の孫でも嘘はいかん」


 軍の司令官は、アレス君を噓つき呼ばわりし、私を見て鼻で笑った。


「分かりました。アースドラゴンの件は、王都に帰って王様と直接話すことにします。サブチーフ、私の友人を呼んでもらっていいですか? どうやら、私の身分をお疑いのようなので」


 ……フフフ、私だって容赦しないよ。



 で、怒り心頭でやって来た王子は、真顔で2人を睨み付けた。


「君たちは、王立能力学園とアロー公爵家、そして王子である私に喧嘩を売ったという認識で間違いないな?

 このアースドラゴンは、私の友人であり王宮調査団の護衛でもあるサンタさんとアレス君の所有物だ。裁定は父である王太子が下す」


 国務大臣とはお互い顔見知りだった王子は、王族らしく完全上から目線で国務大臣と軍の司令官に言い渡した。


 私は使える者は王子だって使う主義だ。

 王子が介入したから、トレジャーハンター協会もアースドラゴンに関して勝手な行動はとれなくなった。



 王都まで運ぶとアースドラゴンが痛むとか、素材が勿体ないと国務大臣が吠えたけど、皆は私が空間拡張リュック持ちだと知っているから完全無視した。 


「王都に戻った時、貴重なドラゴン素材が痛んでいたり、使い物にならなくなったり価値が下がった時は、このガキの責任だからな!」


「笑わせる。それは所有者であるサンタさんが口にすべきことであり、何の関係もない軍の司令官如きが、口を挟むことではない」

 

 あっ、ボルロさんが怖い顔して完全にキレた。



 守護霊のトキニさん情報によると、「ハンターを友人にされるなんて国の先行きが心配だな」と国務大臣は真顔で言い、軍の男は「戦争が間近なので王も許可するはずだ」と、会議後に豪語していたらしい。 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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